特別はお互いさま






 二宮隊の隊長を務めている二宮匡貴は苗字名前の人生の師匠である。『ボーダーで最も世話になっていると思う人は?』そんな質問があったのならば、彼女は真っ先に『二宮匡貴』の名前をあげるだろう。苗字名前が入隊してから、暫く期間をおいての接触であったとはいえ、もうずっとお世話になっている自覚が本人にすらある。それくらい二宮匡貴の存在は苗字名前の中では大きなものであり、二宮匡貴にとっての苗字名前の存在も同じくらい大きなものだった。

 二宮匡貴は自分の兄のような存在だと苗字名前は、かつて同じ部隊に所属している当真勇に説明した事があった。その言葉を受けて、当真勇も『的は得ているな』と納得した。つまり、第三者の目線に立って 彼らの関係を見たとしても、当人のいうように『兄妹』のように映っているということだった。共に行動していた期間が長いからというのもあって、親しい関係に見えるから、という理由も少なからず存在はしているのだろうが、結局は二宮匡貴の方も苗字名前やその他のボーダー隊員が考えているように『妹』のように彼女を扱っていたからだろう。



「ねえ、二宮さん。言わなかったけど、私フリーの時に二宮さんの防衛任務に同行したりしてた時、楽しかったんですよ」



 苗字名前は二宮隊作戦室に設けられている椅子に腰を下ろして、足をゆらゆらと揺らしながら、視線を下に落とした。

 二宮さんは、どう思っているだろう。私と共に赴いた防衛任務。それから、共に過ごしたボーダーの時間。少なくとも、私は凄く楽しかった。兄がいたのならば、こんな感じだったのかなと感じることも多々あったし、それに距離が縮まっていく時間を純粋に楽しいと感じながら過ごす事ができていた。だから、二宮さんも同じように考えてくれているのではないだろうか。例えば、そんな事はなかったとしても、私はそうだと信じている。ああ。それにしても、懐かしい。少し前までは、この場所ーーー二宮隊作戦室ーーーには本当に頻繁に訪れていた。それこそ、冬島隊入隊以前を考えるのならば、それはもう毎日のように通っていたのだ。



「(……なんて 懐かしい思い出だろう)」



 二宮さんのことは、二宮さんが東隊に入隊以前から知っていた。実際に関わりを持ち始めたのは、東隊に入隊してからではあったけれど、本当に私がボーダーに所属して間もない頃からの付き合いだった。

 二宮さんの元には二宮さんがいると聞けば、すぐに駆けつけた。はじめの頃は、どちらかといえば、顔を突き合わせることを避けていた。だから、頻繁に二宮さんの元に駆けつけるという事はしていなかった。しかし、二宮さんと初めて手合わせをした あの日から全てが変わった。身の程を理解した。そして本能が、この人は超えられない。『超えたくない』と私に訴えたのだ。その日からーーー否。二宮匡貴に話しかけた日から、私のボーダー人生ははじまったのだ。



「……どうした、急に」



 日々、この人を探して。話しかけて。私は凄く鬱陶しく、諦めの悪い後輩だっただろう。最初の頃は、それなりに酷い扱いをうけていた記憶だってある。けれど、それは私のボーダー隊員としての在り方があまりにも相応しくなかったからで、二宮さんはいつだってボーダー隊員として『誠実』だった。己の実力を極めるという点において、少しのぬかりもなかった。それに比べて、当時の私はボーダー隊員としても、ボーダーという組織に対しても『不誠実』だった。

 恐らく、二宮さんの言葉がなければ、今の私はここにはいない。それだけは、確信を持っていえる。だって私は、この人の言葉がなければ、ボーダー隊員として在るべき姿を模索しようとは思わなかったし、何かひとつを極めようなんて思わなかったのだ。だから、私は二宮匡貴という人間が好きだし、尊敬している。そして、感謝もしているのだ。



「久しぶりの二宮隊で浮かれているのかも。亜季先輩が私と仲良くしてくれるようになってからは2人だけでお話っていうのもなかったし」


 
 だからちょっとだけ、良いじゃないですか。二宮匡貴は手元に置いていた資料に記されている文字を追うのをやめて、苗字名前に視線を向けて「好きにしろ」とだけ応えた。

 苗字名前がなんの意味もなく、この場所を訪れるはずがないことを二宮匡貴は知っている。数日後には、彼女にとって初となる遠征の日が訪れるということも、だ。生きて帰ってこられるかは、定かではない。こちらの世界から一歩でも外に出てしまえば、それは『未知の世界』であることを、二宮匡貴はよく知っていた。生きて帰ってこられるという命の保証はない。外界のものが、その土地に足を踏み込めば、それは『敵』としてみなされる事実も覆る事はない。だからこそ、遠征に行く為には、その隊員に行く資格があるのかの試験が行われるし、一定のレベルに達していなければ、行く事ができないのだ。



「もう二度と書くことなんてないと思ってたんですよ。私、強くないし。全然実力もないし、だから本当は冬島隊に入ったのだってなんでだろうって思っちゃう」



 生きて帰る事が出来るかは解らない。それに行くという上で、生死は保証しませんという内容の文書にサインもする。1度目はボーダー入隊時に父の隣で似たような同意書にサインした事は未だに覚えている。それは恐らく、母の反応も含めてではあるけれど、その書類が私の中で 相当なインパクトを残したものだったからだろう。

 そして先程、人生で2回目となる生死云々の記載のある同意書へのサインを終えた。ボーダーA級2位の冬島隊。冬島隊はボーダーの精鋭部隊で、私には些か荷が重い。それは入隊してから、他のA級部隊との戦闘を重ねる事でいやでも自覚することになった。二宮さんも、加古さんも、そして東さんも。私を見つけると「よくやっている」と声をかけてくれた。けれど、実際にA級2位の肩書きは、私が思っていたよりも、ずっとずっと重たかった。スカウトされて、なにも考えずに冬島隊に入隊した。私の入隊。それは 部隊として功績を積み重ねてきた冬島隊のイメージを左右するものだっただろうというのは間違いない。そして、私に周りが注目するだろうという事も、また間違いなかった。実際に、入隊直後は良いことも悪いことも沢山言われた。そんな時に私は自分の身の程を知るのだ。



「二宮さん、私ね。やっぱりまだ・・・・・・努力をしないでA級入りしたやつなんだって」



 苗字名前の『やっぱりまだ』という言葉がーーー……否。そんな言葉を苗字名前に言わせた人間の存在が二宮匡貴を不快にさせた。

 確かに、数年前。恐らく、はじめて自分に話しかけてきた頃の苗字名前は、ボーダー隊員としては『下の下』と言わざる得ない存在だった。その事は二宮匡貴も知っている。何故ならば、二宮匡貴は初対面の時。苗字名前本人に対して、ゴミを見るような目で苗字名前を視認した後に「お前と話すことは何もない」と切り捨てた経験があるからだ。けれど、今の苗字名前は昔とは全く別の生き方を選択し、模範的な生き方をしている模範的なボーダー隊員であり、何も知らない人間に「努力をしないで、A級にあがった」なんて評価をされていいようなクズではない。自分は苗字名前の努力とその結果を間近で見てきた。だからこそ、恐ろしく不愉快だ。



「お前の人生に今後一生関わる事のない奴の言葉を素直に受け取る必要はない」



 本心からの言葉だった。二宮匡貴は本気でそう思っている。苗字名前は『あの日』から一度だって努力を怠った事はない。それが結果として、今に結びついている。冬島隊は馬鹿じゃあない。だから、使えない隊員だというのであれば、そいつを自部隊に招き入れたりはしない。そんな事は恐らくとっくに……、冬島隊でやっていく中で間違いなく、気が付いているはずだ。それなのにも関わらず、苗字名前の口からこぼれ落ちる言葉は、いつの日からか、いつだって悲観的だ。心の中では、自分が努力しているということも、費やした時間の分だけ実力がついているということも理解している筈なのに、だ。

 だって、そうでないとするのならば、何故、緑川や里見と個人戦をするのか。本当に自信がないのであれば、苗字名前は大勢の前で必ず敗北する その戦闘を引き受けたりはしない。その証拠に名前は太刀川に誘われた個人戦の申し出は必ず断っている。それに、こいつは恐らく無意識だと思うがーーー個人戦をする時。スイッチが入ると いつだって『この戦場の中で一番強いのは自分だ』という顔をしている。だから こいつは、自分の実力も努力も認めている癖に『なにか』のせいで、それを否定しているだけだ。



「にのみーは強いよね。私はそうやってサッパリと割り切る事は出来ないよ」
「俺には『それだけの努力』をしておきながら、どうでもいいやつ等の言葉に流される意味が解らねえな」
「…………私を買い被りすぎだよ」



 せめて、二宮匡貴の前だけでは強くありたい。名前の精一杯の強がりの結果。それはある程度ではあるが、達成できていた。二宮匡貴の前だけでは、出来る限り、最高のパフォーマンスが可能な状態を維持した。何故ならば、二宮匡貴にだけは『弱い自分』『情けない自分』をみせたくなかったからである。

 二宮さんは私をとても評価してくれる。二宮さんは私に期待してくれている。苗字名前は二宮匡貴からの期待には必ず応えたかった。自分を評価して、受け入れてくれる『数少ない人』だったからだ。実際に、苗字名前を評価する人間は多かったが、その想いは誰の想いも本人には届いていない。だからこそ、自分を評価してくれる二宮匡貴だけは裏切る事ができなかった。もちろん、二宮匡貴を含め、加古望、東春秋。そして、結束夏凛も名前を認め、評価する言葉を送ってきた。そういう言葉をくれるからこそ、彼らの前でも出来るだけ、期待に応えてきた。ただ、それでも名前が心の底から信用できる人間というのは二宮匡貴をおいて他にいなかった。何故ならば、『迅悠一』も『東春秋』も、二宮匡貴を除く全ての人間が『過去の自分』に本心を伝えてくれる事はなかったからである。名前に本心からの言葉を送ってくれたのは、あの当時、二宮匡貴ただひとりだった。



「……冬島隊は見る目がある部隊だ。お前の仲間をお前が疑ってどうする」
「同じエンブレムを背負う人は仲間っていう考え、私は好きだけど、必ずしも そうだとは思えない」
「なんだ。なにかあったのか」



 期待してくれるからこそ、二宮匡貴は自分の望む言葉をくれる。「実力のないやつをA級がスカウトする筈がない」と言ってくれる。そして、その言葉に加古さんも賛同してくれたし、東さんも私のA級入りを とても喜んでくれている。それでも、苗字名前は、どうしても周りの言葉の方を信じてしまった。出水公平、米屋陽介がそういったから。それは、はじまりにすぎなかったけれど、彼等の言葉で崩れ落ちた自信を取り戻すには、あまりにも不甲斐ない点が多すぎたのだ。だからこそ、二宮さんのいう、私の人生に今後一生関わることのない人たちの言葉を信じてしまう。だって、仕方がないじゃないか。彼らの言う言葉の方が私はずっと賛同できるし、理解できてしまうのだから。



「冬島隊長達は、どうして私をスカウトしたのかなって最近よく考えちゃうんだよね」



 具体的な内容は話すほどの内容ではないから言わなかった。これは、元々存在する部隊に入ったからこその風当たりだ。だから、これ以上を自分が望む事は許されないと名前は考えていたが、実際はそんな事はないし、向こうが迎え入れたいと申し出てきたのだから多少の我儘は許される。少なくとも、二宮匡貴はそう思っている。故に「隊員に そう思われる事を部隊の奴等がやっている事が問題だ」と、席を立ち上がろうとしたところで名前に「私の捉え方の問題だから」引き止められる。名前はいい加減に二宮匡貴の立ち位置を理解していた。A級の隊長達の中でも、話を聞く限り、気安く話しかけることの出来ない隊長という位置にいるらしい。そんな人が冬島隊長に何かいうとなれば、また変なところで酷い噂が拡散され、そして、部隊内での扱われ方も変わってくるに違いなかった。このように考え、また自分が嫌いになる。また自分の事ばかり考えている。二宮さんは私の事を考えてくれているというのに。

 しかし、名前にとって二宮匡貴が兄であるのと同じように、二宮匡貴にとっても名前は妹ーーー家族に近い存在だった。数年前までは当たり前のように何時間も何時間も共に過ごしていた人間なのだ。それを粗末に扱わないと思っていたからこそ、二宮匡貴らは名前の冬島隊入りを祝福したのだ。だから、それを裏切るというのであれば、もちろん、対応の改善を要求する。折角できた『苗字名前』の大切な居場所が、本人にとって不満なものだというのならば、それは容認できない。



「いい加減に悲観的に考えるのはやめろ」
「どうやってプラスに考えろって言うんですか。私に、そんな鋼のメンタルはないよ」
「そんなに自信がねぇなら、周りの奴等には出来ない事をすれば良い。お前のサイドエフェクトにはソレが出来るんじゃねえのか」
「もうやってる。でも、全然上手くいかないの。やっぱり、ダメだ。私のサイドエフェクトは私には使えこなせない……っ、」



 どうして、ここまで自分のボーダー隊員としての価値を『最低』であると評価しているのかが二宮匡貴にはわからなかった。珍しく行われていたA級部隊の部隊戦。それは苗字名前の為だけに集まり、初めて用意された『正式な部隊での公式戦』だった。

 その時のことを本人は『ログを見返したくもない最低の部隊戦』と評価していたが、実際には少々諦めが早すぎたという点を除けば、それなりにマトモな活躍をしていた部隊戦だ。何故ならば、名前にとってのあれは紛れもなく、はじめての『部隊戦』だったからだ。初戦であまりにも情報が少なかったからこそ、当たった砲撃だったというのであれば『まぐれ』であると認識付けただろうが、あの時のイーグレットを使用しての砲撃は『狙って撃った』ものだった。そしてあの正確さ。恥じる点はなにひとつない。あるとすれば、確実性を優先した緊急脱出という判断の早さだけだが、点を取られる危険性を考えるのであれば、それすらも誤った判断とはいえない。



「どうせ、大した努力してねえんだろ」



 この言葉を二宮匡貴の口から告げるのは少々『賭け』だった。しかし、苗字名前が『努力をしている』ことは二宮匡貴も承知の上だ。だが、ここでそれを肯定できないというのであれば、それはもうこいつの実力を潰そうとする勢力を『排除』していく選択をとるしかない。二宮匡貴の判断は、ある意味では恐らく間違ってはいなかったが、彼の頭の中に浮かんでいる『排除』のやり方は問題にあふれている。

 当然、本人がそれに気づくことはなく、冬島隊を含め、誰も彼を止める事はないのだから、苗字名前の返答次第ではどうなるかわからない。




「してるよ。本当は毎日毎日死ぬほど訓練してる。仮装戦闘モードが解けちゃうくらいの死ぬ程、サイドエフェクトの酔いを我慢してるんだよ。二宮さんにはわからないかもしれないけど、私は ちゃんと……」




 ーーーー''努力をしている''ーーーー

 そのたった一言が苗字名前の口から出てくることはない。自分の中の何かが、それを口にする事を許さなかった。自分の努力は二宮さんのしてきた努力には、きっと到底届かない。そんな人の前で努力をしているなどという言葉を口にすることはできなかったのである。

 それを言葉にしなかった理由として、もうひとつある。名前は自らが『努力をしている』ということを二宮匡貴に理解して欲しいわけではなかったからだ。敢えて、ここで口に出す言葉ではない。そういうことを考えてしまう。そうやって、自分から二宮匡貴にも線を引いている。腹を割って全てを曝け出そうとしない。ボーダーに入ったあの日から。父と母がバラバラになってしまったあの日から、なにか大切なものを諦めてしまった苗字名前はそういう人間になってしまった。誰にも裏切られたくなくて、そうやって人と距離を取るから、上辺だけの関係しか築く事が出来なかったのだ。自分から近付いて、裏切られるのが恐ろしかった。その裏切りは、もしかしたら『死』という形での裏切りかもしれないし、またもっと違った形での裏切りかもしれない。けれど、変わりたいと心の底から願っていたのも事実である。冬島隊は そのキッカケにと、思っていたのだ。しかし、キッカケにと思っただけで結局のところは何も変わっていない。何も行動していない。自分はいつだって、変わりたいという言葉だけだ。



「……私に初めて会った時、何も努力しない奴に教える技術はないって言ったよね」
「そうだな」
「あの時、本当は凄くムカついた。何だコイツうぜえって思った。でも、にのみーは人に言うだけあって努力をしていた。だから私はそれを超える努力をしてやろうって思った」



 実際、ある程度の訓練を習慣に出来たくらいのタイミングから、二宮匡貴の苗字名前への対応は少なからず変わった。目を見てくれるようになった。それが嬉しくて、訓練の時間を増やすと今度は質問に対して答えをくれるようになった。そうした行いを積み重ねていくうちに名前と二宮匡貴の距離は確実に近付いていった。二宮匡貴が自主的にトリオンの扱いを教えようと思えるほどに。

 日々対応が変わっていったということは、二宮匡貴は少なからず名前に意識を向けてくれていたということだろう。苗字名前が二宮匡貴をずっと見つめていたように、二宮匡貴の方がいつの日からか心を動かされたのだろう。確かに、一時期の名前の二宮に対する行動を考えるのであれば、あれだけ毎日毎日話しかけられれば、気に留める対象にはなるのかもしれないけれど、それでも、そこから先、二宮匡貴が苗字名前に抱く感情が必ず現在と同じものであるかというのは定かではないのだから、今の関係があるという点においては自信を持っていいところだ。



「私、もうすぐ初めての遠征なんです」
「そうか」
「最期になるかもしれないから言うね。私、本当は二宮隊に誘われなくてショックだった。だってそれって認めてもらえてないって事だと思ったから」



 だから私は鳩原先輩を超えてやりたいと思ったし、そのための努力なら死んでもやろうって思った。その為ならば、鳩原先輩の技術力を盗むという事になんて、最早プライドのレーダーが振り切って作動しなかった程だ。それに、単純に鳩原先輩を超える努力をすれば、いつかどこかの戦力になると思ったから一石二鳥だと考えたのだ。

 唯一誤算があったとすれば、私自身が あの人の技術力の高さに絶望も何もすっ飛ばして尊敬してしまったことくらい。



「……二宮さん。もし、あの時 私に今みたいに凄いサイドエフェクトがあるってわかっていたら部隊に誘ってくれてた?」
「ねえだろ」
「ですよねー」
「勘違いしているようだが、別に当時のお前の実力を鳩原より劣ると考えたわけじゃねえ。ただ、お前は俺と組んでも活きない。だから誘わなかった。それだけだ」



 自分が二宮隊では活きない駒だったと言うということは、鳩原未来以外の隊員を確実に決めていて、私は狙撃手としての最終候補まで残れていたということだろうか。もしも、そうだとしたら とても嬉しいけれど、差し詰め 二宮さんの頭の中では活きない駒という時点で、私という案は最初から存在しなかったのだろう。二宮さんはつまらない嘘はつかないから 今の言葉は紛れもなく二宮さんの本当に本心だ。思い返してみれば、二宮さんは今『実力で選んだ訳ではない』ということしか口にしていない。人が撃てないという欠点を持ちながら、尚も二宮隊の狙撃手に選ばれた鳩原先輩は、やはり、私程度の狙撃手には最早死んでも追いつくことが叶わないような雲の上の存在なのだろう。実際に、鳩原先輩は、あまりにも凄かった。

 人を撃てなくても戦う方法はある。それを示した狙撃手。その圧倒的な技術力は圧巻だった。どのくらい凄いのかなんて、見ていたら すぐに理解できてしまった。私だって、そんな狙撃手になりたかった。見た瞬間に惹きつけられるような技術力を持ち、その瞬間に『コイツは凄い』と思われる狙撃手になりたかった。ああ、ムカつくなあ。なんで今、もう人生の終わりを迎えるみたいな話し方をしているのだろう。私まだ15年しか人生堪能していない。この間、柿崎さんに「年相応に生きた方が楽しい」みたいに言われたばかりなのに。



「……やっぱり、最期かもってのは取り消します。私は遠征を必ず生き残って、いつか二宮さんにウチに入れておけばよかったって言わせてやります。覚悟していてください」
「その言葉、忘れるんじゃねえぞ」
「じゃあ、私が最高の狙撃手になったらーーー…私ともう一度 防衛任務に行きましょう。そうしたらそれで、強くなったなって褒めてください」
「そんなことでいいのか」
「うん。だって、二宮さんにしてみたら『そんな事』かもしれないけど、私の願いは昔から二宮さんに認めてもらう事なんだもん」



 それ以外を言えと言われても出てこない。他にあるとしたらーーー……いや、ない。間違いなくない。私の1番の願いは『二宮さんに認めてもらうこと』だけだ。それを二宮さんに伝えると「それなら自分が考えておく」と、凄く優しい目をした。あれなんだ、この空気。私がそう思ったのと、ほとんど同時に作戦室の扉が開いた。物凄くいいタイミングで作戦室に戻った亜季先輩達が私と二宮さんの姿を確認して「久しぶり」と優しい言葉をかけてくれたのだけれど、二宮さん相手に滅茶苦茶な事を言ってしまった気がする私は逃げるタイミングは今しかないと確信をして、気持ちを切り替える為に立ち上がり、早足で二宮隊の作戦室を出た。

 残された二宮匡貴と、あまりにもタイミングよく入ってきた二宮隊の3人は慌ただしく作戦室から飛び出していった苗字名前の姿を見送ってから二宮匡貴に視線を移した。



「これでも一応空気を読んで入ったつもりだったんですけど、出直しますか?」
「必要ない。それよりも アイツが遠征前らしい。面倒なストレスを抱え込んだ事が原因で失敗されたら困る。リストを寄越せ」
「うわー、今日も一日監視カメラに張り付いて例の如くデスノート作りなわけだ。大変だねえ、ひゃみちゃん」
「それ冗談でもやめてください」
「だって名前を書かれたら二宮さんに呼び出されるって、デスノートでしょ。俺は結構良い例えだと思うけど。ねえ、辻ちゃん」
「え? ああ、はい」
















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Espoir