きみプレミアム
※コレの続きみたいな感じ
数日程前の話なのだけれど、メディア対策室長である根付さんに呼び出しをくらった。あれかなー……。よくテレビに映ってたよってクラスメイトに言われるから、それについての厳重注意かなあ。けれど、例えそうだとしても、改めて日をおいてゆっくり話そうねと言わんばかりに時間を設けられると、わたしも萎縮してしまうわけで。なんて思いながらメディア対策室に入ると、そこには現在三門市のデパート等でボーダーグッズとして並ぶ嵐山隊のエンブレムバッジなどが並んでいる。ああ、それそれ。そのバッジね、実は私も持ってるよ。いやそこではない。バッジはいいのだ。まあ普通にグッズとしてもよく見かけるし、なんなら私が買うくらいなのだから普通に、滅茶苦茶、とんでもなく推せるデザインなのだ。でもさあ、その横にある等身大人形は如何なものか。いつ見ても怖いから 今直ぐにでも撤去してほしい。不気味すぎる。喋らない嵐山隊が部屋の中で笑顔で固まってるみたいな感じだ。それもう写真でいいじゃん。なんで1ぶんの1スケールのデカい人形を作っちゃったの。ねえ、メドゥーサ来ちゃったの? そうなの? 実際に私は初めて此処に来た時、心臓が止まるかと思った。言い訳じゃあないのだけれども、だってなにあれ怖くない? 笑顔の木虎ちゃんとか怖くない?? ーーーーと、話を戻そう。私は そのメディア対策室で積み上げられた書類を根付さんに見せられていた。いや、内容までは見ていないけれど、ザッとダンボール5個分くらいの書類である。本当根付さんの周りすごい事になってるよ、どうしたの。
根付さん曰く、それは要望書というものらしくて、まあ簡単に説明すれば、メディア対策室長の一身上の都合により、今日だけで良いから雑誌撮影を担当してほしいらしい。いや、嵐山隊にやらせろよ。私は根付さんにそのように言った。言ったのだが、根付さんの中で何がおこったのか突然表情が消えた。完全にである。目が据わっている。怖い。どうしたの、根付さん。この時の私は背筋が凍った。そして根付さんは、ゆっくりと指を、1本、2本、3本と立てて「これでどうかね」と目を細めた。3本ーーー3万円? いやいやいや。「そりゃあ時給にしたら高いけど、苗字は3万のためにメディアに進出なんて事はしませんよ〜」と笑って返した。今思えば、よく笑えたなと少し感心している。
「その10倍は下らないと
考えていたんですけど、残念ですねぇ」
「さん、じゅうまん?」
「キミがどうしても無理だと言うのなら、他の方にやってもらいましょう」
そこからの決断は恐ろしく早かった。
というか、最早自分が何を口走ったのかすら記憶から削除されている程度には脳内を『金』が支配したのである。30万円ってわかる? 普通の社会人の月収だよ。もちろん、ふたつ返事でOKを出した。やったね!! これでゲームに課金できる! なんだか知らないけれど、根付さんマジで太っ腹だな。嵐山隊も これくらい貰っているという事? そうだとしたら、流石にズルすぎませんか……。いやでも、じゅんじゅんに限ってそれはない。綾辻先輩達も真面目だし……。でも、もしもらえているのだとしたら、私は本業をソッチにするね。
当日は嵐山隊の木虎ちゃんと綾辻先輩が私の撮影に同行する運びとなった。私単体だと失礼な態度を取りかねないという根付さんのとんでもなく失礼な采配である。そんな根付さんのお陰で嵐山隊のおふたりは お忙しい中、態々同行してくださっているらしい。さっき、散々木虎ちゃん直々に遠回しにそんなような事を言われたので私も滅茶苦茶ありがとうございますって言っておいた。
それから、気が遠くなるようなくらい長い時間 メイクを施されて服を着替えて、もうこの時点でクタクタなのに、まだ撮影が控えているなんて こんなに恐ろしい事があってたまるかという気持ちでしかないのだけれど、流石に根付さんが30万円を出すだけの事はあると考えると、当然の心労ということだろうか。だとしたら、私はもう多分30万でも安易に仕事は受けないだろう。この真冬に半袖着て撮影とかなんの修行なのかと思うし、真剣に私を殺しにかかっているのかなとすら思う。いや本当に そう思っている。
「あら、貴方も嵐山隊なの?」
カメラマンさんが撮影中にも関わらず、私に話しかけて来た。私の視線はといえば「笑顔笑顔〜!」と可愛く笑う綾辻先輩と物凄い顔をしている木虎ちゃんにばかり向いていたので、もしかしたら コイツ本当にモデル向いてねえなと思って態々話しかけてくれたのかもわからない。ただ、表情が固かったであろう事は間違いないので、間違いなく 理由としてそれは含まれるだろう。
「私は2人とは違う部隊に所属してて……でもとっきーと佐鳥ちゃんとは仲良いですね!」
「時枝くんと佐鳥くんなの?
木虎藍ちゃんと綾辻遥ちゃんは?」
「あの2人は会話する機会がないですし、そもそも私ってほら木虎ちゃんに嫌われてて……」
「あらまあ」
他愛のない話をしながら、たまに指示もらったりして、その指示にも何となくで答えているとカメラマンさんが「ありがとう、良い写真が撮れたわ」と笑ってくれた。後に綾辻先輩に聞いたら、どうやら あのカメラマンさん。物凄く腕の良いカメラマンさんのようで「名前ちゃんはあたりだね」と笑っていたが、恐らくこの人が担当になったことすらも根付さんというとんでもなくできる男の仕業なのだろう。相変わらず、ちょいちょいとんでもないスペックである。ボーダーの幹部クラスに居座っているだけのことはある。
しかし、嵐山隊。こんな表情筋が疲れる仕事をしているなんて、全く恐ろしい人達である。しかも、業務でトリガーの使用は禁止なのでトリオン体は使えず、自分の体力で乗り越えるしかない。しかも、一般人対応という恐ろしく面倒くさいことまで担っているのだから、やべえな、広報。私はつくづく冬島隊で本当に良かったと思う。
「名前ちゃん、寒い中 撮影お疲れさま。
可愛かったよ〜、ねえ? 藍ちゃん」
「……あれくらい普通じゃないですか?」
「そうかな? 私は今回の広報誌の表紙は名前ちゃんだと思うけどな〜」
「そうなったとしても、メディア初露出として大きく取り上げられただけで、私達より向いている云々ではないと思います」
「藍ちゃん、名前ちゃんに厳しくない?」
「普通です」
「うーん、ごめんね? 名前ちゃん」
「え、あ、はい。いつもの事なので」
嵐山隊の2人と一緒にボーダー本部に(無事かの判断を私に委ねるのなら無事ではなかったけれど)無事に帰還して「撮影はどうでしたか」と、食い気味に尋ねてきた根付さんに木虎ちゃんが「問題なくこなせていたので大丈夫だと思います」と言い切った。木虎ちゃんって、実は……というか、普通に仲良くなりたいくらいメリハリ凄いよね。その頭の良さで苗字にピッタリの戦術考えてくれないかなー。いいなー、嵐山隊は。
苗字もメディアに進出なんてしませんよね?と去り際に尋ねると「売れ行き次第ですね」と曖昧な答えを頂いたけれど、まあ売れ行きも そんな大した事はないだろうと思う。それに名前もシッカリと伏せられるらしい。そうでなくては困る。冬島隊の人達もボーダー隊員の皆も、広報誌なんて全然見ないから問題ないと思うけれど、念の為 是非伏せて欲しい。まあ、化粧したくらいの差なので雑誌を手に取られた瞬間に終了するけれどまあ、ボーダーが広報誌なんて買ったって仕方がないのだから買う事はないだろう。
ーーーと、考えていたのだけれど、現実は まっったく残酷なものだった。広報誌はボーダーの嵐山隊には必然的に届けられる。それは嵐山隊が掲載されているから当然だ。では今回の場合はどうなるのか。そう。あろう事か、あの男ーーーつまり根付メディア対策室長ーーーは冬島隊の作戦室にもそれを渡してしまったらしい。当真先輩と真木さんと冬島さんが手に持っている広報誌を見つけて顔に熱が集まるのを感じた。因みに、ちゃんと私の机の上にもあった。
「よう、人気者」
「名前って化粧映えするんだ」
「苗字、こういう仕事を受ける時は一応隊長である俺に話を……」
「ちょっと夜風に当たってきます」
「今昼だぞ、お前」
「うるさい! 空気読んでよ!!!」
「そんなについて来て欲しいのか? 仕方ねーな、今日一日からかい倒してやるよ」
「やめて! 先輩としてどうなの!?」
特に用事もなく、冬島隊のソファに転がっていると中央オペのヤツが4冊の雑誌を俺に押し付けるようにして颯爽と走り去った。なんだよ、急に。そもそも、ウチの部隊は残念ながら こんな雑誌を貰うような事は何もしていない。そうなると、こりゃあ中央オペのミスだな。しかし届けるのも面倒くさい。そう思って、ふと表紙に目を向けると、どうも見た事がある顔が写っていた。取り敢えず、まずは雑誌を確認する。これは月1で発売されている広報誌だった。そうなると俺のこの見たことあるなという感想に間違いはない。しかも、この妙に可愛いような顔の作り、間違いない。俺は真木ちゃんと冬島さんに連絡を入れる。冬島さんは先程開発室で寺島さんと話していたから 直ぐに来るだろうし、真木ちゃんも真木ちゃんで三上と話していたから直ぐに来るだろう。実際に直ぐに来た。
そんな2人に俺は雑誌を投げて「なんでこんな仕事受けさせてんすか」と、冬島さんに尋ねるが、冬島さん自身も全く身に覚えがないと今にも人を殺しそうな圧力を放出している真木ちゃんに懸命に訴えていた。しかし、事実記憶にないとなると、メディア対策室長に苗字が買収されたとしか思えない。一体いくら積まれたら あのカメラ嫌いの苗字が広報誌の仕事なんて受けるんだ。汚い男だな、根付さん。そりゃあ俺達だって、実は一般の奴らにも苗字の人気が広がっている事は知っている。某SNSでも(主に佐鳥のせいで)苗字の存在は知られているからである。
「由々しき事態だ」
これが遡ること小1時間前の話である。解決方法は未だなし。これはマズイ。このままいくと苗字は根付さんの企みによって広報担当になりかねない。いや、本人が雑誌ひとつでこれだけ恥ずかしがっているのだから、もしかしたら有り得ないかもしれないが、苗字の事だ。大金積まれたら動く。この女は そういう女だった。危機感はゼロ。自分が人気の自覚もゼロ。苗字の平和が保たれているのはB級の二宮隊、それからカゲのB級以下への牽制と俺達A級部隊の圧力のお陰だ。
しかし、それが可能なのはあくまでもボーダーの中だけであって、それより外では俺達ボーダー内の権力云々はあまり関係のないものとなる。学校はまだ大丈夫だろう。佐鳥や時枝がいる。だが学校外ボーダー外はどうだ。考えただけでも悍ましい。例えば、例えばだ。今回の件で熱烈な苗字ファンが誕生しないとも限らないのだ。そうなれば、しつこいファンレター、派生すればストーカーにだってなりかねない。いや、寧ろそこまでになってくれたのなら逆に対処しやすい。そうならない、法の裏でコソコソと何かをやるヤツが現れないとも限らない世の中である。もうそういう奴はトリオン兵にでも喰われて死ねば良いんじゃねえかなと思う。
「ーーーで? いくら積まれた?」
「苗字が買収された前提はどうにかなりませんか。ちゃんと30万円貰いましたけれど」
「積まれたんじゃねえか。ていうか、あの人まじかよ。学生にやる金額じゃねーだろ、それ」
「今日食堂のご飯奢りますか?」
「最高かよ、お前」
食堂に行くと、嵐山さんの前に長蛇の列ができていて俺と苗字は嵐山さんが何をしているのかを確認するべく、後ろから覗き込んだ。
そこにあったのは、例の雑誌である。
「じゅ…じゅじゅ、じゅんじゅ〜〜ん!!? 何を売ってるの!? やーめーてーー!!」
「丁度良かった、苗字。うちの副と佐補が苗字の事が好きだと言っていて、良かったら写真を撮らせて欲しいんだが」
「いいけど!! じゅんじゅん なにしてんの!? なんでボーダーで広報誌を売りさばいているの!? 身内金!? なんで!!?」
「今回の広報誌はプレミアで通常の約倍の金額で限定販売をするらしいんだが、根付さんが 是非此方でも売って欲しいと言っていて 販売を俺達嵐山隊が任されたんだ!」
「とっきー達も来るって事!? 苗字の酷い顔の雑誌がボーダーに売りさばかれるっていうだけの ただの公開処刑じゃん!!!」
「? 俺は可愛いと思うが……」
「やめて! じゅんじゅんの破壊力!! お世辞でも嬉しいのに 真顔で言わないで!」
「忙しい女だな、おまえ」
しかし、この大量の段ボールの量……。いくら嵐山隊でも流石に売れないのではないだろうかーーーーと、俺にも考えた瞬間があった。だが嵐山隊の人気(見ているだけで良かったのに、話せるラッキーとか思っているだろうC級、B級隊員)、それから単純に苗字を揶揄いたい勢、ガチ勢などの多くの奴等のお陰で広報誌は飛ぶように売れた。因みに1番買っていったのが、太刀川さん。2番目に小南。3番目に出水と続く。出水に関しては犬飼やらのお使いやらもあるのだろうが、太刀川さんと小南は、その20冊近い雑誌を果たしてなにに使おうというのだろう。恐ろしいガチファンどもだ。なんだアイツ等、怖えーよ。
「うわ、今日の海鮮丼おいひい〜」
「麻婆豆腐は俺のな」
「先輩まだ食べるの? これ以上成長してどうするの? その変な髪を成長させる気ですか?」
「お前の頭もセットしてやろうか」
「それなら冬島隊皆でリーゼントにしましょう。サングラスもかけて次のランク戦挑みますか? 厳ついを極めるスタイル」
「真木ちゃんはリーゼントできねーだろ」
「いや苗字だってできねーから」
「おまえはギャグ枠」
というか、この女はそれで良いのか。
向こうで お前が散々騒いでいた雑誌が飛ぶように売れているのに、コイツもうなにもなかったみたいな顔して飯を食っている。大丈夫か、この女。人生何を考えて生きているというのだろうか。いや、こいつの事だ。考えているようで何も考えていないのだろう。なんて残念な女なんだ。あともう少し、知的で木虎の要素があったのなら一部から絶大な人気を獲得できただろう。まあ、これ以上目を付けられても困るから このくらいのアホで丁度良い。未来に期待だ。未来に。
「おお? マドンナと当真くんだ」
「あ、国近先輩だ」
「きみ達相変わらず仲良しさんだね〜」
「羨ましいだろ。つか、お前も広報誌買ったのかよ。金がもったいねーのなんの」
「私は出水くんがいるから買ってないよ。これは犬飼くんと今ちゃんの分だったり〜」
「それ言っていいやつか?」
「うーん、どうだろう」
少なくとも、犬飼的には絶対にアウトだけどな。しかし良かったのか、悪かったのか苗字は全く聞かずに飯を食っているからマジでコイツは そういう意味で物凄くタイミングが良い(悪いともいう)。苗字は自分が関係ないと思った瞬間から人の話を聞かねえからなー。どうせいまだって頭の中は「(うわー、この海鮮丼マジで美味しいわー、バター今度持ってこよ)」とかだろう。
しっかし、まあ……。これを見るとこいつが雑魚雑魚言われながらもボーダーを辞めなかった理由がわかるというものだ。だって、良く考えてみてほしい。つい先ほどまで嵐山さんに広報誌云々について滅茶苦茶言っていたのに、すでに飯が美味しく食えるって、お前の頭は空っぽか? という話なのだ。
「よーう、苗字」
「げっ、米屋陽介!!」
「お前が当真さんと国近先輩といるとか珍しいなー……で、何話してんたすか?」
「海鮮丼が美味しいって話ですかねー」
「苗字が頭が空っぽだって話だ」
「やあやあ、ミスターYくん〜」
「協調性皆無じゃねーか、この空間」
米屋が笑いながら苗字の肩を抱いて、まもなく海鮮丼を完食する苗字に「そういや出水が向こうで苗字の広報誌広げて遊んでたぜ」と笑うと苗字の表情が消えた。漫画か?ってくらい綺麗に消え失せた。いや、つい今まで笑ってたじゃねーかというツッコミ待ちだろうか。
そんな苗字を見て、国近と米屋は面白そうに、うっすらと笑う。国近は楽しそうに苗字の手を引いて、米屋が先を歩いて誘導をする。出水が広報誌を広げて楽しく話せる相手となると……メンバーは誰だ。三輪はその手の話には乗らない上に俺達(セコム)側の人間だから出水が三輪と見ているという事はない。そうなると緑川は間違いなくいるとしてーーー……と、そこまで考えて顔を上げると3人は既にいなくなっていた。米屋の奴、俺がまだ食ってんのをいい事に話を持ち出しやがったな。やり方がきたねーのなんの。
「うわ、可愛さ えげつねー」
「これとかヤバい。アタシさ、名前の顔ほんと好きなんだよなー!! いずみって知ってんだっけ? 名前、カゲん家で働いてんの」
「マジか!! 今度行くわ!」
「いつもしないポニテで、髪の毛ふわっふわなんだけど、正直アタシでもグッとくる……あ、この雑誌いくらだった?」
「1冊1500円」
「マジか!! アタシにも1冊な!」
「お前いらないっつったじゃねーか」
「余ってんだろー。ケチケチすんなって」
弾バカと仁礼と緑川が雑誌を開いて椅子に座って駄弁っている。ゴミが凄いから、多分先程まではコイツ等以外にも隠岐とか里見とかその辺の誰かがいたのだろう。そんな事よりも、苗字は影浦先輩んとこの お好み焼き屋さんで働いてんのか、今度遊びに行ってやろ。多分スゲー嫌な顔されるけどな。出水と緑川だって、仁礼がグッとくるポイントはわからないだろうけど、苗字のポニテは体育祭以来のレアだから是非拝んでおきたいに違いない。特に緑川は。
「弾バカ、オレにも1冊なー」
「今売り切れたわ。ドンマイ」
「あ、アタシでラスト? ドンマイ米屋」
「ドンマイ、よねやん先輩」
「苗字、アイツ等は責任持ってオレがぶっ殺してきてやるから安心しろ。1日セコムの米屋陽介いきまーす」
右手を上げてスタスタスタと歩いて行って、緑川、出水、仁礼の順に手刀を頭に食らわせてやると3人からは滅茶苦茶なブーイングが飛ぶ。その間も、後ろで太刀川隊のオペレーター国近先輩が愉快そうに この光景を笑顔で動画に収めている。
流石オレと共に当真先輩を切り抜けて『面白そうだから』という理由だけで、此処までついてきただけある人の行動である。
「名前!! 久しぶりだなー!」
「うわ!! 光ちゃん!」
「お前なにやっても可愛いとか卑怯だぞ!! ていうか、三輪に聞いたぞ! お前なんでアタシが教室にいない日に限って 教室に遊びにくるんだよ!! 偶にはアタシに会いに来い!!」
「きゃー!! 光ちゃん可愛いー!!」
「お前のが可愛いわ、馬鹿!!」
何故、苗字にセコムが出来るのか。いや、セコムというのはオレ達が勝手に呼んでいるだけで、しっかりと正式に言葉で表すのならば、『親を超えた過保護野郎集団』である。つまり、セコム(場合によってはモンペ)。しかし、過保護になる気持ちはわかる。普通に可愛いし、普通に愛嬌あるし、普通に努力家で好感が持てる奴だ。まあ、女子からは比較的ウケの悪い苗字だが、このように仁礼のように、仲良くなれば かなり愉快な関係になれる奴だし、偶にマジでうざいけれど、セコムからしたらそんなところも可愛いのかもしれない。実際に良く考えてみてほしい。苗字名前といえば、偶にウザいぐらいマイナス思考で、料理がド下手クソで、女らしからぬ口の悪さと負けず嫌いな性格を抜けば かなり優良物件だった。明るいし、性格も良い。努力家で努力は惜しまないし、可愛い。敢えて言おう。ぶっちゃけ、オレは文化祭の時にハートキャッチしかけた。
大人しめの女子が好きな奴以外は結構苗字は良いと思う。オレも頑張れば普通に1日で良いとこ100個くらい言える自信があるし、頑張れば1週間で苗字にガチな恋愛ができる気がする。実際、お前知ってるか? 犬飼先輩は苗字にマジで惚れてるからな?? 隠してるらしいけど、隠せてねーからな? 犬飼先輩1年位前に大人しめで清楚な奴が好きだって言っていたくせに滅茶苦茶嘘じゃねーか。
「ていうか、名前ちゃん先輩は自分でコレ見たの? 24ページとか滅茶苦茶可愛いよ、この服どうなってんの?」
「いや、8ページのがタイプ」
「いずみん先輩のタイプは聞いてない」
「アタシはダントツで表紙だな!!」
「それは大前提じゃん!!」
「なら、アタシは2ページ!」
「なんでだよ、8ページ目だろ。苗字、お前茶色の服 滅茶苦茶似合うなー」
「やめて!! 苗字の黒歴史を そんなに大々的に掘り下げて広げないで!!! 」
そのうちに 国近先輩も「私も2ページ」と指をさして仁礼と滅茶苦茶盛り上がっていた。ちなみにオレはぶっちゃけ16ページの苗字の黒キャップと黒ジャージ上下が一番好きなわけだが、言わないでおいたら 出水と緑川が、ソレを指差して「コレ好きな奴はド変態だわー、性癖やべー」とオレを見ながら言ってきたので、やっぱり今日はセコムにチクろうと思う。お前らも、今日のこれに対しての制裁を一瞬で終わらせてもらえると良いな。未だに、これがタイプ、あれがタイプと盛り上がる緑川達に顔を真っ赤にして「やめて!!」と、批難の声をあげる苗字の写真をこっそり撮って、セコム代表の冬島さんと当真さんのトーク画面に場所と画像を貼って、俺は清々しい気持ちで、くるりと向きを変えてサッサと その場所から退散した。
その1時間後、出水と緑川からから滅茶苦茶SNSにメッセージが飛ばされてきたけれど、悪いのはオレではないので勿論無視をきめこんだ。また、当真さんと冬島さんからは、よくやった、と1件だけメッセージが来ていた。アンタ等は俺の上司かよ。更に余談だけれど、ボーダープレミアム広報誌は値段が通常の1.5倍もするというのに一千万冊? 一千万部? 知らねーけど、それくらい売り上げたらしい。過去最高だと嵐山さんが廊下ですれ違った苗字に満面の笑みで言っていたから間違いなく過去最高なのだろう。それを聞いた苗字はといえば死んだ魚のような目をして、ソーデスカー、と片言で喋っていた。きっともうアイツ広報に懲り懲りしてんだろうなーと思いながら、太刀川隊からパクッてきたプレミアム広報誌を眺めて笑った。
[Espoir]