正義こそ免罪符
※この語はストーカー行為についての話があるなど好き嫌いが分かれる お話になりますので、閲覧には十分ご注意下さい。
最近帰り道が怖いんですよ。視線も感じるし、それになんだか後を付けられているような気がする。いや、もしかしたら気のせいかもしれないんだけれども!! けれども! 気のせいじゃないかもしれないじゃないですか、と控え目に冬島さんに相談してみると途中で当真先輩が入ってきた事によって強制終了した。何故この話を冬島さんにしたのかというと、まあそれなりに真面目に聞いてくれて且つ信用に値する人だと思ったからである。実際に人選として大きくなにかを間違えているということもないだろうと思う。だって、真面目に聞いてくれそうな嵐山さんは毎日忙しいし、風間さんは そもそもそういう事を話すほど仲良くない。では二宮さんはどうか。話そうと思ったのだけれど、二宮さん大好き人間の犬飼先輩の圧にやられて方向転換した。だから自隊の隊長という人選は全く間違っていないのだ。
冬島さんは、作戦室に入室してきた当真先輩に一度部屋を出ていくように言った。もしかしなくても私に気を使ってくれたのだろうと思い、私は再び会話を再開する。「例えばどのような事が今起きているのか」という冬島さんの問いに対して、私は「ボーダーでは全く感じないんですけれど家に帰ると なんだかずっと監視されているような気持ちになって」と説明する。実際に学校の下駄箱の中には一度だけ妙な写真が置かれていて、私はそれを冬島さんに手渡す。その写真は、私が家で寝転がってゲームをやっている姿が映し出されたものだ。それも写真を撮っているのは室内から……のように見える。怖すぎる。
「それで、やっぱり 警察とかに行った方が良いのかなって思うんですけれど、でもお母さんには迷惑かけたくないし。そんな事知られたら、ボーダーや学校のせいにされちゃうから…」
「ああ、確か苗字の両親は…………しかしそうなると自然な解決は見込めないぞ」
「だから相談してるんじゃないですか」
「暫くは当真の家にいたらどうだ」
「真木さんではなく!? 当真!!?」
「確かに男女はマズイか」
「苗字良い加減に怒りますけど!?」
「まあ冗談は置いておいて…」
「部下の本気の悩みに対して冗談のコメントしてたんですか!!? ひどい!!」
「それは悪かったって」
しかし、真面目な話をすると親を通さないで解決する方法は確かにいくつかはあるけれど平和的な解決にはならないと冬島さんは言うけれど、私は冬島さんの答えに「でも警察を通しても根本的な解決にはならないですよね」と返した。私の回答に冬島さんは微かに目を開いてから、またいつもの表情に戻して私の意見に同調した。
警察に相談したところで今の時代は実際どうなのか分からないけれど、多くの場合は厳重注意で終わると私は勝手に思っている。例え警察の人が強く何かを言おうと、その人は私に会おうと思えばいつでも会えるし、私だって その人を知らないだけで会おうと思えばいつでも会える。なんなら、その人であると知らないだけで普通にすれ違っているかもしれない。
「うわあ、寒気してきた……」
「苗字、仲良い友達とかいるか?」
「馬鹿にしてるんですか!? いません!」
「そういえば苗字が女子と仲良くしてるのは あんまり見ないな……お前、いつも当真や嵐山隊といるだろ」
「同情するなら烏丸京介どうにかして…」
「無理だなあ」
深い溜息をついて「苗字一生ボーダーで生活しようかな」なんて、冗談を言っていると当真先輩が「もう良いっすか?」と作戦室に入ってきた。まあ良くはないのだけれど。そう思いながらも 当真先輩を一度だけ見上げて机に突っ伏した。これからどうしよう。やっぱり、にのみーにも相談しようかな……。でも犬飼先輩怖すぎるし、本当にどうしよう。
「取り敢えず、香取に連絡とってみるか」
「香取ちゃん!!? なんの冗談なの!? 冬島さん! 私への香取ちゃんの対応見たことありますか!? すれ違う度に睨まれてます!! そのチョイスは良くない!」
「なんかあったんすか? コイツ」
「反抗期って事にしてやってくれや、当真」
「アンタ、滅茶苦茶適当じゃねーか」
香取ちゃんはダメなんです〜〜!!!と涙を流し始めるとギョッとした冬島さんが「分かった分かった!!」と両手を上げた。その後すぐに「同じ学校で同学年の方が良いと思ったんだけどな」と呟いた冬島さんの言葉に私は心の中で、それが香取ちゃんじゃなければ大賛成だよとツッコミを入れておいた。
でもほんとうに香取ちゃんはダメだ。
だってあの子、とりおの事が好きっぽいオーラ学校で良くみるし、良く睨まれるし……。香取ちゃんには本当に嫌われすぎている。
「私、今日ここに泊まっていいですか?」
「まあ、苗字が此処で大丈夫なら問題はないが……俺は今日ちょっと外すよ」
「真木ちゃんとお泊まり会でもやってたら良いじゃねーか。大賛成だろ、真木ちゃんも」
「でも真木さんとそんなに仲良くない…」
「部隊で仲良くなくてどうすんのよ。今日をキッカケに仲良くなれ」
「無茶振りすぎる……」
事の経緯を真木ちゃんに話してやれば、まあ真木ちゃんは案の定ふたつ返事で承諾してくれた。同じ部隊の苗字が困っている。そんな事を聞いて、好きなものに関しては とことん面倒見が良い苗字大好きな真木ちゃんが断る筈もない。苗字本人は真木さんと自分は仲良くないだとか仲良しなんて烏滸がましい、とんでもないだなんだと言っているけれど、真木ちゃんの方は あんなんでも苗字の事が滅茶苦茶お気に入りで下の名前で呼んでいる程だ。
苗字を下の名前で呼び捨てているのなんて俺の知っている限りでは二宮さん達、旧東隊を除けば、真木ちゃんと鋼だけだ。いや、小南もか。小南といえば1年位前から、やたら犬飼とコソコソやっているから目につく。まあ仲が良いのだろうと適当に流していたが、本当に仲が良いのかは不明である。
「だから言ったじゃねーか、隊長。あんまり嵐山隊といさせるとテレビに映るんだよ」
「そうはいっても、苗字の交友関係に俺達が口を挟んだり出来ねえだろ」
「それ以前だろ。アイツ等、苗字がベッタリなように見えて完全に周りを牽制してやがんのよ。目に見えない壁っつーの? クラスメイトの牽制位はお手の物らしいぜ」
「警戒心の低い同級生を守ってやりたいんだろ、佐鳥は苗字と付き合いも長いしな」
「昔っから何かあると可愛い可愛い言ってたもんな、今だから言うけど 俺がアイツの名前知ったのも佐鳥経由なんだぜ?」
「それは なによりだな」
「……よく言うぜ、結果いい方向に働いてるから文句は言わねーけどな」
それにしてもストーカーが付くとは可愛いっていうのも徳ばかりじゃねーな。特に苗字の場合は、中学高校と烏丸と同じ学校でありながら仲も良いお陰で女子からのアタリは相当凄いらしい。出水や米屋が一緒にいる時でも香取やら木虎やらは明からさまに態度を変えると言っていたから相当だろうと思う。特に木虎は出水達に対しても相当生意気だった筈だ。それにも関わらず、それを超えるとなると最早想像が付かない(因みに、俺と苗字が一緒にいる時に遭遇した事はない)。
「それで? 随分デカイこと言ってたが 実際にストーカーなんてどうやって対処する気だ? 俺は探偵の真似事はゴメンだぜ?」
「俺も探偵じゃないからな、そこまではしねえよ。でも可愛い後輩のこういう写真が出てきてる時点で見過ごせないだろ? お前も」
「……写真?」
封筒に綺麗にしまってある十数枚の写真はどれもこれも恐らく自室にいる苗字だ。寝巻きを着てベッドに転がってゲームをしているような様子から、おそらく休日。もしくは平日の夜だと思われる。
一見普通の写真だが、どの写真にも統一して現れている写真の特徴として、その写真は室内からしか撮る事の出来ない光景である事と加えて、窓ガラス越しやらから撮ったとは思えない鮮明さ。間違いなく撮影に使われたカメラは苗字の室内にあると言う事だ。
「不法侵入じゃねーか」
「それも疑わしい。苗字の家は苗字が言う通り高級住宅街に並ぶ高級住宅のひとつだからな。侵入は容易じゃねえだろ」
「探偵の真似事はしねェんじゃねーのかい? 隊長さんよ。つーかアンタ、真木ちゃんと苗字がいなくなった途端 口が悪くなるな」
「女にはどうも強く出れねえのさ……さてと、嵐山隊には巻き込んだ責任としてコッチの要件にも巻き込まれて貰おうか」
ウチの隊長は後輩は誰でも可愛いと思うのか思わないのか、結構色んな隊員に甘い。しかし、やはり自分の所の隊員が一番可愛いのかなんなのか俺は兎も角、真木ちゃんと苗字関係には常に静かに目を光らせているような人だ。まあ、真木ちゃんは別段何かあるわけではないから、基本的に冬島さんが気にしているのは苗字なのだが、割合としていたのなら苗字6割、真木ちゃん3割、他1割というところだ。マジで凄い。多分苗字の交友関係が3年も4年もボーダーにいるのに広がらない理由として俺達冬島隊が上がると思う。苗字は俺が知らないだけで俺の入隊時は、まあそれなりに交友が広かったらしい。いや、広くはないが浅く深く交流していたと聞いた。それに関しての良い例として二宮さんがあげられる。それに実際、それを裏付ける証拠として、苗字がウチの隊に入るよりも少し前からいたボーダー隊員の数名とは普通に仲がいい。まず、一部狙撃手組とは かなり仲が良い。古寺とは勉強仲間なようだし、佐鳥は言うまでもない。更に最近知ったのだが、奈良坂とも話せる程度の関係はあるらしい。更に遡るのなら苗字の同期とその前後とも かなり仲が良いらしい。その例として、加古さん、烏丸、時枝。それからカゲと出水だ。後、本人は勝手に言っているが天羽とも それなりに話すらしい。あくまで本人が勝手に言っているだけで、天羽に関しては事実関係は未だ不明である。
話は完全に脱線したから戻すけれど、まあ冬島さんの中で相当可愛い(しかも苗字に関しては冬島さんが目を付けた唯一の)隊員だから、まあストーカーなんかされたりなんかしたら面白くないし、苗字に相談なんてされたとなれば動かないわけにはいかないという事なのだろう。嵐山隊も巻き込むと言った時の目は完全にマジなやつだったし、嵐山隊は諦めて巻き込まれて欲しい。
「じゃあ おれ達は適当に理由を付けて苗字の家に入って、撮影に使用された道具を見つければいいって事ですか?」
「はい! 見つけてどうするんですか!?」
「犯人を絞り込んで牽制するんだと」
「おれと佐鳥がカメラを見つけられなかったら どうするんですか? 回収されている可能性がないとは言い切れないですよね」
「間違いなくあるだろ。あれで あの馬鹿は数ヶ月無視を決め込んでたらしいぜ? 気付かなかったのか? 同じクラスなのに」
「エッ!!?」
「……その数ヶ月、おれ達より長い間 苗字と過ごしてた当真先輩が気付かなかったのに おれ達に気付けるなら苦労しないですよね」
「言ってくれるじゃねーの、とっきー」
遠回しに、お前らのが酷いじゃねえかと言ってくれるあたり時枝はクラスでもこんな感じに遠回しに壁を作っていくタイプなのだろう。好意には好意で返し、悪意には悪意で返す。その分、苗字や佐鳥のような好意100%の馬鹿には、それだけの好意で返している。故に苗字の時枝と佐鳥への信頼は恐らく苗字の中で同率一位とかそんなんだろう。時枝としても同じ部隊の佐鳥を嫌う理由がないし、同じクラスの苗字と良好な関係を築けているのも間違いなくプラスでマイナスは存在しない。ただ意外だったのは、ここまで変わるか、というところである。
時枝と苗字が知り合ったのは、多分苗字が俺達の部隊に入ってから暫くした頃だ。けれど仲良くなったのは最近。つまり、出会ってから最近まで時枝の中で苗字という隊員は
「……おいおい、いつから苗字に対して そんなに変わったんだよ。時枝」
もうずっと向こうにいる時枝に向かって、全く心のこもってない様な笑みを浮かべて携帯を開く。『嵐山隊』。ふと目に止まった文字を眺めてから指を滑らせて、苗字を抜いた方の冬島隊の連絡画面を開く。こんな事してるから、あの馬鹿が自分はハブられてるだなんだっていうんだろうな、と思いながらも、巻き込んではおいだぜ、とメッセージを飛ばして携帯をポケットにしまった。
▽
時枝と佐鳥は数時間もした頃に冬島隊の作戦室に超小型の隠しカメラを持って現れた。その頃には真木ちゃんは作戦室で苗字と楽しそうにガールズトークとやらを堪能していた。主に苗字は嵐山さんのどこがいいとかしか話していなかったが。因みに烏丸について聞かれた時の苗字の顔は本当に滑稽だった。真木ちゃんも そこまでのリアクションをされるとは思わなかったと小言を漏らした程だ。
こんな話はさておき。場所を移動させた俺達は、その小型カメラで一体何が可能なのかを確認していた。苗字の家に入る事が出来たとなれば、それは苗字と同じ位の学生であるというところから始まって、そうなれば コレはどこかのネットショップで手に入る それなりの値段のものだろうと決めつけて調べ始めたが案の定。機械に強い冬島さんにかかれば同じ品を探すのは容易い上に、そのカメラには会社のロゴが書いてあって直ぐに その商品に辿り着くことができた。超小型隠しカメラ。暗視機能が搭載されており、高画質、動体検知、録音。まあそれはそれは高性能な機能が沢山オプションでついてきやがる とんでもねえ品物である。さらに数百メートル圏内ならば回収しなくてもリアルタイムで携帯に画像もしくは動画を共有出来るという素晴らしい機能付き。動体検知で起動する優れもの故に、家に帰るのが遅い苗字対策としてはうってつけだし、バッテリーの減りもさぞ遅かったのだろう。
「携帯だけで動画が確認できるあたり学生で決めつけても問題なさそうじゃねえか?」
「そう思わせる手口の可能性も捨てきれないから、取り敢えず苗字の家から動画共有圏内を丸で囲ってみたんだが…」
「うわあ、結構広いんすね……」
「でも、ウチの学校の生徒に焦点を当てて考えるなら連絡網からかなり絞れますね」
「いや、その圏内で絞り込むのは早いな。それに出来るのなら、早期解決が望ましい。苗字の平均帰宅時間は統計で夜の21時から22時と考えて……その時間に定期的に出歩いた奴は要注意として、目を光らせようや」
「早くても1週間はかかるぜ、それ」
「急がば回れ、っていうだろ」
「それでいくと圏外の奴は絞れるってのは分かるが、圏内の奴だったらどうするんだよ」
「それの対策についても考えてある」
それこそが一石二鳥圏内圏外同時絞り込み作戦である。ネーミングセンス云々に関しては、この俺の顔を立てて目を瞑って欲しいところだ。それでは まず、どこが一石二鳥なのかというと、これという利点は特にないのだが、この1週間もしくは2週間、はたまたもっと先になるかも分からないが、その期間の間に動画共有圏内圏外から何人かの候補者を絞れるという意味で一石二鳥、である。苗字を巻き込まざる得ないという点で時枝と佐鳥が渋ったけれど、作戦自体に特に無理矢理な点もないうえに、上手くいく確率もゼロではないので苗字には申し訳ないが今後の生活云々と一時の恐怖、勝手に天秤にかけて、今後の生活の安全が勝ったので作戦は決行とする。しかし、人数が足りない。様々な位置にそれぞれを配置するとしても、何せ これだけ広い範囲を最低でも1週間監視するには人手が圧倒的に足りなかった。まず、任務の都合上嵐山隊の2人の1週間フル参加は望めないし、俺達にも それなりに仕事がある。そこで協力者の候補として名前が挙がったのが、太刀川隊と二宮隊、それから時枝と佐鳥がおした烏丸である。さて誰にしようか。それを検討した上で太刀川隊は仕事の量を考えると大した戦力にはならない(多分だが冬島さんが太刀川さんに恩を売りたくなかった)為、太刀川隊はダメ。
では烏丸はどうだ。自分達に対して理解もあるだろうし、ああ見えて友達思いらしい。だが、良く考えて欲しい。防衛任務とはどういうシステムか。本部及びそれぞれの支部から1人、及び一部隊を決められた場所に配置する。まあ大体こんなようなものが、防衛任務の決まりである。そうなると、支部の奴は本部の俺達よりも圧倒的に仕事量が多い。戦力としては見込めないだろうーーーと、言ったのだが時枝達があまりにも渋った為、烏丸は学校での怪しい奴を絞り込む担当になった。時枝、佐鳥、そして俺もここに入る。まあ俺に関しては他の担当もあるが。そしてまあここまで言えば分かるだろうが、白羽の矢が立ったのは二宮隊である。あの部隊は苗字贔屓が2人もいるから喜んで協力してくれるだろうし、それに加えて鳩原未来の件で最近は昔ほど防衛任務に当て込まれている様子はない。まさに今回の件の協力者として、これほどまでに条件のいい戦力はいないだろう。
案の定。苗字を助けてやって欲しい、と特に内容も伝えずに声を掛けたというのにも関わらず快く引き受けてくれた二宮隊の作戦室に邪魔した俺と冬島さんは例の地図に加えて分かりやすいようにと一応持ってきておいた色付き磁石を二宮隊の机の上に広げた。
「それで、私達に助けて欲しい事ってなんですか? 態々冬島隊長と当真先輩が声を掛けてくる程ですから大事なんでしょう? 私達も日頃から苗字隊員にはお世話になっていますし、出来る範囲でお手伝いします」
「ありがとうな、恩に着る」
「まず状況を話せ。話はそれからだ」
二宮隊に現在の苗字の状況云々を話すと、一部始終聴き終えた時点で犬飼の奴が「胸糞じゃん」と穏やかな表情を浮かべて笑っていたが笑い終えた頃には穏やかだった犬飼の顔面に感情はなく、ああ、これが苗字が普段見ている犬飼か、これは酷えな、と苗字に同情した。
「数ヶ月黙認……相変わらず馬鹿の極みだな。まあいい。
「ああ、
まあ、この人らのお互いの主張は何も間違いではないのだが今争うのはやめて欲しい。まあ二宮さんと苗字は佐鳥から聞いた話、俺が入隊するよりも前から……もっと詳しくいうのならば、佐鳥が苗字に話しかけるよりもずっと前から苗字と仲が良いらしく、最早兄のような男である。いや、本人もそう思っているかは不明だが、二宮さんが高校、苗字が中学の時から仲が良いわけだから……まあだいぶ付き合いは長い。少なくとも、俺達よりは長いし、佐鳥の話を聞く限り、苗字が一番最初に心を開いた人こそ二宮さんである。
故に、今の両者の発言に完全に否定しきれるような発言はないのである。
「ねえ、そんな事よりもさ おれ達が何をすれば良いのかを教えて欲しいんだけど」
犬飼の一言によって、隊長2人が冷静を取り戻して冬島さんが地図を広げる。まずは、佐鳥と時枝にした説明と全く同じ説明をする。するとやはり、苗字が危険な目に合うのは納得出来ない、と二宮さん、犬飼、氷見が反対の声を上げる。
氷見の意見は同じ女の子が危険な目に合うのは見過ごせないだとか苗字は可愛いから危ないし、とかそんな内容である。まあ気持ちはわかる。実際にボーダーへの取材で流れた全国放送のテレビ番組やらイベント中継に頻繁に映り込む苗字は広報でもないのに、信じられない人気を誇っている。あの根付さんが一度、仕方がないから冬島隊を広報にいれようかと本気で考えた程らしい。けれど良く考えて欲しい。真木ちゃんは兎も角、俺と冬島さんはお世辞にも爽やかではないし、どちらかと言えば強面だ。もちろんそれを理由にキッパリと断っておいた。妥当な理由だったと俺も思っている。
「でも確かに、女性を危険な目に合わせるのは良い計画案とは言えませんね」
「そうは言っても、苗字を いつまでもボーダーに泊まり込みさせるのは無理だぜ? カメラはコッチで既に回収した。数ヶ月設置してあったとなりゃあ 間も無く充電が切れてもおかしくはねえが残量は36。まだ十分にある」
「圏内に住んでいるのなら、異変には直ぐに気付くことができますね。それから動体検知が付いているとなると、嵐山隊の2人が侵入した時点で気付かれているかもしれません」
結局話はドンドンややこしい方向に向かい、最終的に苗字近辺に1人置いておく事を約束に漸く話が進みはじめる。その役割は日替わりで決める事になったが、まあ冬島さんか、もしくは二宮隊の誰かを置くのが妥当だろうとなった。冬島さんは苗字に相談されている手前動きやすいし、肉弾戦でも頼り甲斐もある。二宮さんと犬飼(辻はパスした)に関しては、全く関係ないだろうと苗字なら結論付けるだろうからだ。偶々、通りかかったヒーロー枠にしては あまりにもヒーロー感のない2人だからこそ許せる役割である。
どの辺りがヒーロー感がないかと言えば、二宮さんは頼れる兄のような存在でそれ以上にはならない(だろうと俺が勝手に思っているからという理由)。そして、犬飼は悪い意味なのだが顔面無表情で多分どっちが悪者か分からないからである。寧ろ、苗字の方が突然攻撃された加害者を被害者だと思いかねないという、有り得ないが想像できる光景が俺の脳内に当たり前のように浮かび上がるからだ。ある意味すげえや。
「まあ大体計画はこんな感じだな。隊長……と二宮さんも、これで大丈夫か?」
「やり方がぬるい上に気に入らねェが……
「うわ、素直じゃない」
「犬飼先輩も苗字隊員に対しての態度十分に負けていないと思いますけど」
かなりの時間の後、顔をみるみるうちに赤くした犬飼に、コイツ馬鹿だなー、と眺めながら 俺と冬島さんのブラックリストに犬飼は静かに名を刻む事となった。因みに、二宮さんも相当怖い顔をしていたから二宮さんにも今後目を付けられるのではないだろうか。別に苗字に彼氏が出来ようが出来まいが、お前らには関係ないだろうという奴がいるかもしれない。その通りだ。だが、考えてみて欲しい。まあ苗字に限って有り得ないだろうが、もしも、もしも彼氏優先でボーダーを疎かにしたら? 任務を放棄したら? この様なことを考えた上で、俺達 冬島隊は苗字には大学に行くまで彼氏はいらないだろと刷り込んで刷り込んで刷り込んで洗脳した。真木が元々高校までは学業に専念したいというタイプの女だったから説得(洗脳)は案外早い段階で成功したと思う。加えて、出水と米屋のおかげで苗字は自分がボーダーでは全くモテないと思い込んでいる(実際は根強いファンがゴロゴロいる。小南と太刀川さんを含む)。
しかし、俺達の厄介なところは ここから先である。苗字の彼氏はボーダー内で、という俺達の間での暗黙の了解である(嵐山隊と太刀川さんも賛成している)。理由としては苗字にボーダーをやめられてしまうと俺達の戦力がガタ落ちする恐れがあるからとーーーー……ああ、いや、こんな事はどうだっていい。話を戻そう。
日は流れた。この2週間と少し。目を光らせて監視を続け続けたところ、数人の男が浮かび上がった。数人に絞り込めた時点で、俺達は本格的にソイツ等についての情報を集めた。その結果、ある二人の男まで絞り込む事が出来た。まあ目には目を、歯には歯を、という事で、こちらも犯罪には犯罪をもって対応させて貰った。
冬島さんと二宮さんの常識では考えられない解析能力を見た俺達は、まあ普通に引いた。ああ、この人等は敵に回しちゃいけないなと本能で理解したし、せざる得なかった。その該当した人間の家をカメレオンを使って特定した俺達はその家の中の情報を知る為に耳の良い菊地原を利用したり、まあそこそこの監視をし続けた。これが本当のストーカーだろうと断言できる程、密着し続けた。そして苗字に関しての名前を一言でも口にした奴、もしくは脈拍が速くなったり、遅くなったりする奴に目を付けたりして、いよいよ2人にまで絞り込んだというわけだ。まあ殆ど、この2人のどちらかで間違いない。
片方は某掲示板で苗字についての情報提供云々と盛り上がっている板に四六時中張り付いていたし、もう1人は俺達の監視した2週間程度の期間に2度、苗字の家の前で立ち止まっていた男だ。しかし、ここまで絞れたまでは良かったけれど、この2週間、やはり誰かが気付いた事に気付いたのだろう。その犯人とやらに全く行動がない。そろそろ、行動を起こしても良い筈だーーーというか、何も起きなすぎている。苗字が見られていると冬島さんに相談したのは恐らく、その監視が嘗てない程までに強く感じるようになっていたからなのは間違いない。故に、その犯人とやらが苗字の監視をあの時点で既にやめていたとは考えにくい。そうなると、やはり嵐山隊の2人の侵入に気付いて、暫くは動かないでいるという考えが自然なのだろうか。此方は そのストーカーの姿が分からないのだから、その考えと行動は正しい。いや、俺達側からしてみれば全く正しくはないのだが その行動を取ることで外堀が冷めてきた頃に再び行動を再開できる。このストーカーは、もしかしたら意外と頭が良いのかもしれない。
「ーーー…当真先輩、聞いてますか?」
「ああ、新作ラーメンがなんだって?」
「だから、最近妙に とりおと佐鳥ちゃんと、とっきーの空気がピリピリしてるって話!!」
「知らねーし、興味もねーやつ」
「興味は待ってよ、可愛い後輩じゃん」
「いや、可愛くはねーよ」
「うざすぎて吃驚しました、流石殿堂入り」
「褒めても何も出ねーよ」
「褒めてないんですけどねー」
久しぶりに苗字と学校終わりに共にボーダーに向かっていると、まあ妙な視線を感じる感じる。それを感じたのか苗字の方も妙に大人しくなって、先程からしっちゃかめっちゃかな会話を一人でずっと喋り続けている。コイツが此処までになるとは、相当だな、と直ぐそこにあった店の会話をするフリをして後ろに目線を向けると案の定。最後まで絞って出てきたウチの一人がそこにはいた。
やっぱり学生ってのは間違いなかったか、と思いながら携帯を開いてストーカー対策部隊の面々に犯人は俺が牽制しとくわ、とメッセージを飛ばして口元を緩める。やたら犬飼が文句を言ってくるものだから、もうお前も来れば?と位置情報を送信して寄り道をしつつ犬飼を待つと、数十分もした頃に、恐らくあの六頴館から走ってきたのだろう、それなりに汗を光らせる犬飼が到着した。それも滅茶苦茶無表情で。
「用事が出来たから、苗字の事は頼むわ」
「は?」
「え?」
ひらりひらりと手を振って、苗字と犬飼とは逆方向に進んで例のストーカーくんの肩を抱いて、よう、待たせたなー、とかなんとか言って目を見開いた男を大人しく人通りの少ない道へと誘導する。
「ボーダーには守秘義務ってのがあるんだけどよ、話した方が俺が出てきた理由が分かりやすいだろうから話すわ」
「あ、の……」
「嵐山隊、わかるだろ? ボーダーでは、太刀川さんとか那須玲みたいな風に紹介されるせいで部隊制度があるってのは分からないように情報操作がマスメディアによって行われてんのよ、まあ これがちょっとばかり違うが世論操作ってやつな?」
「なんでそれを…ぼ、ボクなんかに…」
「だが実際には嵐山隊みたいにボーダーでは基本的に隊が組まれる。強い敵にはチームプレイが必要だからだ。そして俺は苗字と同じ部隊な訳だ。言いたい事、解るか? ストーカーくん」
目を丸くした男に「はいビンゴ」と笑うと大層悔しそうな表情を浮かべた男が唇を噛んでいた。
妙に顔を強張らせて後ずさりをするあたり、まあ協力者なんかはいないだろうと信じたい。俺はポケットに入れている携帯が先程から滅茶苦茶振動しているのを解っていながら(どうせ苗字からのクレームだから)無視を決め込んで、目の前の男の肩にポンッと手を置く。
「
因みにいうと、さっきのチャラそうな奴は 俺と違って優しくねーから、もし お前が拒否ったりしたら お前がどうなるかは保証しないぜ?アイツも苗字の方が好きみたいだしなー、と笑いながら言った後に、ただ、と逆説の言葉を使って笑顔を浮かべ、俺はいう。今 お前が、今後苗字に付き纏わないと約束するのなら、俺がお前の安全を保障してやる、と。これは脅迫だ。けれど脅迫なのにも関わらず、こういう状況で こういう言葉をかけられると、どうにも救いの言葉に聞こえるらしい。人間の心理ってのは、つくづく面白いよな。
元々派手そうな奴でもないソイツが、俺の提案を受けるのは解っていた。ガタガタと震える手足を見て、可哀想に、と思っていない事を思った後に、首を縦に振って「わかった」とか細い声を絞り出したソイツに俺は「妥当な答えだな」と返した。まあ目の前で携帯の画像データ動画データを削除を見届けた俺は、まあ達成感を感じた後にポケットのUSBを取り出す。
「あーー……後これ、やるよ。まあ何もなしに手を引いて貰うんじゃ 後味悪いからよー、今年の体育祭の苗字のデータ、やるよ。パソコンに挿したら見れる
「……、どうも」
俺の掌からUSBを受け取ったソイツはバタバタと大通りの方へと向かって走って行く。だけど、忘れちゃいけねーよ。俺は、これでも忠告したんだぜ? お前はソレをパソコンに挿し込んで開くだろう。だがソレは冬島さんが作り上げた初期化ウイルスの入れられているUSB。つまり、開いてしまえばパソコンから全ての保管データは消えて恐らくパソコンに保存されている画像データも消える。ただ、文句は言わせない。俺は常に言っていたのだから。ヒントを与え続けたのだから。
パソコンに挿したら見れる
「……勝負ってのは何でも焦ったら負けなんだぜ、ストーカーくん。そんなに苗字と仲良くなりてーんなら直接話しかけな」
まあ、もう肝心の あの男は俺のこの言葉なんざ、一言一句何一つとして聞いていないんだけどな。因みに、あのUSBはストーカー対策部隊の全員に一つずつ渡されているし、実際に その効果は太刀川さんのパソコンで試しているから間違いない。つまり別に俺だけが特別に渡されていた訳ではない。
今日、今持ち合わせていたのは偶々だけれど、まあないなら犬飼に任せる予定だったーーーと、おっと。携帯に連絡が入っていたのを忘れていた。
「おう、着信31件もどうした?」
『どうしたじゃないですよ!! どんなイジメですか!!? 今、ボーダー近くのコーヒーショップいるから当真先輩も早く来てよ!!』
「二人でランデブー」
『いい加減にしてくださいよ!! ランデブーじゃないし! 早く来てください!!』
「偶には この当真先輩を労ってくれてもいいんじゃねーのか? 苗字ー」
『来てくれたら労わるから!!!』
[Espoir]