もしものはなし



 吐息を絡めて、肌を合わせて、ひとつになる。最早何度目か分からない交わりの翌朝、以前から疑問に思っていたことがふと口をついた。

「三途くんは、『王』が何よりも大切って言うけど」
「あ?何だよぉー、急に……」

 カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさに顔を顰めた彼が、掠れた声で返事をする。

「もしマイキーくんがわたしを好きになったら、わたしを『王』に捧げちゃったりする?」
「はぁ?マイキーがテメェごときを特別気にいるわけねぇだろ」
「だぁから、もしもの話だよ」

 辛辣な物言いは日常茶飯事、特段腹が立つこともない。華麗なスルーで再び返答を求めると、彼は暫く「あー…」と面倒くさそうに唸っていたが、不意にわたしの首元に両手を添えた。

「そうだなぁー、オマエのこと殺すかも」
「なんで」
「さすがに死体やるわけにいかねぇだろーが」

 ベッドに寝転がったままのわたしを、硝子細工のように美しく冷たい瞳が見下ろしている。それを真っ直ぐに見つめ返し、わたしはゆっくりと口を開く。

「……それって、わたしを殺してでも彼に渡したくないってこと?」
「……は?ンな事言ってねぇよ、異訳すんな」
「そうとしか聞こえないよ」
「意味分かんね、脳内お花畑かよ」
「嫌いになった?」
「……オマエ、もう黙れ」

 こちらの唇を塞ぐ彼の口づけは、言葉と裏腹に存外甘い。「仕事に遅れる」と非難するも、「オレの背中に腕回して乗り気なくせに」なんて図星をつかれては否定できなかった。抵抗を諦め、彼の身体をより強く抱き締める。視界の端で、桃色が楽しそうに揺れた。


2018



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