インモラルに喝采



 ずっと好きだった3つ上の幼馴染に、彼氏ができた。ぼくが17歳、彼女が20歳を迎えて程なくした頃の出来事だった。
 これ見よがしにぼくの帰宅路を2人で歩いていたのは、ぼくにその事実を突きつけるためだったのだろう。
 2人の姿を見てぴたりと足を止めたぼくへ、彼女は面倒見の良いお姉さんのような顔をして「おうじ」と声をかけた。隣の男がその名前に反応して、「幼馴染の子だ」と呟く。ぼくは優等生ぶった笑みを浮かべて、「はじめまして」と名乗った。

「王子一彰です」

 続けて男が名乗ってくれたのだけれど、その名前は数分後には忘れていた。興味のないことに脳のキャパを使うほど暇ではない。
 彼女と一言二言交わした後、お互いに反対方向へと歩き出す。
 隣に立っていた男の顔を思い出しながら、随分と普通のひとを選んだな、と思った。まあでも、そうなったのも何となく想像はできる。数日前、ぼくの何度目になるか分からない告白を受けた彼女は、きっとそれから今日までの間にあの男に告白された。それでとりあえず、付き合うことにした。彼氏という存在がいれば、ぼくがこれ以上押してこないと考えたのかもしれない。優等生で、常識的な彼女らしい思考だ。
 前々からあの男が好きだったということはまずない。これまでに何度も「好きな人がいるの」と聞いていたけどそれらしい反応はなかった。彼女は初心で純粋で、素直だから。嘘はつけないし、仮についたとしても十数年も近くにいるんだからすぐに分かる。
 ふむ、と。顎に手を当てながら考える。
 ここで大人しく身を引くのは癪だ。彼女が本気で好きになった相手だというのならまだしも、ぼくを諦めさせたいがためだけに付き合ったような男に譲るというのは我慢がならない。……いや、仮に彼女の本命だったとしても、同じことを思っただろうけれど。
 自宅に帰り、自室に閉じこもって。ひとりチェスの駒を動かしながら、やっぱりぼくは考える。
 そもそも彼女がぼくの告白を断り続けているのは、年下の少年にしか見えないので付き合うとなると何かが違う、とのことだった。あとはまあ、長く一緒にいすぎてそういう対象にならない、と。
 だったら、と思う。
 もういっそのこと、いつまでも子どもじゃないと教えてしまえば。
 そんなことをして幸せな結末を迎えるとは到底思えないけれど、少なくとも彼女の傷にはなるだろう。のらりくらりと躱され続けるよりは、そっちの方がずっといい。そう思ってしまった。
 カタン、と。白いキングの駒を弾いて。ぼくは、非情な決断をする。



 彼氏ができてからも、彼女は相変わらず幼馴染の姉として優しかった。両親の帰りが遅い時は晩ご飯のおかずを持ってきてくれたり、参考書が欲しいといえば彼女の学習机から引っ張り出してきてくれたり。寧ろ彼氏ができたことでぼくが手を出してこないと思ったのか、今まで以上に気が抜けているような節はあった。今日だって、「勉強を教えてほしい」と言えば「わたしより賢いくせに」と呆れながらも、両親のいない年頃の男の家に来てしまうんだから。本当に、世の中の汚いところを知らないまま育ってしまった、無垢な箱入り娘。
 テーブルに用意した麦茶を飲んで、うつらうつらと船を漕ぎはじめる彼女を横目に見る。

「眠いの?」
「ん、なんか、変……」

 その言葉を最後に。かくん、と完全に寝入った彼女の手から、そっとボールペンを抜き取る。こんなもので怪我でもしたら大変だ。
 艶やかな髪を一房すくって、そっと口づけて。

「……好きだよ」

 だから、ぜんぶ、奪わせて。



 ベッドの上。彼女が規則正しく寝息を立てている内に、その両手と両足をネクタイで縛ってしまう。それから、陶器のようなその頸にキスを落とす。ぴくり、と小さな肩が震えたけれど、まだ目を覚ます気配はない。

(さすがに寝込みを襲う趣味はないからなあ……)

 ああでも、既に寝込みを襲っているようなものかもしれない。至るところに唇を這わせながら、そんなことを、ぼんやり考える。
 あたたかそうなニットに、グレーのワイドパンツ。彼女の今日の服装は、楽さや快適さを重視したであろうものだった。スカートを履いて来なかっただけマシかもしれないけれど、どうせならスキニーやジーンズのパンツスタイルの方がガードが固く見えたのに。たぶん、割と楽に脱がせてしまう。
 小さな唇の甘さとか、隠された肌の柔らかさとか。そういうものに触れたくて、早く目を覚ませと、そればかりを考える。早く、早く。ぜんぶ、ほしい。
 その内に、ようやく彼女がうっすらと瞼を開けた。「ん……」と掠れた声が口から零れて、それとほぼ同時にぼくは彼女の唇を奪う。目が覚めるまではちゃんと我慢したんだから、もういいでしょ。そんな風に、クソみたいな自分の行動を肯定して。

「ぇ、ん……っ、おう、じ」

 徐々に思考が覚醒してきたのか、丸い瞳を大きく見開いて、彼女は抵抗しようと身じろぎする。けれどその体は思うように動かない。当然だ、手足を両方とも縛り付けられているんだから。

「うそ、なんで、やだ、おうじ、嫌……っ」

 生理的なものなのか、嫌悪感からくるものなのか。その瞳が涙で潤み、続いて嘆願される。けれどまさか、ここで「ごめんね、ぼくが悪かったよ」なんて止めてやるわけがない。そんなことができるのなら、そもそもこんな風に彼女を襲っていない。

「……ん、だまって」
「ぇ、ぁ……っ、ふ……んん……っ」

 小鳥の戯れみたいな口付けじゃなく、もっと、深く深く。酸素を求めて小さくひらいた唇の隙間から舌を滑りこませて、彼女の舌を探り当て、絡ませる。猛り狂ったように、何度も、何度も。互いの唾液がぐちゃぐちゃに混ざって、ようやく唇を離した時に零れたそれが、どちらのものかなんて分からない。

「おうじ、なんでぇ……っ」

 涙ながらに彼女が責める。
 なんで、なんて。分かりきってるくせにそんな風に尋ねてくるのが、心底不思議で可笑しなものだ。

「好きだから」
「だったら尚更、こんなこと駄目……!」
「どうして?」

 頬から首筋へ、指を滑らせながら。くすぐったいのか、ぴくり、と肩を震わせる彼女に笑みをこぼして、今度は唇を耳元へと寄せる。

「ねえ、答えてよ」

 ぁ、と小さな艶めきが零される。吐息が耳にかかったのだろう。駄目だとか嫌だとか言うくせに、体は素直に反応しているのだから本当にかわいい。「ほら、はやく」執拗に責め立てて、わざと息を吹きかけて。次いで、耳たぶを甘噛みする。

「ひゃ……っ」

 短く鳴いて、彼女が身を捩る。やだやだと、首を振って必死の抵抗。

「おうじ、だめ」
「だから、何で駄目?」
「だってわたし、彼氏が……、んぁっ」

 それは予想通りの解答。真面目な彼女のことだからそう言うに違いないとは思っていたけれど、改めて男の存在をその口から出されると妙に苛ついて。ニットと肌着を雑に捲り、白くて滑らかな肌へと手を滑りこませると、思っていたよりも艶めいた声が零される。自然と口角が上がり、「気持ちいい?」と問いかけた。

「違っ、くすぐったいだけ……!ひっ」
「ほぼ同じことだよ、それ」
「ぁっ、うそ、やめ……っ!」

 脇腹、お臍、腰……。至る所を撫で上げながら、唇を這わせたり、時折強く吸い上げたり。そうして浮かび上がったキスマークを恍惚の表情で眺める。「やめて」とか「吸うな」とか。唇を噛み締めながら懇願する彼女は、彼氏でもない男に所有の証をつけられていることに気づいているのだろうか。……まあ、どっちでもいいのだけれど。
 繰り返し繰り返し、体に触れ続ける。その内彼女の息が荒くなり、肌が熱くなっていく。見計らって、ニットを剥ぎ取るように持ち上げた。

「や、やだ……!」

 一際強い、拒否の声。それを無視して性急に事を進めていく。腕を縛っていたネクタイを一時的に解き、無理やり衣服を取り払って。白い肌にパステルカラーのブラジャーが馴染んでいる。随分可愛らしい下着をつけてくれているらしい。
 と、不意に視界の端で彼女が手を振りかざしたのが分かった。避けようと思えば、避けられる。けれどぼくはそれを甘んじて受け入れることにした。
 ばちん!と乾いた音が響いて、頬からじんわりと痛みが広がる。「あ……」小さく零した彼女は目を見開いて、まさか本当に引っ叩くことになるとは夢にも思わなかったとでも言いたげな表情をしていた。
 す、と視線を向けると、

「なんで」

 震えた声で問われた。

「なにが?」
「避けれたでしょ、なんで避けないの」
「避けてほしかったの?」
「そんなわけ……っ」

 言い淀んだ彼女に小さく笑う。
 平手打ちを避けなかったのはわざとだった。悪いことをしている自覚はあります、だから罰は受けて然るべきだと思っています――そういうアピールといえばいいだろうか。
 まあこんな外道なことに対する罰が平手打ちのひとつというのはあまりに釣り合いがとれていないが、それでも彼女は戸惑っていた。思考も、動きも、鈍っていた。その隙を逃さず、彼女の細腕を再度掴み上げる。はっとした彼女が再び抵抗したが、もう遅い。純粋な力で、女が男に勝てるはずがない。

「きみも馬鹿だよね。たぶんさっきのが最後のチャンスだったのに」
「……っ、うるさ、い……!」
「もっと本気でぶん殴ればよかったね」

 淡々と告げながら、小さな背中へと手を回し込んだ。目当ての金具はすぐに見つかる。ぷつん、と、ブラジャーのホックを外せば、ふくらみをもった柔らかな胸が顕になる。やだやだと、彼女が身を捩るのにあわせてゆるりと揺れる様がとてもいやらしい。それに、何より。

「ねえ、ここ」

 丸くまろやかな線で描かれたふくらみの頂。先端の赤が、蕾か、あるいは果実のようにぷっくりと尖ってしまっている。

「こんなになっちゃってるよ」

 言いながら、指先で摘み上げて苛めてみる。彼女は今日いちばんの喘ぎ声とともに体を揺すった。押さえつけた腕に力が入れられるので、その倍の力をかけてベッドへと沈めてやる。
 空いた方の手で胸を揉みしだき、「嫌」しか言わない唇を塞いでしまう。舌を差し込んで、口の中を貪り尽くす。
 その内、抵抗の力はだんだんと弱くなって、胸の先端にしゃぶりつくのと同時に完全に力が抜けてしまったようだった。「あ、あ……っ」と荒い息を零して、とろんとした瞳がこちらに向けられる。

「きもちいい?」
「ひぁ……っ、ぁっ、ぁっ♡」

 ぷくりと膨らんだ蕾に舌を押し当てて転がしたり、吸い付いたり、甘噛みしたり。これでもかというほど苛めぬいて、それでも彼女は頑なに感じていることを認めない。

「強情だなあ。そういうところも好きだけど」

 そう言って、唇を下へ下へと這わせていく。胸元、おへそ、脇腹、それから、ワイドパンツをずり下ろして腰元へ。

「んぁっ……!」
「あは、かわいい声。ねえ、腰ぴくぴく動いてる。自分で太腿擦り付けてるの?」
「そんなの、してな……ぁっ」
「嘘ばっかり」

 滑らかな曲線をなぞりながら。揺れる胸を堪能しながら。

「……ここ。濡れてるよね」

 指先を、淡い色合いのショーツで覆われた恥骨部分へと持っていく。わざといやらしい手つきで這わせてから、指の腹でぐいと押すと、「ひっ」と短く声が零された。それから、「濡れてない」ときつい声で言われてしまう。……嘘なんて、簡単にバレてしまうのに。けれどその必死さに免じて、面白がるのはやめてあげよう。

「そう。それじゃあ、確かめよっか」
「ぇ、ぁっ、嫌……!やめて、おうじ、おうじ……!」
「どうして?見られるのが恥ずかしいから?ああ、じゃあこうしよう。濡れてなかったらやめてあげるよ。ほら、あとちょっとの辛抱だ」

 だって、感じてないし、濡れてないんだよね。
 彼女の言葉を悪戯に繰り返して。流石に腕を抑えたままはしんどいので、その両腕をネクタイで縛り直してから、ズボンの腰紐部分へ手をかける。ゆったりとしたワイドパンツは、簡単に足元まで下ろすことができた。今度は逆に足首の縛りを解いてズボンを脱がせ、ぽい、とベッドの下へ放り投げる。
 床の上に、先程取り払ったニットや肌着と一緒に、ワイドパンツと可愛らしい柄の小さな靴下が散らばり、その光景すら興奮材料になった。なんというか、『ヤッてる』感じがすごい。熱くなってきて取り払った自分のカーディガンも重ねてしまえば、尚のこと。

「はは、ねえ。濡れてないんじゃなかったの?」
「あぅ……っ」

 きっと、まだ誰も触れていない蜜つぼ。そこからとろとろと愛液が溢れ、ショーツを湿らせている。

「これ以上汚したら大変だ。取っちゃうね」
「やっ……」
「嘘をついたきみが悪い」

 ぴしゃりと言い放って、じたばたと動かされる滑らかな脚を押さえつけて。ぐい、とショーツを引き摺り下ろし、床へと放り投げてしまう。
 それから、秘められたその場所へと、指を這わせる。薄らと開いた2枚の花弁をそっとなぞると、彼女がぶるりと身を震わせた。

「は、あぁっ♡」

 愛くるしい声が零されて、それに呼応するようにとろりと愛液が垂れてくる。

「ねえ、これでよく濡れてないなんて言えたよね」
「ぅあ……っ」
「それとも、どれだけ溢れてるか自分じゃ分からないのかな。だったら……すごいことになってるって、教えてあげるよ」
「ぇ、あっ、ひああっ♡」

 ぐいっと足を持ち上げて、その間へと顔を埋める。よく濡れそぼったそこへと顔を近づけ、息を吹きかけてから、べろりと舐め上げた。
 途端、彼女は絹を裂いたような悲鳴をあげた。股を閉じようと力が込められる足を押し返しながら、ぼくはわざとらしく音を立てながら吸い上げる。くちゅ、じゅる。いやらしい水音が響き渡る。

「ほら。こんなにぐっちゃぐちゃ」
「ああっ……!やだ、そんなとこ舐めちゃ、やだぁ……っ♡」
「ええ、舐められたいからこんなに溢れさせてるんじゃないの」
「んあっ♡ちがう、ちがうぅ……っ」
「んっ、すごい、全然キリがないや」

 零れ落ちる愛液は留まる気配がない。耳まで真っ赤にして首を振る彼女は自分の状態を自覚したみたいだし、舐めるのはこれでひとまず終わりと、舌を伸ばしたところで。

「ひゃ、ぁあっ♡」

 一際大きな嬌声があがって、ぼくは思わず顔を上げる。

「……なあに?今の声」
「あ……っ、あ……♡」
「ずいぶん気持ちよさそうだったけど」

 なんて。本当は聞かなくても分かっている。
 どうやら彼女の敏感な部分のひとつにあたったらしい。自然と口角が上がる。

「いいところ、たくさん舐めてあげるね」

 そう言って、先程と同じように舌先を触れさせる。案の定、彼女は快楽に溺れた甘い声を出した。

「あっ、だめ……っ♡そこ、ああっ♡や、強く、しないでぇ……っ♡」
「あは、かわいい。もっと感じて?」
「あ、あっ♡も、無理、無理ぃ♡だめ、だめ、も、わたし、ああ……っ♡」
「ん?イキそう?彼氏がいるのに、ほかの男にこんなことされてイッちゃうんだ。いいよ、ほら……我慢しないで」
「ひぁっ♡あ、あ、あああ〜〜ッ♡」
「ん……っ」

 甘い悲鳴をあげて、彼女が震え上がった。ぴくぴくと腰が痙攣して、小さな口から荒い息が零される。

「ふふ……、上手にイケたね」
「あぅ……♡」

 彼女の愛液で濡れた口元を拭ってから。柔らかな頬をつとめて優しく撫で、涙を浮かべた目尻へとキスを落とす。

「……かわいい」

 もう、早く硬くなった自分のモノを挿れてしまいたくてしょうがない。けれど、痛い思いはしてほしくないとも思う。ひたすら気持ちよかったことだけを、ずっと覚えていてほしい。そうしてその記憶に、一生囚われ続けたらいい。
 完全に力の抜けた彼女の体に指先を這わせ、相変わらずぐしょぐしょの蜜つぼへと侵入させる。指一本はするりと呑み込まれるので、二本、三本と、少しずつ増やしていく。ばらばらに動かして掻き回していると、時折「ひぁっ」と艶やかな泣き声が聞こえた。舌では届かなかった気持ちの良いところが見つかり、ぼくは薄ら笑う。

「ここがいいんだ」
「ぁっ、あっ♡指、そんな、激し……っ♡」

 中指と人差し指で攻め上げると、びくびくと体を震わせて反応してくれる。かわいい、かわいい、かわいい。

(もう……限界なんだけど)

 下半身の一点に、熱が集中しているのが自分でも分かる。ゆとりのあるスラックスを履いていて助かった。たぶんスキニーとかだったら、苦しすぎておかしくなっていたと思う。
 彼女のナカは相当ほぐれているみたいだし、これなら大丈夫だろうと判断して。自分の熱を与えるべく指を引き抜くと、潤んだ瞳がこちらへ向けられた。それはまるで、もう終わりなの、と強請っているような。

「……なぁに、物欲しそうな目して。あんなに嫌がっていたのにね」
「そんな目してない!」
「でも安心して、これからもっと気持ちいいのあげるから」
「ひっ……」

 衣服を全部取り払い裸になると、彼女の視線がぼくの下腹部へと向けられた。それから、短い悲鳴。すぐに目線は逸らされ、恐怖で滲んだ瞳がぼくを映す。

「おうじ、やだ……こわい」

 か細い声。

「大丈夫、優しくするから」
「嫌……」

 ふるふると左右に動かされる小さな首。
 それらを無視して、ガチガチになったそこへゴムを被せる。腕を縛られている彼女は、動く両足でなんとか拒否の意思を示したけれど、その抵抗はかわいそうなくらいに弱々しかった。
 そして、ついに。

「くぁ……っ」
「ぁっ、あ、うそ……っ」

 秘部の割れ目をなぞるように、熱を帯びた肉棒を押し当てる。ゆっくりと動かすたびに、まるで求められているみたいに吸い付いてきて、それがすごく気持ちいい。

「はぁ……っ、ぁ、すご……、まだ挿れてもないのに、きもちい……」
「おうじ、だめ、も……っ、嫌いになるよ……!」

 突然零された強気な言葉。思わず動きを止めて視線を向けると、眉を寄せて、キッと睨むような仕草で彼女がこちらを見る。

「だから、もうやめ……、っ、んああっ!?」

 今日1番の嬌声。
 それもそうだろう、ぼくは思い切り、自分のモノを彼女の蜜つぼへと押し進めたのだから。

「ひぁっ♡あ♡ぁっ♡なんでぇ……っ」
「んっ……。きみって、ほんと間抜け。そういうとこも、かわいいんだけど」

 腰を進めながら、途切れ途切れにぼくは言う。

「ぼくに何されたか、もう忘れちゃったの?」
「ぁっ♡んっ、や……っ♡」
「無理矢理ここ弄られて、イかされて。それでも、嫌いになる・・・・・?」
「ひゃぁっ♡あっ♡あっ♡」
もう嫌い・・・・って言わないと。ここまでされてまだ嫌いじゃないなんて、おかしすぎる」
「ぅあ……っ♡ああっ♡」
「……っ、きみのナカ、すごい締め付けてくる……っ。嬉しいな、こんなに求めてくれて」

 ぐり、ぐり。狭くて熱い中を広げるように、奥へ、奥へ。
 ふと視界の端に縛られたままの細腕が見えて、ぼくは手を伸ばす。しゅるりとネクタイを解くと、彼女は驚いたのか、僅かに目を開いた。微笑んで、ぼくよりも少し小さなその手を取る。それから、まるで恋人のように指を絡めてシーツへと沈めた。

「……んっ」

 同時に、彼女のナカがきゅうと締まる。
 ……そうだよね。ここまできちゃったんだ。とことん優しくされたいよね。

「ん、んぅ……っ♡」
「は……っ、もう、ちょっと……がんばって、全部、挿れたい……っ」

 ゆっくり、ゆっくり。彼女の様子を確認しながら、最奥を目指す。が、あとちょっと、というところで、彼女がぎゅっと目を瞑った。「や、痛……ッ」苦しげに、眉が寄る。すぐに分かった。これはほんとに、駄目なやつ。

「……っ、ごめん、痛い……?」
「ぅ……」

 小さな口から呻くような声が落ちる。
 ――痛い思いは、させたくない。
 だから今、本気で「嫌だ」と泣いてくれれば、ぼくはきっと止めたのに。今更だけど、ナカに収まった熱を抜いて、終わりにしたのに。待てど暮らせど彼女の口から拒絶の言葉は出てこなくて、堪らず苦笑した。

「ね、ちゃんと目開けて。こっち見て」

 告げると、彼女は瞼を持ち上げる。涙で潤んだ瞳がぼくを見つめる。

「……いい子だね」

 その頭を撫でて、そっと唇を奪う。ふにふにと互いにその感触を確かめるように触れ合って、それから下唇を舐める。それが、合図。まるで意思が通じ合ったように、彼女が控えめに唇を開けた。実際は、呼吸をしたかっただけなのかもしれない。ただ、一番最初の、本当に無理矢理こじ開けた感じとは、確かな違いがあった。
 口内で、そういう生き物のように舌が絡まり合う。くちゅり。水音が交わる。痛みが少しでも和らぐように、気持ち良さで上書きされるように。ぐちゃり。今度は、下からの水音。彼女の様子を確認する。さっきよりは随分と大丈夫そう。これなら、と。ぼくは自身を押し進める。

「〜〜ッ」
「ぁ、んぁっ、あぅ……っ♡」

 ばちん。視界の端で、火花が散ったかと思った。

「はぁ……っ、ね、全部、挿った……っ」
「ぁ、おう、じ……っ」
「……っ、動くよ」
「ひゃぁっ……♡」

 探るように、熱を掻き回す。腰を揺するたびに彼女は甘く鳴いて、びくびくと体を震わせて。声と、表情カオと。ひとつひとつを確かめながら、体中を愛していく。
 不意に、合わさった掌がきつく握り締められる。

「……ッ」

 同時に、ナカがぎゅう、と締め上げてくるので堪らない。
 ようやく見つけた、気持ちいいところ。

「あっ♡ぁ、おう、じぃ……っ♡」

 蜂蜜を絡めたような、どろどろに甘い声で名前を呼ばれる。ふと思い立ち腰を止めようと意識するのに、相変わらず腰は揺れ続ける。でもそれは、ぼくが動かしてる時よりもずっと弱い律動。

「ねえ、ここ、そんなに気持ちい?」
「ぁっ、あっ♡」
「……自分で腰、動かしちゃってるけど」
「ぇ、うそ、そんなこと、してな……っ」
「気づいてないの?えっちでかわいい……」
「ああっ♡」

 ずん、と。再び腰を動かして、奥まで突き上げる。背中を浮かして彼女が悦び、やわらかな膨らみが淫靡に揺れる。かわいい、いやらしい、興奮する。
 堪らずキスをすると、再度彼女のナカが締まった。

「……んぁっ……、はは、キスされながら突かれるの、好き?」
「あっ♡あ♡あ♡」
「そう、良かった」

 直接の返答はない。ただ、問いかけるたびに彼女のナカが嬉しそうに締まるので、ぼくはそれを肯定だと捉えることにした。顔は蕩けきっているし、きっと何も間違いじゃない。

「ぅ、ぁ……っ♡ひゃ……っ♡おうじ、だめ、ぁっ♡それ、だめっ♡だめ、だってぇ♡あ、あっ♡」

 いつのまにか、彼女の喘ぎは「やだ」から「だめ」に変わっている。
 彼氏以外としてるから、だめ。
 彼氏以外の男にイカされそうになってるから、だめ。
 でも、嫌ではないらしい。
 その素直さがなんだかおもしろくて、薄らと笑いながら腰の打ちつけを早めていく。

「ん、は……っ、はぁ……っ」
「あっ♡あ、おうじ、そんな、激し……っ」

 ぎしぎしと、ベッドがスプリング音を立てる。

「……っ、ぅ……っ」
「あ、あっ♡あ、んっ♡」

 ぽた、と彼女の胸元へ汗が落ちる。水音が響く。吐息が混じる。膨れ上がった欲が、行き場を求めて蠢いている。

「おう、じ、おうじぃっ♡も、だめ、ほんとに、ぁっ♡」
「っ、イキそうなんだ。いいよ、一緒に、イこっか。んっ」
「ぁ、んっ♡だめ、だめなのにぃ♡あ、あ、あ♡〜〜ッ、ひ、ぁああっ♡」
「く、ぁ……っ」

 指をしっかりと絡めあったまま。肌と肌をぴったりと密着させたまま。ぼくは熱い欲を吐き出して、彼女は背中を逸らせて達した。
 互いに荒い息を零しながら快感の余韻に浸り、どちらともなく口づけ合う。

「ん……っ、すっご……。ねえ、きみのナカまだうねってるよ」
「はぁ……、ぁ……」

 必死に息を整える彼女にくつりと笑いながら、ぼくは蜜つぼを掻き乱したソレを引き抜く。
 全部ぶちまけたと思っていたけど、まだまだ元気なままだった。どんだけだよと、自分でも笑ってしまう。でもまあ、数年間溜め込んでいた欲を吐き出してると考えると、妥当といえるのかもしれない。
 くたりと脱力してしまった彼女を引き寄せ、くるりと反転。それから軽く背を押して、四つん這いの体勢をとってもらう。そこで彼女は違和感に気づいたらしい。目が見開かれ、「まって」の形に口が動く。それと同時に、ぼくは再度、彼女の蜜つぼを熱杭で貫いた。

「ひぁ、ぁ、ぁあ……っ♡」

 後ろから隙間なく覆い被さって、犬がするみたいに腰を動かす。
 正常位では擦ることができなかったお腹の裏側。そこも彼女の気持ちいい箇所だったらしく、快楽に溺れた声が響く。蜜が溢れ出してくる。

「ぅ、あっ♡ああ……っ!」
「んっ……、さっきとは違うところに当たるでしょ。いっぱい気持ちよくなって」
「あ、っ、はあんっ♡」

 耳元でささめくと、彼女は一層艶やかな声を出した。火照る身体を堪能しながら腰を打ち付け、その度に揺れ動く乳房が目に映る。堪らずこくりと喉が鳴った。
 腕を伸ばし、ふるふると揺れる膨らみへと手を伸ばす。ぎゅっと掌全体で揉みしだくと、「あぁ……っ!」また嬌声があがった。

「キスがなかなかできないのは残念だけど、こうやって胸を触れるのはいいね」
「ひぁっ、あ、あ♡あぁ〜〜ッ♡」
「ふふ、先っぽ尖らせて。そんなに触ってほしいんだ。お望み通りに……っ」
「んぁっ♡そ、れ、だめぇ……っ♡はぅぅ♡」

 ぴん、とそそり立った先端を数度指先で弾いて。それから軽く引っ張ると、背中を仰け反らせて感じてくれた。

「んっ……」

 ナカもぎゅうぎゅう締まって、気を抜くとイかされてしまいそう。

「っ、そんなに、締めて……っ。ぼくをイかせたいの?」
「ぁっ、ぁあ……っ♡だって、おう、じ、がっ」
「うん、ぼくが、なに?」
「胸、そんな、触るから……っ、ひぅっ♡」
「胸、ね……」
「あぁ……っ♡」

 乳房の先の蕾をこねくり回しながら、少しだけ残念に思う。乳首、とか、彼女の口からそんな淫らな言葉が聞けることを、少しだけ期待したんだけれど。
 もう少しだけ虐めてみようか。怖い思いをさせてしまうだろうか。
 ぐるぐると考えて結局、少し攻めてみることにした。とことん優しくしたい気持ちは本物だけれど、どうせ最初で最後なんだから。ちょっとだけ、自分の欲に従ってしまおう。

「ね、胸だけでそんなに感じちゃってるの?」

 指先を先端から離して、ふくらみを撫で上げる。指の腹を押しつけるようにして、じわじわと先の蕾へ移動させる。

「一番気持ちいいのは、こっちだよね?」
「んっ、ぁ……っ♡」
「ほら、こーこ。胸じゃなくて、なんて言うの?」
「あっ♡ひゃぅ……っ♡」

 再び先端を弾けば、彼女は気持ち良さそうに身を捩った。ナカの具合といい、存外嫌ではなさそうだ。それなら、もうちょっと。

「ねえ、教えてよ。そのかわいい口で。胸、じゃないよね」
「ぁう……っ♡ぅぅ……っ♡」
「言えるまでずっと弄っててあげる」

 喘ぎ声と呻き声が混じっている。何度も奥を突きながら乳房の先を弄んでいると、「はっ」と彼女が大きく息を吸い込むのが分かった。

「胸の、先、ぁんっ♡摘まむの、だめぇ……っ♡」
「……っ」

 一息にそう言うのに呼応して、ナカがきゅうと締まる。
 胸の先、かぁ。彼女の様子からこれ以上は無理だと勘づく。本気で嫌がられる可能性も高くて、そんな事態は避けたかった。
 だから、「よく言えたね」とご褒美をあげるみたいに優しく耳朶を食むと、ふるりと彼女の体が震えた。そのまま、耳元で囁く。

「そうだね、胸の先も一緒に攻められるのが一番いいんだよね」
「ぁ、ひゃぁっ♡あっ♡あっ♡やめる、ってぇ♡」
「やめる、とは一言も言ってないよ」
「ぁっ♡あ〜〜ッ♡いじ、わるぅ……っ♡」

 責めるような口調の癖に、相変わらずナカは快楽に溺れてうねっているのだから笑ってしまう。意外とそういうのも好きなのかもしれない。

「ほら。これが気持ちいいんだよね。乳首、ぎゅうってしてあげ……っ、んぁ……っ」
「〜〜ッ、あっ♡」

 突然、僕の熱を咥え込んでいた部分がキツく締まった。一瞬視界がちかりとして、ヤバい、と思う。唇を噛み締めてなんとか耐えて、おそるおそる彼女を盗み見る。びくびくと肩が痙攣していて、

「……もしかして軽くイッちゃった?」
「は…っ、ぁ……っ♡」
「ふふ、やっぱり」

 まあ、他人のことは言えないんだけれど。

「ねえ、急に締め付けてきたけどどうしたの?」
「ぁっ♡あ、待っ、も、イッた、の、んっ♡」
「うん、でもちゃんとイキたいでしょ?」
「ひぁっ♡ぁっ♡ぁ、〜〜ッ、んぅ……っ♡」
「それより、何がそんなに良かったか教えてよ。きみが気持ちいいと思うこと、全部したい」
「はぁんっ♡……ぁっ、ああっ♡」

 腰を打ち付けながら、ねだるように「お願い」と繰り返すと、枕にぎゅっと顔を押し付けた彼女がくぐもった声でようやく応えた。

「おうじ、が、変なこと、言うからぁ……っ♡」
「変なこと……?」

 彼女がとてつもなく感じた直前の、自分の台詞を思い返す。……やばい。本当に覚えていない。彼女がかわいいことしか記憶になくて、自分のポンコツ具合に呆れ返る。せっかくもっと気持ちよくできると思ったのに。
 真剣に悩みはじめたぼくに、彼女がちらりと視線を寄越す。

「……っ、ち、」
「うん?」
「ち、くび、って、言った……ぁっ!?あああっ♡」
「〜〜ッ」
「ひうっ♡あっ♡きゅ、ぅ、にぃ……っ♡そんな、あっ♡しちゃぁ……っ♡ひゃぁぁっ♡」

 だめだめと彼女が頭を振るけれど、気持ちが昂ってどうしようもない。
 だって、顔を真っ赤にして。潤んだ瞳にぼくを写して。乳首、なんて淫らに告げて。それで、興奮しない方がどうかしている。

「は、ぁっ……あは、そっか、ちょっと言葉で責められるのも好きなんだ。えっちでかわいい……」
「ひぅぅ……っ♡」
「ああ、今のも良かった?またナカから蜜溢れさせてる。きみの大好きな乳首も触ってあげたらどうなっちゃうのかな」
「あっ、あっ♡んああ……っ♡」
「はは、すっごい……、めちゃくちゃ、気持ちいい……。かわいい、好き、好き、大好き」
「んっ♡あ♡あっ♡」

 彼女の腰が少し引き気味になる。限界が近いのか、まるで快感から逃げるような仕草。そんなことさせるかと、胸を触っていた手を離して腰を抱き寄せた。ぐいっと、押さえ込めば、「あ、あああっ♡」淫靡に彼女が泣く。

「だめ、逃げないで」
「あっ♡ああっ♡も、だめ、だめ、おうじぃ♡ゆるして、あっ♡んっ♡んあああっ♡」

 唇の端から涎を垂らしながら彼女が果てる。
 ゆるして、なんて何に対して贖うつもりなのだろう。頭の片隅で不思議がりながら、腰のピストンを速く強くしていく。

「んあっ♡あっ、あっ♡ひ、ぁあっ♡や、も、イッた、イッたの、すぐ、だめえっ♡」

 当然イッたばかりの彼女は恐ろしいほどの快感に襲われるわけで。
 霰もなく泣き喘ぎながら、それでも逃げることができずに、腰の打ち付けを、その熱杭を受け止め続ける。

「ん……っ、だって、ぼくはまだイッてない」
「ひゃあああっ♡あっ♡あ、これ、ほんと、あんっ♡ぁっ、ひっ♡」
「はっ、は……っ」
「も、へんっ♡へんに、なっちゃう、からぁっ♡あっ♡あっ♡おう、じ、も、おうじぃっ♡」
「んっ、おかしくなっちゃいなよ……っ。ぁっ、も、ほんと、すっご……っ。ぼくも、そろそろ……っ」
「んっ♡んぁっ♡ぁ、あ、ああっ♡また、またぁっ♡」
「あはっ、かわいい、好き、大好き。ね、また、一緒にイこ……っ」
「んあっ、ぁ、ああ〜〜ッ♡」
「く、ぁ……っ」

 どろどろの欲に塗れた熱が放たれる感覚。二人揃って達し、互いに快感の波が引くのを震えながら待つ。
 荒い息を整えて、ゆっくりと熱を引き抜いて。名残惜しげにとろりとした糸が垂れ、その様にまた体が熱くなる。
 小さな肩を震わせる彼女が、堪らなく愛おしい。
 そっと抱き寄せ、膝の上に座らせる。向かい合い、見つめ合い、宝物にするみたいに口づける。抵抗はなかった。そんな力、残っていないだけかもしれないけれど。
 とろりとした瞳にぼくが映る。唇が甘い。もっと欲しい。もっと刻みつけたい。

「ぁ、ん……っ、うそ、おう、じ……っ!」

 気づけば彼女の腰を持ち上げ、反り立った自身のモノを包み込ませるようにして座らせていた。
 悲鳴のような声が聞こえてはっとする。さすがにやりすぎだ、早くやめてあげないと。
 そう思うのに、あろうことか彼女はぎゅうとぼくを抱き締めるような格好をとるから。耳元で、「おうじ」と甘く名前を呼んでくるから。強請っているようにしか思えないと、唇を噛み締め、ゆっくりと腰を揺する。

「ぁ、はぁ……っ♡ぁっ♡」

 どうしよう。全然嫌がっているように見えないんだけど。
 胸板を彼女の肌にぴったりと合わせて。柔らかな乳房に吸い付いて。彼女の全部を、愛していく。
 どう足掻いても、最初で最後。傾く月を惜しみながら、彼女を気持ちよくすることに没頭する。



 何度も身体を重ねた翌朝。快楽に溶かされた彼女がぼくのものになるとか、そんな成人向け漫画のような展開はあるはずもなく、冷静さを取り戻した彼女は後悔を滲ませた表情で陽が昇り始めた頃にぼくの家を出た。明らかに体が重そうだったけれど、それを心配する権利は与えてもらえなかった。

「……大丈夫だから、お願い、ついてこないで」

 顔も見ずに告げられた言葉。
 きっと今、彼女の中には、ぼくへの嫌悪感と自分自身への怒りがせめぎあっていることだろう。
 小さくなっていく背中を一瞥し、ぼくは部屋の中へと戻る。冬の朝の空気は冷たくて、つん、と鼻の奥が痛くなった。

 その数日後、彼氏とデートをしている彼女を見つけて、少しだけ驚いた。彼女のことだから、罪悪感からすぐに別れると思っていたけれど。付き合いを続けているのは意外だった。でもたぶん、ぼくとの過ちは隠している。
 その通りだったのか、それから二週間が経過した頃、彼女がその男と別れたことを知った。なんとなく、そういうこと・・・・・・が上手くできなかったのだろうと分かった。ぼくが刻みつけたあの一夜が、彼女の傷になっている。
 学年がひとつ上がる頃、彼女はまた別の男と付き合いを始めた。けれどそれも長続きはせず、その後できた彼氏も同様だった。
 帰り際、偶然鉢合わせた時にぼくは聞いた。

「また別れたらしいね」

 こちらとしてはただの事実確認のつもりだったけれど、嫌味にも取れるその言葉に彼女は怒って、「あんたのせいで」と睨んだ。
 その言葉の意味を汲み取り、思わず笑ってしまったのだと、思う。
 目を見開いた彼女が勢いよく手を振り翳し、直後、ばちん!と乾いた音。左頬に鋭い痛みが走った。
 無言で一瞥したぼくを、彼女は再度睨んで走り去る。
 じわりと痛みの広がる頬を抑えながら、やっぱりぼくは口角をあげた。
 彼女の身体の中に、ぼくが残っている。ぼくに何をされたか、彼女は未だに覚えている。だから、次の男と上手くいかない。それがとてつもなく嬉しかった。歪んでいると自覚はある。でも、愛と呪いは似たようなものなんだから、きっと仕方ない。
 これから先も彼女はあの日の僕に囚われ続けるんだろう。一生とまではいかなくとも、しばらくの間、まともな付き合いはできないに違いない。
 ――ざまあみろ。



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