地獄のような楽園で死ね



「いい加減起きねえか!」

 地鳴りかと思う程の罵声と共に、薄っぺらい毛布が剥ぎ取られた。なけなしの温もりを奪われ、寒さと怒りで小さく肩を震わせて、叫ぶ。

「安眠妨害禁止!安眠妨害禁止です兵長!」
「うるせえ!」
「わたしの楽園を返してくださいよぉ」
「なにが楽園だ、働く準備をしやがれ!」
「あと五分……」
「おいこら引っ張るんじゃねえ」

 およそ調査兵団には似つかわしくないであろう馬鹿みたいなやりとりだ。それに、ほんの少しだけここ尾が和らぐ。朝日が昇りきるまでの、短すぎる戯れの時間。
 やがて観念したように、兵長はわたしの毛布を手放した。これもだいたい、いつものこと。一度目は結局折れてくれて、二度目にたたき起こされる。あくまでわたしの勝手すぎる想像だけれど、彼の方もこのやり取りを僅かながら楽しみにしているように思える。こんな馬鹿みたいな、穏やかな時間を。
 やがて少しの時間のあと、彼がまたこちらへ近づく気配があった。律儀に五分後に来たんだろう。もう少しまけてくれたっていいのに。
いつものことながら二度目はないから、わたしは観念して次の罵声と共に体を起こす決意をする、けれど。

「……おい、いい加減に起きろ」

 降りかかった声は呆けてしまうくらいに優しいもので、わたしは本当に兵長かと疑いの眼差しでそちらを見る。
 一瞬、彼がとても柔らかい表情をしていた、気がした。優しく弧を描いた唇、穏やかに細くなった瞳……。けれどそれは本当に一瞬で、即座にいつもの彼に戻ってしまう。

「なんだ、さっさと起きて支度を整えろ」

 眉間に皺を寄せて、尖った口調。
 小さく息をついて立ち上がるけれど、ああ、あんな優しい起こし方をされてしまえば、明日から罵声などでは目覚められない気がするが、大丈夫だろうか。

「兵長」

 普段よりも明るめの声で彼を呼んだ時、パッと視界が明るくなった。
 鳥たちの鳴き声が激しくなって、時間切れ、だ。

「……なにか言ったか?」
「いいえ、何も」

 戯れの時間は、もう終わり。それに気づいていてこんな質問をしてくる兵長は、やっぱり少し意地悪だと思う。
 翼を広げて上に下に上昇と降下を繰り返しつつ飛び交っていた鳥は、やがて地平線の向こうへとその姿を消した。それを見つめて、心の中だけで呟く。
 ――じゆうのつばさ。
 昇りゆく朝陽が、わたしたちの戦場を照らしていた。


2017



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