しあわせの食卓



『今日の晩飯、オレが作っとくよ』

 仕事の休憩時間。イヌピーからメッセージが送られているのを確認し、思わず目をぱちくりとした。

(イヌピー、料理できたんだ)

 付き合って半年。はじめての申し出に驚きを隠せない。
 けれど、意外か、と問われればそうでもなかった。彼は器用なイメージがあるし、バイクのメンテナンスのような細かい作業に根を上げるところも見たことがない。お洒落な料理を手際よく作ってくれるんだろうなと、エプロン姿の彼を想像しながら帰宅した、が。

「はい、今日もお疲れ」

 手洗いとうがいをして席についたわたしの前に差し出された料理に、目を丸くした。
 どんぶり茶碗なみなみによそわれたご飯の上に、こんがりとした焼豚と不格好な目玉焼きが乗っている。食欲をそそるいい匂いがするし、美味しそうだ。ただ、なんというか。想像していたものと比べると、ずいぶん男らしい料理である。
 自分の分も机の上に並べたイヌピーが、「一応サラダもあるんだけど」と冷蔵庫に向かった。……あ。イヌピーのどんぶり、目玉焼きが二つも乗ってる。
 小さなサラダボウルがふたつ、テーブルの上に置かれる。ボウルの中には、雑にちぎったレタスと、千切りの胡瓜、それから、お世辞にも均等とは言い難い切り方をされた真っ赤なトマト。

「イヌピーって」
「ん?」
「料理の見た目とか、口に入ったら変わんないだろタイプ?」
「喧嘩売ってんのか」
「イタッ」

 向かい合った席に座っていた彼が、わたしの額を中指で軽く弾いた。わざとらしく声を上げて額を抑えるわたしに、彼は少しだけ拗ねたように「仕方ないだろ、慣れてねぇんだから」

 堪らず口元が緩み、くふ、と喉が鳴った。

「……オイ」
「ちが、馬鹿にしてるわけじゃなくて。なんか、幸せだなって」
「なんだよ、それ」

 呆れたように溜息が吐かれる。けれど、それとは裏腹に、彼の耳はじんわりと紅く染まっていて。
 照れてる、かわいい。なんて言葉を呑み込んで、手を合わせて「いただきます」そうして、彼の手料理へ箸を伸ばした。
 ほくほくしたお米の甘みと、焼豚の香ばしいうまみが口いっぱいに広がる。

「美味しい」
「……そ」
「ふふ、美味しい、イヌピー天才」
「……」

 弧を描いた唇からくすくすと笑い声を零し続けながら、美味しい天才だと褒めちぎっていると、ついに彼が、

「うるさい、黙って食え」
「……」

 確かに、けらけら笑いながら食事をするなんて、お行儀がいいとは言えない。そう思い大人しくするも数分ともたず、再び同じ褒め言葉が繰り返される。

「オマエなあ」
「だって嬉しすぎるんだもん。イヌピーが悪い」
「馬鹿言うな、つーかそれ以上言ったらもう作らない」
「ウソ!?」
「ウソ」

 手を止めて凝視するわたしが余程絶望的な表情でもしていたのか、イヌピーは口元を緩め、心底おかしそうに笑っている。

「……今のはいじがわるい」
「はは、ごめん」

 くつくつと肩を震わせる彼に唇を尖らせるも、だんだんこちらまで楽しい気持ちになってきて。結局ふたちして笑いながら、それぞれお茶碗を空にした。

「――ごちそうさまでした」


2018



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