神様の慰み
うまく理由を言語化できないけれど、疲れたり無性に不安になったりで堪らず泣いてしまうことってあると思う。いわゆる、メンタルがやられるってやつ。特に月に一回くる生理の日なんか、もう最悪。
夜の縁側で、そんなありがちな状況に陥っていたわたしを見つけた鶴丸にそう言えば、彼は理解に苦しむように眉を寄せた。やっぱり男には分からないよね、と、溢れそうになった嫌味を慌てて押し留める。男うんぬんの前に彼は刀の神様で、人の感情など、分からなくて当然の存在。
「……ごめん、ひとりにしといて。八つ当たりしそうでやだ」
「ふうん?そういうものかい?」
わたしを見下ろした彼は不思議そうに呟いた後、こちらを振り返ろうともせずその場を立ち去った。
それからちょうど一ヶ月、また同じ状態になった時も、彼はわたしを見下ろしたまま、「人間ってのは面倒だなあ」と、一言二言告げては姿を消した。
それが、いつからだろう。
「君、また落ち込んでいるのかい」
隣に腰をおろしてくれるようになったのは。
「君は気にしいだからなあ」
その肩を、貸してくれるようになったのは。
わたしの頭を撫で、驚くこちらに、「人間はこうやって、相手を褒めたり慰めたりするんだろう」緩く弧を描いた唇で、そう告げてくれたのは。
「……それは、小さい子にするやつ」
「はは、俺からしたら君も『小さい子』さ。……不服かい?」
顔を逸らしたわたしの真意を、彼が捉えてくれたかは分からなかった。ただ、わたしの態度に苛立つことも怒ることもせず、いつものように肩を寄せてくれた。
それからまた、月日が流れて――。
「おっ、やっぱりここだったか」
背後から声がしたかと思えば、滲んだ視界の中に、雪のような白が映り込む。月と見紛う金の瞳でこちらの顔を覗き込む彼は、そのままわたしの真正面に回り込み、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「君は相変わらずだなぁ」
呆れたような言葉と裏腹に、それはひどく優しい音で鼓膜を震わせる。
「……ほら」
そうして、彼は、当然のようにわたしを抱き締めた。まるで、愛する人へするかのような、優しい抱擁。彼の腕の中は温かくて、お日様の香りがして、とても安心する。
「やっぱり君は、これが一番落ち着くんだな」
小さく肩を揺らして、彼が笑う。
――鶴丸国永は、神様だ。人とは一線を画す存在だ。数年の月日を共にしても、彼にとっては瞬きの間に過ぎない。彼はきっと、今でも、わたしの無性に泣きたくなる気持ちを理解していないだろうし、この先も理解することはないと思う。もちろん、分かる必要なんてないけれど。
静かに隣にいるのも、肩を貸すのも、頭を撫でるのも、抱き締めるのも、ぜんぶ、人間の真似事をしているだけ。
ただ、それでも。不思議そうにこちらを見下ろすだけだった彼が、視線を合わせてくれる。君はこれが落ち着くんだなと、わたしを知ろうとしてくれている。そのことが堪らなく嬉しくて、わたしは今日を、なんとか生きていたりする。
「……つるまる」
「うん?」
「……ありがとう」
返事をするように、彼がわたしの背をぽんぽんと軽くたたく。いつの間にか涙は引っ込んでいて、お腹の痛みも消えていた。