きみがサンタになる日まで
サンタクロースって、いつまで信じてた?
わたしからの突拍子のない質問に、翠くんは目を丸くするも、すぐに「どうだったかな……」と思案するように瞼を伏せた。
「俺はたぶん、小学生のころまでで……四年生……、いや、もっと小さかったかな。どうしてもサンタクロースに会いたくて、布団の中で寝たふりをしてたんです」
その話に強く共感する。きっと誰しもが通る道。わたしも小さいころは毎年、今年こそはサンタクロースを見るのだと瞼を持ち上げて踏ん張っていた。結局いつのまにか夢の世界に潜りこんでしまっていて、サンタクロースの姿を見ることは叶わなかったけれど。
「俺、相当がんばってて。何時間か経って、たぶん日付も変わったころに、扉が開いたんです。わくわくして、毛布にくるまって声を殺して、ばれないように目を開けたら……」
そこで翠くんは一旦言葉を区切った。そして、懐かしむように笑って、今となっては簡単に予想できる結果を告げる。
「……父さんがいたんです。サンタの帽子をかぶった父親が、俺の用意した大きな靴下の中に、そうっとプレゼントを忍ばせてて。それで、がっかりしちゃって。ああ、サンタなんかいないんだーって」
実際に目の当たりにしたショックは大きかったことだろう。わたしだったらその場で、騙された!と怒って声をあげてしまいそうだ。でも、翠くんの話には続きがあるようだった。
「それで、悲しくなりながら寝たふりを続けてたら、俺の頭を父さんが撫でて『メリークリスマス』って言ったんです。なんかそれが、子どもながらにすごくくすぐったくて。翌朝、何も気づかなかったふりでプレゼントに喜びました。……結局俺がサンタクロースを見たのはその年だけだったけど、ずっと父さんがサンタになり続けていたんでしょうね。きっと、母さんも手伝いながら」
とても穏やかな声だった。聞いていて、幸せな気持ちになれるような。
そっか、と笑ったわたしに、彼はハッとすると、慌てたように謝罪した。
「すみません、つまんない話聞かせて」
「つまんなくないよ」
間髪入れずに否定すると、翠くんは虚をつかれたように目を瞬かせる。それから、聞いていて楽しいと続けたわたしに、安堵したように柔らかい笑みを見せてくれた。
「なら、良かったです。……あの、続きも少し、聞いてもらえますか?」
もちろんだと頷けば、丁寧にお礼を告げてから、彼再び語り始めた。
「当時の俺が何歳だったとか、何のプレゼントを頼んだかとか、そういうのはもう曖昧なんです。でもなぜか、父さんの顔だけは思い出せるんです。プレゼントを忍ばせる父さんの表情が、すごく幸せそうだったこと。最近になって、俺もいつかあんな風になれるかなって思うようになって。その時、そこに、先輩が……」
そう言ったきり、翠くんは口を噤んだ。その時、そこにわたしが……。続く言葉は想像できて、まるでプロポーズみたいだなと、鼓動が早くなった。
そっと、その手に触れてみた。ぴくん、と僅かに肩を跳ねた彼が重なった手を見て、嬉しそうに目を細める。それが幸せで、この先もこのひとと幸せになりたいと思って、どうしようもなく泣きたくなった。
どちらからともなく唇が重ねられて、甘い空気が満ちていく。
――緑くん。わたしもいつか、きみがサンタさんになって、愛する子どもにプレゼントを忍ばせるところ。それを、きみのとなりで見つめていたいよ。
2018