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 滑らかな肌を湿らせ、豊満な胸を揺らしながら、女が喘ぎ続けている。「もう、はやくぅ♡身体、熱いのぉ……っ♡んっ♡」ねだるように見上げる女の唇を深く奪いながら、南雲はちらりと視線を動かした。
 ネオンランプに照らされた、仄暗い空間。南雲らがいる部分から少し離れ、数段登った先のホールのような場所は薄いカーテンで囲まれていた。まるで謁見を待つ王のような立場にある人影が、薬の製造者でありこの店の裏の支配人であることは間違いない。

(まあ、やっぱりそんな簡単に話せたりはしないよね〜〜)

 女の体を愛撫しながら、南雲は考える。

(ひとまず向こうに覚えてもらわないことには話にならないかぁ)

 その時、自分たちが入ってきた扉の向こうが騒がしいことに気がついた。
 南雲はぴたりと動きを止める。もどかしそうに見上げる女を制し、彼は周囲で監視するスーツの男を見渡すと、

「向こう騒がしいけど、大丈夫ですか?」

 と、問いかけた。

「よくあることです。お気になさらずに」
「……そう」

 なるほど、周りの男たちには動揺の一つもない。確かに南雲らがここへ入る前も、一つ前の部屋には多くの男女が待機しており、その中でいざこざが起こることは珍しくないのだろう。

(う〜ん、でもこれは……。まあいっか)

 南雲の勘では、ただのいざこざとは思えなかったのだが。例えばここで支配人が襲われることになって、それを見事に鎮圧できたりしたら多少なりと繋がりができるかもしれないと思い、敢えて何も言わないことにした。
 女の首筋に唇を這わせながら、その体を持ち上げて向きを変える。カーテンの向こうにいる男に見せつけるような格好になり、女は「やだぁ」と恥じらいつつも一層興奮した。更に「自分でやって?」と南雲に囁かれ、彼女は一瞬躊躇う素振りを見せたが、結局は言われるがまま行為に及んだ。

「いい子だね〜。手伝ってあげよっか」
「ぁっ、ひっ」

 子宮がある辺り、下腹部を南雲の手が押さえつける。唇の端から涎を垂らして女が喜んでいるうちに、扉の向こうの喧騒は一層大きくなった。
 カーテンの中の向こうの男が、煩わしそうにみじろぎする。それを受けて、とうとう扉の一番近くにいた男が動いた。

「貴様ら、いい加減に騒がし――」

 叱責は、途中でぶつりと途切れた。
 額から血を流し、男がどさりと倒れ込む。華奢な人影が入り込んで、南雲はそれを止めようと僅かに構える――、が。

「!」

 彼の目はその扉の向こうに倒れる女を捉えた。捉えてしまった。屈強な男に背後から自由を奪われ、今まさに犯されそうになっているのは、南雲がここに連れてきた名前で。

(部屋から出るなって言ったのに……!)

 そう思うのと同時に、南雲の体は動いていた。
 側にいた女から手を離し、入り込んだ人影を躱して、名前の元へ。女が非難するように呼び止めたけれど、南雲はそちらを見向きもしなかった。
 目にも止まらぬ速さで男と名前を引き剥がし、次いで男の意識を完全に落とす。それから、名前を抱き寄せるように支えた。

「名前ちゃん!」
「南雲、くん……?」

 掠れた声で名前が呼ばれる。潤んだ瞳に南雲が映る。柄にもなく、南雲は安堵の息を吐いた。