01
名前が南雲と再び会うことになったのは、クラブでの出来事から一週間後のことだった。
大学もバイトもない、一日中休みの日。スマートフォンに少し会えないかと連絡があり、了承してすぐ、南雲が車でやって来た。呼び出され、アパートの階段を降り、すぐ側のコンビニの駐車場へと向かう。
「久しぶり〜〜」
相変わらずにこやかに笑いかける南雲は助手席にいて、後部座席にも影がひとつ。リアガラスが開いてその姿が露わになり、名前は目を見開いた。
「アカリ……!」
「久しぶり、名前」
アカリは記憶の中よりもやつれていた。名前が気がつかなかっただけで、クラブで会った時からそうだったのだろう。
力なく笑うアカリに名前も精一杯微笑み返した。「元気そうでよかった」とは、口が裂けても言えなかった。
「ようやく喋れる状態になったからね〜。とりあえず、顔合わせ。しばらく会えないだろうし」
助手席から南雲が説明する。
淡々と告げられた事実は冷たいものではあったけれど、それは名前もアカリも既に承知していた。
「仕事の合間に来てるから、あんまり時間はないんだ〜。何か言いたいことある?」
腕時計を見ながら急かした南雲に、アカリは「名前」と呼びかけた。
「……うん」
「色々、本当にごめん。それから、ありがとう。あたし、頑張るからね」
「……うん」
開いた窓越しに腕を伸ばす。アカリも少しだけ身を乗り出してくれて、名前はその体をぎゅっと抱き締めた。ふと鼻を掠めたのはいつもと違うシャンプーの香りで、本当に違うところで生きているのだと、それが少しだけ寂しかった。
「連絡、待ってるからね」
振り絞った明るい声に、アカリは微笑んだ。
短い会話を終えて、車が走り去る。遠くの景色と同化する様子を、名前はいつまでも眺めていた。
――それ以降。
南雲が名前に連絡をすることはなくなった。当然、会いに来ることもない。そのうち大学は夏休みを迎え、名前は友人と何度も遊びにでかけた。来年、大学四年生になってしまえば、卒業論文等で自由な時間はぐっと減る。今のうちに遊べるだけ遊べ!というのが、名前含めた友人の考えだった。
海も山も行った。女友達だけでなく、男友達とも。大人から「若いっていいね」と笑われそうに毎日をはしゃいでいても、時折名前はあの日のことを思い出す。
現実離れした悍ましい空間。恐怖の中で手繰り寄せられた南雲の掌。その手が触れた温もり、降りかかった声の色、世界の表も裏も映すような眼差し。
きっとそれらを、あの端正な男のことを、名前はずっと、忘れられない。