06


 いつのまにか街路樹はすっかり彩を失い、外出にはコートが手放せない時期になってきた。木の葉が紙吹雪のように舞い落ちてくる中を、名前とすずめは並んで歩いている。相変わらず、二人はよく一緒に出かけていた。名前の耳には、あの日、南雲から貰ったイヤリングがきちんと飾られている。その会話が彼に筒抜けであることは、二人は知る由もなかった。
 映画に行きたい、と提案したのはすずめだった。二つ返事で了承した名前は、すずめが何を観るつもりなのかもまだ知らない。
 映画館のなかは、ポップコーンのにおいが充満している。ポップコーンなんてふだんは大した興味も湧かないのに、ここに来ると無性に食べたくなるのはなぜだろう。そんなことを思いながら、名前はじっとフードメニューの看板を見つめた。

「すずめちゃんは、塩派?キャラメル派?」
「どっちも好きやねん」
「あは、一緒だ。半分のやつ買おっか」

 とはいえ、それより先にチケットだ。結局何を観るのだろうと不思議がる名前に、すずめは飾られていた大きなポスターのひとつを指差した。典型的なボーイミーツガールというか、恋する少年少女の高校生活を描いた群像劇で、すずめのイメージからはすこし意外なものだった。

「すずめちゃん、こういうの好きなの?」
「まあ、嫌いやないよ」

 その目は、どこか羨ましげに光っている。
 チケットを買い、ポップコーンと飲み物を抱えてシアターに入った。今後公開される映画の宣伝や、鑑賞中のマナーについての映像が流れてしばらくして、辺りがじわじわと暗くなった。隣にいるすずめの顔も朧げになっていく。前方の大きなスクリーンが明るく光る。制作会社のロゴが流れる。
 コテコテの恋愛映画を観るのは、はじめてだったかもしれない。画面の中できらきらと笑顔を弾かせ、宝石みたいな涙を零す少年少女は鮮やかでうつくしい。晴れて結ばれた相手へと、少年が甘い言葉を囁くシーンでは、映画館のどこからともなく小さな悲鳴があがった。その少年役の俳優が今売り出し中の若手俳優だということは、映画に入る前に、ファンと思しき女性たちがポスターの前で写真を撮っていた時に知った。たしかに綺麗な顔をしているし、演技もうまい。けれど、名前は、どうしても、(南雲くんのほうがかっこいいかも)と思わずにいられなかった。
 彼らが学舎を卒業するシーンで映画は終わった。桜吹雪の中で手を繋ぎ、未来を語らう様がやけに眩しくて、少しだけ羨ましい気持ちにもなった。
 それは、すずめも同じだったらしい。映画を観終わったあと、フードコートでハンバーガーをかじりながら、彼女は「あんな青春してみたかったねん」とぽつりと呟いた。

「わかる」
「名前はしとったやろ」
「え〜、してないよ」
「彼氏おらんかったん」
「いなかったわけじゃないけど……。あんなドラマみたいなことは起きなかったなぁ。気づいたら振られてたし」
「告白は名前から?」
「ううん、向こうから。で、思ってたのと違うーって」
「うっわ、最悪なヤツや!」

 めくじらを立てたすずめがおかしくて名前は笑う。「昔のことだよ」べつに、それが原因で恋愛が嫌になったとか、深い傷ができてしまったとか、そんな話でもない。本当に、ありふれた恋愛で、ありふれた別れだったのだ。

「ウチやったら多分殴ってるわ。殴るどころか股間蹴っとるかもしれん」
「すずめちゃん厳しいな」
「名前だって股間蹴るやろ」
「蹴らないよ。あ、もしかして、前のナンパのやつのこと? あれはあの人たちが手上げたりするからさぁ……」

 シェイクをちまちまと吸いながら、