07
部屋を出た南雲は、来る途中に見たホールへと向かった。音、光、煙、香り。様々な欲望が入り乱れたその場所で、何人もの男と女が重なっている。
それらを横目に、南雲は足を進める。相手の女を探す素振りをしながら、従業員用の部屋の位置や隠し通路がないかなどを確認する。その最中、
「ねえ」
笑みを含んだ声で呼びかけられ、南雲はそちらを振り向いた。
真っ赤なドレスを身に纏った官能的な女が、蕩けた瞳を向けている。濃い赤色のグロスは艶っぽく、男を誘う唇だった。
「頬。やられちゃったの?」
自身の左頬に触れながらおかしそうに問いかけた女へ、「そう、嫌がられちゃった」と南雲は肩を竦めた。女はどうやら、名前が南雲の頬をひっ叩いてできた僅かな痕に興味を持ったらしい。
「へえ」
と、楽しそうに女は目を細める。
「でも、最後までしたのかしら」
「当然。これ、すごい効果だね〜〜」
南雲がポケットから例の小瓶を取り出した。女はいっとう笑みを深くする。
表情の細かいところから、南雲はこの女が薬の製造者と繋がっていることを察した。運がいいと思いつつも、それをおくびにも出さず、「作ってるひとに会いたいくらい」と零す。それと同時に、ごく自然な動作で女を引き寄せ、その瞼に口付けた。
「あら」
甘いマスクの男のキスに満更でもなさそうにした彼女は、建前として「お相手はいいの?」と尋ねた。「疲れて寝ちゃったから」と笑った南雲は、「それに君みたいな女性がひとりでいるなんて、誘うに決まってる」と甘く囁く。
すっかり気を良くした女は、南雲の唇を舐めるようにキスをする。南雲もそれに応じ、程なくして舌と舌を絡め合う深いキスへと変わっていく。
「貴方、すごい」
ようやく唇が離れた時、女は蕩けた表情で南雲を見上げた。そうして、「さっきの。薬作ってる人に、会えるわよ」と簡単に零す。
「そうなの?」
「ぁん」
南雲の指がドレスから零れそうな胸元をなぞった。女は恍惚とした瞳で彼を見て、「あっちの奥にいるの。目の前で薬飲んでやってるとこを見たい変態だから、見せてあげるって言ったらすぐ会えるわ」そう言いながら、南雲の愛撫を受けて体を震わせる。
「へえ」と興味深けな相槌を打つ南雲へ、女は「私と行く?」と提案した。「嬉しいお誘いだけど」と南雲は微笑みながらも、「でも大丈夫?薬盛られちゃうんでしょ?」女を心配する素振りをみせた。
酔いと薬の効果もあったのだろう、すっかり南雲に気を許した女は、彼の言葉を素直に受け取って「優しいのね」と目を細めた。
「私、解毒剤もらってるの。すぐ大丈夫になるわ」
「解毒剤があるんだ。なんでもらってるの?」
「秘密♡」
流石にそこまで口は軽くないらしい。
とはいえ、彼女が薬の製造者――この店の裏の支配人と繋がっていることはほぼ確定だった。金払いが良いのか、あるいは、南雲を誘った魅惑的な身体をオーナーも気に入ったか。
鮮やかな唇が近づいた。南雲は嬉しそうにそれを受け入れて、女の体を弄る。ドレスの裾をたくしあげ、太腿をなぞった時、細いレッグホルダーの存在に気づいた。先程話していた解毒剤はここに隠しているらしい。
一層深い口付けで女の自由を奪いながら、南雲は解毒剤をするりと抜き取った。女は気づかない。幸せそうに体をぴったりとくっつけて、「行きましょ」とねだる。強い香水の香りと共に押し当てられる豊満な胸。
南雲はふと、名前の姿を思い出した。肌を露わにしたとはいえ、こんな風に色気があるわけではなかったけれど。自分の行動ひとつひとつに動揺して恥じらう様は、なんというか、くるものがあったかもしれない。