邂逅

 寒気を加えた風が、崩れた近界民ネイバーの装甲を掠っていく。もう夜を呼ぶばかりの木枯らしに舞い上がる、木の葉や、ちり屑。それらが隊服につくのを払い、瓦礫の中を移動する。
 四年前――ここ三門市に、後に『近界民ネイバー』と呼ばれる、異次元からの侵略者が出現した。こちら・・・の世界とは異なる技術テクノロジーを持つ近界民ネイバーには地球上の兵器は効果が薄く、誰もが都市の壊滅は時間の問題だと思ったところに現れたのが、界境防衛機関『ボーダー』。近界民ネイバーの技術を独自に研究した彼らは、市街の一部分を警戒区域とし、その中心に本部を構え、近界民ネイバーの出現箇所を誘導することに成功した。
 つまり、四年前のあの日以来、住民の暮らす市街地でゲートが発生することはない――はずだった。

(昨日で6件、今日も夜中に1件、昼間に三門第三中学校で1件、こっちは計2体出現。続けざまに川のところで1体、木虎ちゃんが撃破。その後別の場所でも爆撃が続いて、最初の報告でも18名が死亡、重軽傷者は100名以上……)

 忍田さんからの報告を思い出し、小さく溜息を吐く。早く原因を見つけなければ、より被害が拡大することだろう。けれど悩ましいことに、開発室総出でもこのイレギュラーなゲートの発生原因が分かっていない。
 上司の忍田さんに頼まれて、わたしも昨日の夜から近界民ネイバーの発生現場に赴いて原因を調べているところだけれど。

(昨日の夜なんかは、調べるどころかゲート開いちゃったしな……。さっきの爆撃の後、鬼怒田さんがゲートを強制封鎖したらしいし、今日はそんなことはないはずだけど)

 抉られてボロボロになった壁から、校舎の中へと侵入する。今日近界民ネイバーの襲撃があった三門市立第三中学校だ。窓ガラスが散らばっていて、かなり悲惨な状態。近界民ネイバーが2体現れたということだったけれど、これで死者どころか負傷者がゼロだったんだから驚きだ。忍田さんの話によると、嵐山隊が現場に着く前にC級隊員の子がトリガーを使って撃破したという話だった。それで確か、隊務規定違反だから処罰しろ派と、規定違反とはいえ市民の命を救っているんだから処罰は無し派で論争を行っているんだっけ。
 誰もいない夜の学校は静かで不気味で、今にもお化けが出てきそう。正直ちょっと、テンションがあがる。
 パキ、パキ。散らばったガラスを踏み抜いて歩いていたら、どこからかガタリと音がした。

「……?」

 重たいものを動かすような音。耳を澄ますけれど、向こうもこちらに気がついたのか音は止んでいる。けど、この真っ直ぐな廊下で隠れられる箇所なんて限られている。不自然に盛り上がった瓦礫の後ろか、その奥の階段の踊り場。並んだ教室の中という可能性もゼロではないけれど。

「……こんな時間に学校にいるなんて、幽霊?それとも、昨日からゲート開けまくってる近界民ネイバー?」

 わざと挑発するみたいに声を上げて、廊下を突き進む。ネズミ一匹だとしても、わたしの目からは逃げられない。とっ捕まえて、何もかも吐かせてやる。
 瞬きなく足を進めたら、不意に小さな瓦礫が飛んできた。払い落した直後、視界の隅で走り去る白色を捉える。

(……ッ、制服?)

 随分小柄な体躯だったけれど、服装は確かにこの中学校の制服だった。幽霊でも近界民ネイバーでもなく、ただただ夜の学校に侵入した悪戯っ子っていうこと?
 眉を寄せながらも、逃げた少年を追いかけようとして。
 ピピピ!
 突然、スマートフォンに着信が入った。迅からだ。

「……はい」

 追跡を中断し、通話に出る。「よ〜、お疲れお疲れ」軽い調子で告げる彼に肩を竦め、ぽっかりと穴の空いた壁際まで戻った。吹き抜けてくる夜風が気持ちいい。

「今、イレギュラーゲートの原因探りに市内回ってるだろ」
「うん。ちょうど三門の第三中学校」
「それ中断して、戻ってきていーよ。というか、戻ってきてほしい」
「……さっき変な人影みたけど、それが関係してる?」
「まあ、そんなとこ。イレギュラーゲートの原因は、明日になったら分かるよ。一緒に来る?」
「エ」

 さらりと告げられた言葉に、苦虫を嚙み潰したような声が出た。「何今の声」と電話の向こうで迅が苦笑する。

「なんにも……ッ、なんにも役に立てなずにいいところ全部持ってかれる……ッ」
「なんだそんなこと」
「そんなことじゃないし!」

 ムキー!と怒りの声を上げて、校舎の廊下から飛び降りる。


 

[ PREVNEXT ]

[ backtop ]