雑記


獄門伴連申立


体からはじまる獄空とか書いてみたいね〜と思って書きました。
そんなにエッチなことはしていないですがR18です。
あと体からはじまるというか、はじまりそうな獄空って感じです。

 疲れた、と寺に来るなり呻いて転がった男をからかったのが全てのはじまりだ。
 日の落ちかけた時分、ちょうど人がいなくなる頃合いで、咎めるでもなく相手をしていた。げっそりとして精彩を欠く姿は珍しい。つい、いたずら心がうずうずとして、畳の上に寝そべるのの横に侍って、頭をぐしゃぐしゃと撫で、二言三言つまらないことを囁いたら、あっという間に捕まえられて、抵抗も逃げる暇もなく後ろから抱き込まれた。
 いつもより素早くキレのある反撃は無遠慮にセットを崩したことへの怒りか、下世話なからかいへの苛立ちか、体裁を放り投げるほどの疲労かその全部か。野生動物だって手負が一番恐ろしい。
 足はともかく手はぎゅっと締めつけられて動けず、じたばたとすると普段は意識しない体格差を感じてしまう。しかし脛を狙って蹴り上げても舌打ちするだけで怯まない。そういえば逆境で闘争心を煽られるタイプだった。
 燃え盛る炎に油と薪をしこたま放り込み、その周りで呑気にダンスをしてしまった、と気づいてももう遅い。自由にならない上半身が少しゆるんだと思ったら、がばりと前を開かれた。なんで、と喉から出かかって、あ、と数分前の自分を思い出す。
『ひとやくん、おしごといやいやでちゅか〜?』
『ママのおっぱいのみまちゅか〜?』
 寺に来る人間は疲れ切った者も多い。それこそ今、羽交締めにしている男だってそうだ。そんなしょぼくれたツラをした連中を捕まえて、ちょっと話を聞いてやると『ママ……』と言って拝まれることがある。はじめはお前の母親なんざごめんだ、と言っていたが、鳴き声みたいなもんらしい。だんだんと今だけママになってやると、と適当にあしらっていたのが知らず出てしまった。無くて七癖、とは違うか。いやはや習慣とは恐ろしい。
 そんな振り返ってもしようのない過去よりも今だ。見えなくとも爛々と光るのが伝わる、嬉しくのない熱視線を感じながら身をよじる。はじめはこそばゆい、と笑っていたのに、だんだんと腹の奥がもやもやと重くなって、ついにびり、として背が震えた。
「も、い……だろっ」
 自分からふっかけたから強く出にくく、暴力に訴えて怪我をしたら馬鹿らしい。絶対後悔するからやめろ、と促してやめてもらうしかない。それなのにうわずった声で切れ切れにかすれ、つくろい損ねた強がりが目立ってしまう。
「よくねえよ」
 お前はヨサそうだが、と言外に告げる声と同時に指がきゅう、とつまんだモノを引っ張って、くりゅくりゅと弄ぶ。自分でも、もちろん他人にもそんなふうに触れたことも触れられたこともない。なかった。なのに。
「ふ、ぁ……っ」
「……おっぱいなんてねえじゃねえかと思ったが、ここはまあまあだな」
「ひ、あうっ」
 自分でも弄ってるのか、なんて、そんなわけ、
「な、ぃっ……!」
「だとしたらとんでもねえモロ感乳首だなぁ?」
「も、りょか、ん?」
 頭がのぼせて働かず、目の裏っかわの奥がちかちかして、舌がぶるぶるふるえて上手く話せない。
 それなのに怒った男の手はくるくると器用に動き回って、的確に弱点を苛むのだ。
「なぁんもしてねぇのに感じまくるやらしい乳首ってことだよ」
「ふぅっ……!」
 楽しげに弾んだ言葉の尻尾と同時に、乳首をつまんだ指もぴぃんっ、と跳ねた。
 気づけばすっかりふくらんでいた乳首は硬くしこり、指ではじかれた衝撃を余さず受け止めてしまう。それも一度ならず二度三度と、リズムを刻むように爪先でぴん、ぴぃん、といたずらをされるのに逃げることもできない。初めての感覚にぞくぞくびくびくと背と腰が重くふるえ、喉奥から信じられないくらいか細い悲鳴じみた声が出た。
「ぁ……ぅあ……ゃ、あ……」
「すっかりしおらしくなってまあ……」
 いつもこうならいいのに、とぼやくのにむっとするものの、察しよく乳首を弄ばれてまたなんにも考えられなくなる。
「きもち、ぃ……」
 ぽろりとこぼれた言葉は無意識のもので、うっとりと感じ入るような響きだったのにじわじわと恥ずかしさが込み上げた。こんなの聞かれたら男がどんな反応をするものか。
 ところが身構えても何も起こらない。それどころか乳首を弄くり回していた手も止まり、さっきまでいやらしいからかいを囁いていた口だってだんまりだ。
「ひとや……?」
 ほどなく拘束もゆるみ、ぼんやりとしながら後ろを振り向くと、顔色を紫にした男がわかりやすくしまった――という表情で、手を虚空にぶらつかせていた。



 カッとしてつい――そんな馬鹿げた理由で年下の、それもまだ成人したばかりの子供の服をひん剥き、性器に準ずる身体の一部をいじくり回し、あげく下品な揶揄までしてしまったのを、山よりも高く海よりも深く悔いていた。
 何もかもが大問題ではあるが、乱れた衣服を整え、居住いを正した少年は『家族』であっても淫らな行為をするような相手ではない。苛立ちまじりに少しばかり痛い目を見せようとしただけだったのに、生意気で粗野な子供の見せる思わぬ艶にぐらりとしてしまった。
 最初に下世話な揶揄いをしてきたのは綺麗な顔とそれに反する悪垂れそのままの頭が不釣り合いな少年だから、とぐらつくままにまかせてとんでもないことをした。下品な戯れの範疇を越えたやらかしに、存外に『家族』に甘い少年とて軽蔑し、怒り、失望されるだろうと思っていたのに。
「もう気にすんなよ。もとはといや拙僧のせいだし」
「気にしないわけないだろ……!」
「最初にヘンなこと言ったの拙僧だろ。獄だし、別に気にしねぇけど……」
 いっそ詰られ責められ罵られた方がマシな寛容を見せつけられて、余計にぐ、と息が詰まる。けど、という言葉にわずかなよすがを託すが、どうせお前は気にするよな、などと続いてしまうのだ。普段の傍若無人を絵に描いたようなめちゃくちゃさを『今』発揮してほしい。
 こういうとき、こちらから詫びだ、なんて言って頭を下げたり何かを差し出しても、それでお前が楽になるなら、という風情で受け取られる。遅刻しただの、勘違いしただのならばこちらも許しの強制じみた行為に抵抗はないが、今回はそうではない。
 気にしない、と言う相手はすでにもうこの過ちをなかったことにしようとしてくれている。そこに追いすがり、ほじくり返すようなマネをしていいとは思えない。度が過ぎた戯れとしておしまいにしてくれるのは、今後も『家族』としてありたいと思ってくれているからだろう。
 それでも、一時とはいえ吸いつくような肌のなめらかさと、打てば響き触れるほどに鋭敏になる感度の高さ、未知の快感に身悶えるうぶな色気に目眩んだのは変えようがない事実なのだ。これ以上の許しを乞うのは無礼でも、とても頭を上げられない。
「……けど、拙僧が許さない、変態、おっぱいマニア、乳首フェチって言ったら、獄、ラクになんだろ?」
 きゃらきゃらとかわいらしい、おもちゃみたいな声だった。わざとらしいほど甘さを増した声音にそぐわぬ鋭く苦い、毒を含んだ言葉に思わず顔を上げる。
「許してやるから、せいぜい悩めよ」
 にっこりと上品に微笑んだ顔はこの寺にもあるご本尊に勝るとも劣らない慈愛に満ちていたものの、その奥深くからしみ出し溢れるのは、間違いなくよく知る少年の今日触れたばかりの甘くとろける色香そのものだった。
「ところで拙僧、このままだとちょぉぉぉ……っと、人前に出るには憚られるんで部屋に着替えに行くんだが」
 どうする? と問いかける金色の目が、つい、とこちらの下肢――下腹部を舐め、また目へと戻る。
 眼差しとともに差し伸べられた艶かしく白い手が導くのはどこなのか。くらくらとしながら掴めば、あっという間に飲み込まれてしまった。
2023/01/25/作文


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