雑記


その天秤は愛で穢れている


一個前に書いた女体化空却くんの獄空の書けたところだけです。
検分シーンの前までなのでR18ではないです。
女体化っぽいところは空却くんの体格の表現だけで、口調や服装はそのままです。(なのであまり女体化という感じはないです)
東都の相棒の名前や存在が当て馬か間男のように登場しますが、獄が東都時代の話を聞いたら絶ッ対〜〜〜妬くしモヤッとするだろうな……という相手なので、ご容赦下さい。

 行くときと同じ気軽さで帰ってきた子供は、少しだけ変わっていて、あとはほとんど同じだった。綺麗な顔もスタイルのいい身体も、ほんの少し縦に伸びてピアスが増えたくらいだろうか。
 真昼間に事務所の入口でうるさくするから所長室に押し込み、脱走しないように鍵をかけ、厳重なことだと嘯く子供に向き直る。数年ぶりと思えぬ態度でソファに腰掛けるのに、ようやく何があって、どうして帰ってきたのかと問えば、なんでかよくわからん、ただもう一緒にいられない、あそこにいられないと思った、とぽつぽつと語られた。ときおり目を細め、舌打ちをして痛みをこらえるように眉間に皺を寄せる子供の目は、遠くを見ていた。一緒にいられなくなった誰かとその地へと、金色をぼんやりとゆらめかせて。
 まさかこんなわかりやすい理由で帰ってくるなんて思っていなかった。達観して見えてもやっぱり子供だ。相手の詳細な素性は言おうとしないが、話を聞く限り同世代で、同じくらい喧嘩が強い、何よりいかにもこの子供が好みそうな真っ直ぐな心根の気持ちのいい男だったらしい。いちろう、と本当に小さくもらされた知らない名前に、隣に座ることも出来ずに突っ立っていた男の中で大嵐が起きていたなんて子供はきっと思いもしないのだ。
 さて一体、この子供は自分に何の用があるのだろう。住職から帰宅を知らされるとほぼ同時に事務所に押しかけてきた子供は、出立前はたしかに自分のことを惚れた、好きだ、結婚しろ、婿になれ、と口説いていた。だがもう忘れたい過去のことだろう。あからさまな傷心で出戻ってきたとはいえ、地元に残したキープで穴を埋めようなんてタチじゃないはずだ。むしろ東都で年相応の経験をしたのなら、若気の至りで懐いた三十路男なんかよりずっと相応しい相手を捕まえられる。
 派手な外見にそぐわず存外に義理堅い子供だから、いちおうの報告とケジメかもしれない。なんでもあけすけに話す子供がいやにぼやかした表現ばかりするのも成長か。今よりさらにガキだったとはいえ、十六も年上のオッサンに迫っていたのは消したい過去のはずだ。意識的にも無意識にも匂わされる東都の男の影が、帰還の報告を兼ねた幼い恋の終結宣言なのはわかっている。
 そんなものだ。学生が教師に告白するようなもので、その瞬間はたしかに恋だったけれど時の流れとともに思い出になるもの。子供が自分に向けたのはそういうものだったなんて、はじめからわかっていた。
 住職からの付き合いだから、これからも顔を合わせることもあるだろう。気まずいなんてことはないが、あんまり馬鹿なことをするようなら過去のこっぱずかしい告白を引きずりだせば御しやすそうだ。そう思うとあの振り回された日々も悪くなかった。いや、全くよくはないが。
「で、いつ結婚すんだよ」
「は?」
 予定外の帰宅になったけれど、もうすぐ十八になるから結婚できるだろ、と当たり前の顔をして言われた。あまりのことにぽかんとしていると、は? お前が十八まで俺のことが好きならって言ったんだろ、と上目遣いで凄まれる。言った。言ったが。
「……お前、東都で男出来たんじゃねえのか?」
「はぁ?! デキてねーわ!」
 待て、おかしい、あんな破れた恋に泣き濡れたような顔をして、切なげに知らん男の名前を呼んで、どう見たって百人が百人『失恋しましたね』と言うツラをしていたんだぞ。違う? 本当に? あんな理不尽な力で引き裂かれた恋人達みたいな雰囲気を醸し出しておいて?
「信じられるか……!」
「な……っ、ふざけんなっ!」
 怒りを隠さぬ子供の顔は、初めて会ったときとも、東都に旅立つ間近とも、変わらなかった。そこいらのチンピラなら震え上がりそうな鋭い眼差しも、眉間に深く刻まれた皺も、獰猛に光る犬歯すら、無垢で、純粋で、ただひたすらに綺麗だった。

 鍵をかけていてよかった。なぜなら真昼間の職場と言うにはアダルトコンテンツもかくやという光景が広がっていたからだ。
 自分より十六も年下の、身の丈は二回りは小さい、派手な身なりに気圧されずに向き合えば、細くてやわいばかりの子供を押し倒している三十路男――なんてどうしたって言い訳のしようがない。
 威嚇するばかりの子供が動くより速く、ひとまとめにして掴んだ手首は嘘みたいに白くて細くて、あんまり力をこめたら折ってしまいそうだった。そのままぼすん、と来客用ソファに引き倒した子供が、ぱちくりと瞬きをする顔の幼さときたら、とても東都に男がいたなど思えない。鍛えられて引き締まって見える身体は触れればやわく、まろやかだった。だぼだぼとしたサルエルパンツとオーバーサイズ気味のスカジャンが、小作りで中性的な子供の真実を隠してしまう。
 ぎゃんぎゃんと吠え、じたばたと暴れていた子供も、割り開いた足の間に陣取って、ぐ、と押し入るとさすがに顔色を変えた。じわじわとM字に押し上げられる両足に、怒りと興奮で赤かった顔が、さ、と青くなる。
「ひと、や」
「男、いたんだろ? カマトトぶんなよ」
「そんなんいねぇよ……っ」
 男なんて獄しかいない、と小さく続いた言葉に、は、と渇いた音を立てて喉が鳴った。わらっているようにも響いたそれに、びく、とふるえた小さくて細い身体へ乱暴な気持ちが湧き上がって止まらない。
「……なら、その言葉が本当かどうか確認してもいいよな?」
 俺だけなんだろう? と、無理矢理に開いた足のあわいに手を伸ばし、かすかな恐れをたたえた金色の目を見据えれば、ぎ、と射殺さんばかりに睨み返された。そして今にも切れそうなほど噛み締められたくちびるが痛々しくて、思わずくちづけしかけたのをやめる。
 キスは、小さく細い子供の両の手首を片手におさめたまますることではないと、頭の片隅で叫ぶのが聞こえたから。
2023/10/19/作文


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