雑記


銀河鉄道、泳いで渡れ


電車に乗ってる獄+空。
和衷〜前で付き合ってないです。

 がたん、と電車に揺られていると、隣で隠しもしない不愉快そうな気配も揺れた。使い古されてぺしゃんこの座席につらつらと文句を垂れ流したのはほんの少し前のことだ。平日の終電間際でガラガラだからいいものの、これが満員車両だったら――この男が乗るわけがない。公共交通機関が嫌いだなんてしち面倒臭いことを言う男はそのくせ乗り物が好きで、バスだの電車だのと一緒にするなと言われたが、乗り物は乗り物だろうと言えばため息をつかれた。
 何もかもが面倒臭い男が好きな乗り物は、機能もデザインもこだわりぬいたオーダーメイドの芸術品で、多くの人の営みに特化して社会にとけ込む共有物とは違う。そんなことは空却にだってわかるのだが、興味のない話を延々とされても耳から入って鼻から抜け落ちる。だのに性懲りもなく罪状を並べ立てるときとおんなじに、このモデルがどうたら何年代に流行ったうんちゃらととうとうと語るのだ。
 獄が好きなもののことは正直なんもわからんというのが嘘偽りのない本音で、収集癖だってついていけない。空却とて一切のこだわりがないわけではないが、獄のこだわりが強すぎて自分が何も考えていないように感じるときすらある。実際考えすぎなのだ、この男は。
 ほとんど人の乗っていない車両はそれでもじわじわと減っていき、ついに二人きりになってしまった。ドアが閉まり、動き出すと、窓から見える夜の街が光の塊に変わる。見慣れた建物がみるみる流れ、残像だけ目に焼きつけて消えていく。二人きりの閉じた箱の中、ごとごとと運ばれて行く場所は知っているはずなのに初めての土地のように先が見えない。
 夜のせいだろうか。東都に及ばずとも並べて三大都市と謳われる故郷の景色は、かつて友と呼んだ男と見た眺めを思い出させた。汚いのにギラギラとまぶしくて、目に痛いほど強烈な色に塗れた夜の街。何もかもが目まぐるしく変わり、まばたきしたら失われて、二度と同じものは見れなくなってしまう。思い出すと頭痛をともない、胸がひどくざわつく友との別れもおんなじように光って流れて消えた。違うのはあまりにも焼きついた残像が鮮烈で、何度まばたきをしても忘れられないことだけ。
 隣に座っている男は、不愉快そうに眉をひそめ無言のまま窓の外を睨みつける男は、何を考えているのだろうか。自分よりも年嵩の男は、どうだっていいことはえらく細かく語りたがるクセに肝心な話には触れさせもしない男は、この景色に何を思い出すのだろうか。
 近くDRBを控えてどこかすれ違ったまま、たまたま乗り合わせてこうなった。もう一人は不在だけれども、こんなシチュエーションは滅多にない。これは偶然か運命か。後者を口にしたら男は鼻で笑うだろうが、自分だってそうする。
 きっと男はなんにも終わっていなくて、自分はなんにもわからないまま終わってしまった。終わらないままでは始まれない――だからもう一人はいない。アイツはこの中で一番ちゃんと終えて始めている。しょっちゅう泣いて騒いでも、歩みを止めることはない。だとすればこれは運命だ。せせら笑いがお誂え向きの終わりきれないマヌケが二人、ごとごと終点まで運ばれる。
「獄がコーキョーコーツーキカンが嫌いだっつうの、なんとなくわかったわ」
「いきなりなんだ」
「気にすんな、拙僧もよくわからん」
「そんで結局わかんねえのかよ……」
 やれやれとこれ見よがしにつかれたため息はわざとらしいほど深く、反面、眉間のシワはゆるんでいた。
 もうすぐ目的地に着く。そこから先は知らない。

2022/10/17/作文


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