一周年のくわだて


2023年5月10日でサイト開設一周年を迎えるにあたっての企画用ページです。
関連するものは全てこちらでの更新になります。
企画概要はこちらをご確認下さい。

ディナーはフレンチ


サイト開設日がメイドの日だったので突貫ワンライで書きました。
名古屋旅行の思い出を添えて。

 生臭不良坊主が珍しくきちんとした法衣を纏い、神妙な顔つきで檀家と話しているのを見たときに、ああもう出会った頃の子供はいないんだな、とばかに寂しく感じた――ばかりだと言うのに。

「よ」
「何がよ、だ」
 後光の見えそうな光景を遠目で拝んでから、そろそろいいだろうと寺……というか恋人の部屋を訪ねる。すると神々しくすらあった見習い坊主は、品も質もいいしっとりと重い法衣を脱ぎ捨て、オオスで異様に増えたコスプレ――メイド――喫茶の衣装を着て胡座をかいていた。
 ふわふわとしたレースと光沢のあるパープルのリボンの頭飾りと顔面のつくりだけならば、メイドというよりもお嬢様といった風情があるのが恐ろしい。だけれどもうっすら桃色のくちびるはガムをぷぅ、と膨らましてはぱん、と割り、くちゃくちゃと噛んではぷぅ、ぱん、とくり返す。こんなチンピラお嬢様はフィクションだけで十分だ。
 それだけでもうどっと疲れたのに、本場の女給服ではなくコスプレ喫茶のメイド服だからか、白いオフショルダーでデコルテどころか胸元もちらちらと見えている。ちょうど真ん中あたりについた頭飾りと同じリボンが胸の形をなぞるのが悩ましい。修行の成果かぱつんとふくれた胸筋は際どく覗くのに、首周りと二の腕は隠すように頭と揃いの飾りで覆われていた。
 先ほどまでの厳かな法衣とのギャップで目眩がする。しかし清楚な白と妖しい紫の、一体どんな奉仕をするのか聞きたくなるメイド猛攻はまだ続く。
 胡座をかくには不適切な長さのパープルのスカートは細すぎないプリーツが可愛らしく、ふんだんにレースのほどこされたペチコートが組まれた足の隙間を埋める。たくましいだけでなくむっちりとしたやわらかさのある太ももは、ニーハイソックスに包まれて窮屈そうにしていた。
 昼夜を――内容を問わず、『鍛えられた』身体は、引き締まり、たくましく、色っぽい。これまでも何度となくこういったコスチュームの恋人を愛でてきた。着なくていい、好きじゃない、と言っても、最後には二目と見られない有様にしてしまう。これを嘲る人間は、かわいいかわいい恋人が御膳立てした据え膳を袖に出来るのだろうが、あいにくと俺には出来ない。
 軽口をたたき、ガムをくちゃくちゃと噛む恋人が、今日会った檀家がメイド喫茶をやっていて、やっぱりオオスだからB.A.Tを応援したいと紫ベースのコスチュームを用意して、よければチェックしてくれと渡された衣装が着れそうだからつい、なんてしどろもどろに言うのを無碍には出来ない。
 衣装が一式入っていたであろう袋の側に、つやつやとした一際深いパープルのハイヒールがあった。それは履かないのかと聞けば、畳に傷がつく、とお父上の苦労が偲ばれる殊勝なセリフを吐く。
「……さすがにセクシーすぎないか?」
 上から下まで、再度目で舐め回すと、ず、とわずかに後ろに退いた。何度となく浴びせた視線の意味がわからないほど恋人とておぼこではない。今日までみっちり、ストイックで頑健だった身体に甘くやわらかな色を教えてきたのだ。今、この格好をどういう意味で見られ、どういう意味で言われた言葉なのか、わからないわけがない。
「試作品、だってよ」
 胡座をかいていた膝を片方立て、ふわりちらりと見えそうで見えない期待をそそられる。顔はもう腹を括ったしたり顔で、しどろもどろだったのが嘘のように挑発してきた。
「じゃあどうなってもいいってことだな?」
 不埒な誘いに乗ってやっても揺るがない金色の鋭さはいつまで保つのか。それは手を伸ばして触れた先の恋人だけが知っている。

2023/05/15/作文/


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