皿もベッドも肉が乗る
若いうちにやっておくべきことの一つに暴飲暴食があげられるが、三十路も半ばを過ぎようとしている天国獄もそれにはまったく同意であった。量を筆頭に、若さでごり押した無茶が通らなくなり、体が限界を訴えるのをひしひしと感じはじめたからだ。
かつてはこれっぽっち、と感じた小盛りがちょうどよくなり、物足りないどころかありがたくなる。目の前で質も量も評判の店のゾッとするような量をたいらげる恋人にはまだまだわからないだろう。これに十四も加わるとさらにとんでもないことになる。細い体でカロリーがなんだと言いながらよく食べるのだ。
気持ちいい食いっぷりを眺めるのは悪くない。見ていて腹いっぱいになるし、もっと食え、もっと育て、もっと大きくなれ、と不思議と心も満たされる。これ以上、大きくなりようもない年齢ではあるが、人生は長い。獄より十六年下の恋人は、何事もなければ少なくとも十六年分は長く生きる。
「なんか拙僧ばっか食ってねえか」
「俺はもう入らん」
柄にもなく遠慮するな、と皿を寄せれば、じゃあ遠慮なく、と拳サイズの唐揚げにかぶりついた。あんぐりと開いた口から覗く鋭い犬歯が、からりと揚がった綺麗な狐色の衣に突き刺さり、そこからぷしゃりと脂が吹き出す。あひ、と小さく呻くもそのまま噛み切り、熱さをこらえるようにくちびるをとがらせた。
噛み締め、飲み込むまでの間。大皿に盛られた大半を蹂躙したにも関わらず、初めて口にするように、ぱあ、と表情を明るくし、目を輝かせ、口元をほころばせる。幸せそうにゆるむ眉間と、ほんのりと赤らむ頬は、寝顔とどっこいに幼い。
無心無言で二口目、三口目と消えていく塊と、脂でぬめるくちびるを交互に眺めていると、視線に気づいたのか、じぃ、と金色の目がこちらを見つめていた。なんでもない、と目配せすると、訝しげにしながらも最後の一口を放り込み、惜しむようにゆっくりと咀嚼をはじめる。どうやらお気に召したようだ。
これは恋人の欲目なのだが、個室をとってよかった。
存外に上品に、けれども楽しんで味わう姿は大勢で盛り上がるときにはそうでもないが、二人きりとなるととたんに目を引く。
なにより食った食ったと満足げにくちびるを舐める舌がそれはもう大変にうまそうで、少しだけ味見をさせてほしいのだ。もちろん全ていただくのは帰ってから、じっくりと。
2021/11/29
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