手のひらではおさまらぬ

「馬ァ鹿、拙僧がこれ以上かわいくなったら困るのは獄だぜ?」
 何もかもがととのって寝るだけとなった夜遅く。居間のソファでくつろぎながら、なんの話の流れだったか、恋人にかわいげがない、と漏らしたときの返事がこれだ。
 顔はかわいい。整っていて綺麗だ。大人びた表情をすると幼さの残る雰囲気と相まってひどく清らかな美しさを放つこともある。極稀の、ほんの一瞬のことで、ほとんどは元の良さを感じさせないクソガキでしかないが。
「ぬかせ」
 かわいくなくて困ったことしかないのだ、かわいくなったら万々歳だ。人の話も言うことも聞かず、面倒ごとを押しつけ巻き込むーなんでこんなのと付き合っているのか。ともかくちょっとはマシになるだろう。
「ンなこと言っていいのかァ?拙僧がかわいくなるの、獄にだけじゃないんだぜ」
 笑っているのに鋭く光る目が楽しそうにこちらを射抜く。本当にいいのか?と問いかける金色が、心をゆさぶった。
 さまざまな、本当にさまざまなことが頭をよぎり、思わず黙り込むと、それみたことか、と目と口元が綺麗に弧を描いて、悪魔のような哄笑を上げる。
「ごうつくばりのダーリンのために、これからも獄にだけかわいい拙僧でいてやるよ」
 手始めにこの後ベッドの上とかで、と微笑むくちびるはつやつやとしていて、悔しいほどかわいかった。

2022/5/6


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