愛欲に目暗んで
連休あけて五月六日。
語呂合わせでおかしな誘いをかけられ続け、気づけばチェックするようになってしまった。
「……ゴムの日……」
代表、どうかされましたか?という声になんでもないと返すも上手く取り繕えなかったらしい。
気になることでもありますかと少しだけ緊張した問いかけは直近の案件がすべて順調に片付いているからで、それが嵐の前のなんとやらだったりするからだ。
申し訳なくなって私情だと言えば、合点がいったのか安心したように顔をゆるませた。
「連休はお寺も繁盛しますからね」
五百年の由緒は伊達でも飾りでもない。DRBの影響もあって物見遊山の観光客が増えてやかましいとぼやいてた。
たまさかの連休は重ならず交わらず、そのことを察しての言葉だろう。邪僧との交際を明かしてから何を言ってもしても惚気にすげ替えられるのにも慣れた。
こちらの悩ますのは想像されるような可愛らしいものではないのだが、話すようなことではないから曖昧にうなずいてごまかす。微笑ましげに去っていく背を見送ってため息をつくと、ブ、とメッセージアプリが通知をよこした。
『今日はなんの日だ』
ちなんだ土産を持っていってやるという訪問予告に目眩と頭痛がいっぺんに襲いかかってくる。
一体全体何を持ってくる気なのか。いつもくちゃくちゃさせているモノならまだしも、昼を過ぎてもまだ日が高い時分にははばかられるモノだったならばどうしたものだろう。
寺でも事務所でもキスまでしかしないようにしているし、ウッカリ火がついても本番だけは避けているのだ。
もちろん今日だってそうするつもりで、そもそも全部が予想でしかないのに、これまでの恋人の色めいた猛攻に不埒な想像が止まらない。
そうこうしている間に、聞き慣れた足音と声が事務所にやってきてしまった。
もう腹を括るしかない。
「よ!」
いつまでたっても部屋に来ない、どころか所員室のあたりでなにやら楽しげに盛り上がっている。
前者のゴムだったかと足を運べば、思い描いたとおりの笑顔が待っていた。同時に香ばしい、ひどく腹に響く匂いが飛び込んでくる。
「おい、これ……」
「言ったろ、今日はなんの日だって」
肉屋のおばちゃんがたくさんくれたから差し入れだと、机の上にうず高く積まれた黄金色に輝く小判形の物体ー
「……コロッケ?」
「五と六でコロッケ、だと」
ちょうど会いに行こうとしていたから言われるがままにもらったのだと言うそれは、まだ湯気が見えるほどあたたかい。
小腹が空く時間帯にはありがたく、かつ胸を撫で下ろした展開だったにも関わらず、なぜか少しがっかりとしていた。
落胆の理由なんてたった一つしかない。ヤりたい盛りのガキのような発想が気恥ずかしく、ふり払うようにじゃあ一ついただくかと手を伸ばす。
「あ、そのままだとヤケドすんぞ」
店の名前のプリントされた紙ナプキンを差し出され受け取ると、妙につるりとしたものが手に触れた。
予想外の質感に紙ナプキンをのける。手のひらにおさまる小さく薄い何か。深く考えずに視線を向けた先のものに咽せるハメになるとも知らず。
「く、こぅ……っ!」
「ホントはソレだけのつもりだったんだが、なあ?」
ばちん、とウィンクをしてくちづけを投げる恋人と、それを咽せながら咎める自分に向けられるなまあたたかい眼差し。痛いほど浴びせられる慈しみと諦観が気にならないほど、目の前の金色から放たれる情と熱が愛おしい。
慌ててポケットに押し込んだ恋人の悪戯がどうか誰にも見られていませんようにと願いながら、今度こそコロッケを掴み取った。
2022/5/7
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