キスで死んだ子供の末路
寺の庭を駆け回る子供達は思い思いの兜をかぶっている。新聞で作ったそれらは色が塗られていたり色紙が貼られていたりして、おんなじように新聞で出来た剣でチャンバラをしていた。
くうこうもこいよという呼びかけに、さっき全員のしたばかりだろうと断る。縁側に腰掛けておやつの柏餅をつまんでいると、もうくってる!ずりぃ!と賑やかな声が上がった。ちゃあんとお前らの分もあると宥めれば、もうちょっと遊んでからとまた駆け出す。
なんとも微笑ましい光景だ。恋人よりは少ない歳の差の、けれども干支一周分は違う子供達はただただ可愛い。小憎らしい瞬間もあるけれど、かつて自分も通った道だ。
「何してんだ」
知らぬ間に背後に来ていた恋人が大皿に並んだ柏餅を見て怪訝な顔をする。あっちこっちに転がり回る生き物を追うのに忙しく、いつもならすぐにわかる玄関先の音にも、廊下を渡る足音にも気がつかなかった。
「何って、子供の日だろ」
「だからって多いだろ」
「拙僧のじゃねえよ」
「じゃあ誰のだよ」
駆け出したまま遠くにいってしまった子供達はとうぶん帰ってこない。手元に残った自分用の兜をかぶり、剣で恋人の頭を軽く叩く。いかにも不愉快そうに歪んだ顔は子供とたいした違いがない。
「お供えすんだよ」
毎年あらわれる子供達は、空却が子供の頃からずっと変わらぬ姿で寺の庭で遊び回り、日暮近くに自然と消えてしまう。いつだか空却が食べていた柏餅をわけた年から、人数分の柏餅を供えるならいになっている。
特に何をするでもなく、ただ寺の庭で遊ぶだけ。こどもの日だけの幻影のような存在と最初はただ戯れていたものの、年を経て面倒を見るように変わっていった。
「なんでまあ、獄の分は別に用意してあるから食うなよ」
「食わねえよ……」
聞いてねえぞと顔を青くして皿を見つめる恋人に、悪さはしないととりなしたものの、そういうことじゃあないとため息をつかれる。
「もしかして幽霊が」
「怖くねえよ!」
怖がるというよりは面白くなさそうな表情に、よもやとひらめいた。
「……ひとやくんてば、拙僧が幽霊とイチャイチャしてるのがヤだったんだぁ……?」
かぁわぃとワザとらしい猫撫で声でからかうと、露骨にそっぽを向いて舌を打つ。どうやら図星だったらしい。
「拙僧てば愛されてるぅ」
「やかましい」
ふれくされる恋人は自分がモテていることは棚に上げる。どうやら空却がそのことに妬いていないからモテ両成敗とはならないらしい。馬鹿な男だ。
空却はずっと子供達を見ては獄を思い出していたのに。似たような歳の差に大人として感じたであろう恐れを思い、口をつぐむ子供のときの姿を想像し、自分より小さく幼い恋人の心と体を抱きしめられたらと考えた。
子供達に重ねた全ては、今も恋人に重なる。かわいくて、愛おしい。ただそこにけして子供達には抱かなかった色と情、熱が混じる。
しょうもない、しょうがない、と呆れながら、まだ臍を曲げた恋人を抱きしめた。突然のことに驚いた体が跳ね上がるのを無視して、なおもぎゅうぎゅうと抱き続ければ観念した顔がこちらを向く。ほんのり赤い頬にちゅ、と触れるだけのくちびるを落とせば、ようやく機嫌が直ったらしい。
見つめ合って笑い合うと、遠くでかすかに囃し立てる幼い声が聞こえた。恋人に霊感があったら柏餅を没収しそうなものだけれど、あいにくと聞こえていないから存分に見せつけることにする。
もう一緒には遊べないのだと。大人になってしまったのだと。遠ざかる子供達の声はもう二度と聞くことができないような気がした。
2022/5/8
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