ひみつのはなぞのではなをつむ
さて困った。
抱き潰されてゆめうつつ。一糸纏わぬまま転がっているのを、簡単に着替えて水をとってくる、と元気に出て行った恋人をあ、だか、う、だか言って見送った後にそれはやってきた。
めちゃくちゃしょんべんしてぇ……。
こんなに汗をかいて、あんなに潮だのを吹いてまだ出る水分があるのにも驚きだが、だいぶ切羽詰まっているはずなのに一切体が動かせない。
向かい合って、閉じ込められて、くちづけながら貫かれて射精された。動かしたくても指一本動かせない快楽漬けの檻は、愛しい恋人の腕で出来ているから壊せない。
戻りが遅いのは後始末の準備もしているのだろう。しこたまナカに出された子種は掻き出されぬまま、時折ぶぷ……と漏れ出す。今もそうだ。意識したせいかぶぼ、と大きな音を立てて子種があふれ出し、栓が抜けたようにとろとろとこぼれ落ちていく。
敏感なままの体にはそんな些細な刺激が全部強烈に響くから、びくびくとふるえてしまう。油断すれば股間もゆるんで粗相をしてしまいそうで、丸くなって膝を抱え込む。
その間も後腔からはとろとろ、とぷぷ……と目一杯注がれた子種が漏れ続け、きゅ、と穴をすぼめるものの、それすら気持ちがいい。たびたび腹に力を込めるのも、はしたなく拓かれた体は犯される悦びでの締めつけを連想してきゅんきゅんとはしゃいでしまう。余韻で沸騰した淫らな体が恨めしくて、目尻の端が涙でにじんだ。
なにより根本的な問題が解決していない。しょんべんがしたいのだ。膀胱はじわじわと危険水域に達しつつあって、疲労と快感で動けなくなっている場合ではないのに。
「待たせたな……ってどうした」
ようやく戻ってきた恋人が目をしばたたかせる。部屋を出る前まではのびのびぐったりとしていたのが、ぎっちり丸まっていたらそうもなるか。
「便所……」
聡い恋人はそれだけでだいたい察してくれた。力の入らない体は重たいだろうに、火事場の馬鹿力かひょいと持ち上げられて運び出される。体液まみれのベッドをこれ以上あらぬものでずぶ濡れにされたくない一心かも知れないが。
そう長くもない距離を素早く、かつ安全運転で運搬されて、おかげさまでちょっと尻から漏れるにとどまった。せっかく着替えた服を汚してしまったけれど、元はと言えば自分で出したものだから勘弁してほしい。
「あんがと……」
ところがそこは待望の便所ーではなく、浴室だった。運ばれながら何か変だと思っていたが、扉の開き方と丸まったまま降ろされた場所が決定打となった。ほのかにあたたかいのは温度調節をしたのだろう。こういうところは本当に手厚い。手厚いがそうじゃない。
「いや、便所……」
「ケツほじくるつもりで用意してたんだよ。シャワー流しっぱにしてやるからそのまましちまえ」
前言撤回、こいつは人の心がわからない。ゆめうつつだったときなら言われるがままにしていただろうが、尿意でだいぶはっきりした今できるもんではないし、最中の事故でもないのだ。シャワーで流されると言っても色と臭いは消し切れるものでもない。御託を並べたが純粋に嫌だ。
「ばっかやろ……!じゃあせめて終わるまででてけ!見んな!」
「バカはどっちだ大バカガキ。歩いて便所も行けねえほどフラフラのやつを風呂場で一人にできるか!」
見ないようにしてやるから、と後ろを取られて抱え上げられた。抵抗したかったが危うい防波堤がいよいよ決壊しそうでできないまま、膝裏を掴んでぱかりと足を開かれる。幼児に用便をさせるようなやり方に血の気が引くやら、顔が熱くなるやら、もうめちゃくちゃだ。
「このバカ!なんでそういうことすんだよ!」
「は!?そのまま垂れ流したらケツも足もしょんべんまみれになんだろうが!」
「こっちのがよっぽどイヤだっつうの!」
面倒見がいいのも考えものだと叫んだ瞬間、ついにその時が来てしまった。ふつりと見えない糸が切れるようにしょろ、と静かにこぼれた滴はだんだんと勢いを増し、しゃああ、と大きな音を立てはじめる。
最初に決壊した時点で目を閉じてしまったが、それで良かったのかもしれない。明らかに背後から注がれる熱視線と、ごくりと唾を飲み下す音に気づいてしまったからだ。
見ないと言ったのにという憤りと、嫌悪や拒絶ではない反応にぐちゃぐちゃの頭がさらにかき回される。恥ずかしくて嫌でたまらないのに、いつまでも終わらない。掴まれた足から伝わる体温は自分のものなのか恋人のものなのか。
興奮したように息をのまれて、思わずふるえた直後、今度は後腔がぶぷ、と決壊した。子供の用足しとおんなじ体勢ということは、つまり、後ろも開かれてしまっていることになる。
しゃああ、という流水音に、ぶぷ、ぷ、ぶびゅ、と下品な音が混じり出す。空気が抜け落ちてあぶくを作りながらべちゃ、びちゃ、と床に落ちていった。見えていないけれど大惨事が起きている。こんなかっこうで、子供みたいにされて、そのくせセックスの、中にさんざん射精された残滓が幼くないクセにと嘲笑う。
やがてしょろろ……、と水音がおさまり、ぶちょ、という大きな破裂音を最後に永遠に感じられた時間が終わった。浴室には無惨な痕跡と恋人と自分だけが残り、静まりかえったせいか今まで気にもしなかった臭いが鼻につく。清潔に整えられた空間に広がる粗相の証につむった目尻がじわりとにじんだ。
「……さっさと流せよ」
声をかけるまで凍りついていた恋人が悪かったと動き出す。温かいシャワーで清められるのが待ち遠しいなんてはじめてだった。つむったままの目の端をくちづけられて開いた先の顔に安心して、ぼろぼろと涙をこぼしたのも。
抱えていた体を汚れるのも厭わず膝に乗せてくれたのも、真っ先に残骸を流してくれたのも、頭のてっぺんから爪先までくちづけながら丁寧に洗ってくれたのだって嬉しくて気持ちよかった。全部、自分を思ってのことだとわかるから、ドライヤーをかけられながらお礼だって言ったし、綺麗さっぱり片付いた今はお互い着倒したスウェットでだらだらしている。
ただ一個だけ、気になるのだ。
『今までだって最中に漏らしたりしてんだろ』
今更だから気にするなという声に嘘はなく、宥めて慰めるくちびるも指も優しかった。でも膝に乗せられたときに気づいてしまったのだ。大きく、硬く、張りつめた恋人の股間に。熱い視線のワケも、飲み下された唾と息のワケも、何も知らないし、わからないまま。はしたない体の奥深くだけがきゅぅん……っと淫らにふるえた。
2022/5/16
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