デコルテ下プライベートビーチ

 獄の恋人は海が嫌いで、理由は言われていないから聞いていない。快活でアウトドア派というかもはや野生児のようなところがあるのにと意外に思う反面、山と海では勝手が違う。言われないのは何か深い理由があるのかもしれないし、ないかもしれない。どちらにしろ獄とて芋洗い状態の砂浜でバーベキューになる趣味はない。いつか話される日が来て、海に行くこともあるだろう。だから気にしていなかったのだ。

 カン、と昼を過ぎても照りつける太陽に汗と嫌気が止めどない。えらく立派なスイカーそれも三玉ーを貰い、お裾分けに寺を訪ねると、恋人がなぜか水着を着ていた。
 どうしたのかと聞くとそろそろ使うかとガキンチョ用のビニールプールを引っ張り出したのを当のガキンチョに見つかって、あんまりうるさいからプール開きした、とげんなりした顔をする。
 最も日が高い時間は過ぎても暑いは暑い。少し離れた場所から元気な子供の声が響いた。この日差しと気温の中、子守をしながらのプール開きは大変だろう。おつされさん、とスイカを渡せばころりと機嫌がよくなって、全くどちらがガキなのか。
 しかし水着といっても膝まであるブラックのロングトランクスで、蛍光グリーンのパーカータイプのラッシュガードを羽織っているから一見すると普通の服に見える。ともあれ珍しい姿に頭のてっぺんからつま先までじぃ、と眺めていると、えっち、といたずらっぽく笑われた。
「なぁにがエッチだ。いつもとたいして変わらんかっこして」
「言ったなムッツリ」
 言うや否や、渡したスイカをそっと足下によけ、ちぃぃ、とラッシュガードのジッパーを下ろす。一体全体何が出てくるというのか。少し身構えていると蛍光グリーンの間からふるん、と揺れるものが飛び出した。
 スポーティな水着とラッシュガードからは想像もつかない、可愛らしい純白のフリルの波打つ三角形の布が胸元ー乳首を覆い隠していると気づいたのはそのすぐ後で、目を疑う。
「お前……!」
「親父が獄くんが差し入れに来てくれるぞ!って言うから用意したご褒美」
 下も履いてるぜ、と少しずり落とされたトランクスの隙間から、つい、と引いて見せられた真っ白な紐が日差しよりも眩しい。
「あのなぁっ!」
「これ案外透けんだよ。透けるっつうか、張りつくっつうか。だから獄がだぁい好きで一生懸命育てた拙僧の乳首……どォなると思う?」
 これ、と言いながら鮮やかなネオン色のラッシュガードを伸ばしてぴたりと身体に沿わせる。そんなことをせずとも獄が手塩にかけた二つの桃色の頂は、余裕のあるシャツが軽く撫でただけでもぷくりとふくれ、はしたない形をあらわにしてしまう。ならば水着特有のぴたりと張りつき、すべすべとする生地と触れ合ったらどうなってしまうかなんて、言うまでもない。
「おわかり?だからこんなん着てんの」
 こんなん、と指さされた可憐なフリルがゆれるのに、はぁ……と深いため息をつくのを、愉快そうにきゃらきゃらと笑う。無邪気で悪辣な恋人は果たしてこのため息の意味をどこまでわかっているのか。少なくともビキニで一回、普通の水着で一回。ご褒美をもらわなければ夏の暑さだけでない苛立ちがおさまりそうにない。
「覚悟しとけよこの生臭坊主……」
「ぜぇんぶ終わったら遊んでやるよ、でっかいガキのひ・と・やくん!」
 スイカを片手に駆け出した恋人の背後に寺にはないはずの砂浜と、それはそれは青い海が見えた。
 いつか行くかもしれない海もこんな風なら、いや、ちょっとだけ考えさせてほしい……。

2022/7/5


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