望むなら、この世全ての『愛している』を
けたたましく、長い、その鳴き声は風物詩と言うにはやかましく、とても我慢ならない。
そう言えば恋人はきっと何なら我慢ができるのだと呆れるが、これでもずいぶんと我慢をしているのだ。
この世にはもっとずっと許し難いものがごまんとあって、そういうものを根絶やしにするために本当に我慢ならないものを今も耐え続けている。
「だから蝉の鳴き声が我慢ならんくらい言わせろ」
「バァカ、ただでさえミンミンうるせぇのに獄までガマンナランガマンナランって鳴くこっちの気持ち考えろよ」
さすがの猛暑に由緒正しいお寺もエアコンをフル稼働させているが、戸を閉めきってなお騒々しい。我が家に等しい客間の涼やかさがそれだけで半減する気がする。
「蝉よりはマシだろうが」
「どうだかなァ。セミは嫁さん探しに鳴いてっけど、てめぇはそうじゃねえだろ」
見慣れた木目の座卓に向かい合い、二人分並べた麦茶を一口含み、じ、とこちらを見つめて飲み下す。視線に誘われてグラスが卓上に着地するのを見届けると、拙僧は、とあえて一音一音を強調して話し出した。
「おんなじうるさいんでも不満たらたら垂れ流してるヤツより、必死で求婚してるヤツの方がカッコイイと思うぜ?」
それだけ言うとつれない金色がふい、と窓へと向けられる。するとタイミングよくミィン、と大合唱がはじまった。褒められたことに気をよくしたようにひときわ激しく響き渡るプロポーズに、恋人が愉快そうに耳を傾ける。
「……わかった」
「なに、が……って」
すっかり気を抜いた恋人の隙をついて、座卓の真ん中に手をついて身を乗り出し、ピアスで埋まった耳の端をくちびるで捕まえた。運良く上手くいった強襲に、やんわりと挟んだ場所がわずかに熱を帯びる。何をされるのかわからないと言いたげな目は金色のはずなのに白黒として、すぐにこちらをき、と睨めつけたがもう遅い。
「つまり、自分もうるさいくらい熱烈に求婚をされたい、と」
「はぁっ?!」
「他人のプロポーズにダメ出しする前に自分を口説け、と」
「なに、いって……っ」
一度離した耳の端っこはすっかり熱く赤く変わって、なんとも美味そうになっている。丸め込んで黙らそうとするのに乗ってもよかったが、カッコイイなんて滅多に言っちゃくれないくせにセミなんぞに大盤振る舞いしたのはよくなかった。
外の鳴き声に負けず劣らずのでっかい声でわめきそうなのを、もう一度ちゅぅ、とくちびるで吸って大人しくさせる。口よりずっと素直でかわいい反応をする身体がひく、とふるえるのを狙って、小さな耳の奥へとささやいた。
「ダサくて気が効かない恋人で悪かったよ……だから教えてくれないか?」
なんと言って愛を乞えばよいのか、と。
2022/7/31
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