手編みの手網に掬われる

 "くうちゃん"と呼ぶ相手をジジイだのババアだのと言いながら、けして無碍にはしない。派手派手しく近寄り難い恋人の素晴らしい美徳だ。

「で」
「見りゃわかんだろ。腹巻き」
「腹巻き」
 毛糸で編まれた平べったい長方形は持ち上げると筒状になっていて、大きさ、幅からして腹巻きでしかない。問題はどう見ても市販品ではないことだった。
 全体は紫で、白い糸でBad Ass Templeと編み込まれた腹巻きなどグッズとして販売された記憶はない。知らぬ間に出回っているものもあるが、だとしたらもっとせせら笑いながら持ってくるはずだ。
「こないだ山ン方行ってきたらもらったんだよ」
「ああ、買い物難民の……」
「"これからもっと寒くなるのにそんなかっこして"ってうるせえのなんの。こんなことならリクエスト受けんじゃなかったぜ」
 腹巻きなんざつけられるか、と悪態をつくものの、リビングテーブルの上にきれいに広げて置かれている。山から降りるのも難儀する高齢者が、馴染みのなかろうラップバトルに参加する"くうちゃん"を応援していると一目でわかる品だ。ぶぅたれているように見せて、その実、満更でもない顔をしている。
 受けとったときもおんなじ顔をしたのだろう。ずっと見てきた者には"くうちゃん"のかわいくない反応がかわいくてしかないはずだ。しかし、気になることがある。
「なんでわざわざ見せに来たんだ?」
「これ、獄のぶんだぜ」
「は?」
「さっき十四にも渡してきた」
「なるほど……チーム分……」
「十四は感激っす〜!みんなで使いましょうね!って抱きしめてたぞ」
 たやすく目に浮かぶ光景に頭を抱えた。バンド活動もあってそういう手作りのアイテムには慣れているだろうし、絶対に次に会ったらなんで使ってないんすか、と責められる。絶対だ。
「ちなみに贈り主からは"チームのみんなと一緒なら……イイ人とお揃いなら使ってくれるでしょ?"とのありがたいお言葉もいただいてる」
「お前んとこの囲い込みはどうにかならんのか!?」
「自分だって外堀埋めんの得意だろ、諦めな。拙僧はもうつけてる」
 確かめるか?と服の裾を持ち上げる顔はたいそう悪いもので、この悪僧が絡むことはどうして一癖も二癖もあるのか。
 抱えた頭を放り投げて、答え合わせに手を突っ込んだ。

2021/12/12


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