でんでらりゅうば

 冬本番ともなると朝晩がそれはもう辛い。今朝もけたたましいアラームに起こされたものの、布団から出なければと悲壮な決意をする頭に反し、決してここから出るものかと籠城をする体が二律背反をする。かれこれ小一時間くり返した煩悶は終わりが見えない。それほどに辛いのだ。
 ましてや隣ですよすよと恋人が眠っていたらもう絶対に無理というもので、布団だけでも抗い難いのに昨夜の熱と艶の抜けきらぬ色めいたかんばせが、無防備にごろんと転がっているのを同情してほしい。もしも俺が悪い人間だったらこんな風にのんきに寝ていられないんだぞ。スウェットからはみ出たうなじや首すじに散ったキスマークが目に毒で、両手にまだらなあざとして残る自分自身の手のひらの痕が痛々しいと思うのに、ぞくぞくとほのぐらい興奮を呼び起こす。

 過ぎた快感から逃げようとシーツをぐしゃぐしゃに引っぱる手を押さえつけ、のしかかりながら腰を打ちつければ尻だけ上げたままがくん、とくずおれた。反り返った汗ばむ白い背が熱を帯びて桃色に色づき、揺さぶられるがままにしなる。細く高い声で喘ぐのをもっと聞きたくて小さな頭へと近づくと、より深くぬかるんだ後腔へと押し入ってしまう。
 ひ、と濡れた悲鳴が凶暴な気持ちを煽って、びくびくと跳ねる背の先、ふるえるうなじに食らいついた。血が出ないていどに抑えたものの、敏感になった身体には強烈だったのだろう。後腔を突かれるのとは別のわななきを伝える肢体は嘘のように頼りなく見えた。
 誰よりも前を行く子供の背中は力強く、いっそ神々しいほどなのに、目の前でのたうつ薄ら桃色の艶かしい裸身が同じものだなんて信じ難い。途切れ途切れに紡がれるあえかななき声は、いとけない響きの奥によろこびがある。余裕なく胎の終わりまで暴きたて、腕を封じ、所有印を刻もうとするのを望んで、か細い息が甘く溶け落ちる。
 決して見えない目もきっと同じようにとろけている。自分に牙を剥く大人を、ようやくおちてきたと舌舐めずりしているのだ。出会ってから何年も経つのに、子供は――恋人は、欲しがって求められるのを何よりも嬉しがる。
 ひとや、と呼びかける喘ぎは、どれほど小さくかすれていても愛おしげに甘く響く。名前一つに込めるには大きすぎる情が胸を揺さぶり頭を狂わせ、ひどくわかりやすく煮え立った血潮が、ぐん、と、熱くやわらかな秘所を穿つ肉杭を一回り大きく育ててしまう。あ、ゃう、という拒絶の皮を被った歓待の言葉を正しく受け止めて、貪欲に絡みつく後腔をかわいがれば、己の欲深を恥じるように身をよじった。

 暖房などいらなくなるほどの熱い肌と夜。繊細で敏感な内側の媚肉はなお熱く、意味のある言葉をすっかり忘れてかわいらしく歌うばかりのくちびるは、火傷しそうなほど高らかに愛を奏でた。
 何もかもが寒さを意識させず、ただただ熱かった。たまらず秘所に欲を放つと、ぁっぃ、と感じ入った声と共に、きゅうきゅうとすがりつくのが心地よかった。
 思い出すだけで頭の芯までうだるような記憶はほんの数時間前のことで、同じとはいかなくともけだものに近い恋人は今もほこほことしている。布団からの脱出を阻む恋人は、本来ならば導くことはあっても誘惑などしてはいけないはずなのに。
「ん……」
 耐えきれず、惹かれるがままにふらふらと後ろから抱きしめた恋人が小さくうめく。むずがってじたじたとするのをさらにきつく抱いてぴとりとくっつけば、おもむろに振り向いて眠たげな目で睨めつけた。
「ちんこあてんな……」
 そんなつもりはなかったのだけれど、スウェットごしでもとろけるようにやわらかい尻に、不埒な欲まで目を覚ましてしまったらしい。寒くて布団から出たくなかっただけなのだ、と裸の耳に甘えれば、こそばいと首を振って逃げられる。
 驚きか恥じらいか、かっかと熱を増す恋人はそれ以上の抵抗をせず、腕の中に大人しくおさまってくれた。ちらちらと覗く情痕が色っぽく浮き上がり、尻に押し当てたままの欲を煽るのを耐えていると、ぽそりとお許しが出される。
「……正面からなら、いい」
 ただしキスだけ、と付け加えるのにわずかな抗議を感じたが気にしない。正面、の時点で、否、昨夜の時点でわかっていたことだ。されるがままの身体の向きを変えようとすると、密着したまま回って協力してくれた。執着の証が散るうなじが見えなくなるけれど、それらを見せつけるようにくちづけるのは気分がいい。
「あったまったらおしまいだかんな」
 御所望どおり、真正面からくちづけを顔中に降らせつつ了承すると、つい、ととがったくちびるが寄せられる。そこだけ春めいたあわい紅色に胸がじんわりと熱くなった。冬の朝の澄んだ光の下、人形めいた白い肌が熱を孕んで赤く染まって人と成る。淡白だった子供は、もうすっかり貪欲な恋人に変わってしまった。
「……ダメか?」
 ぬくい恋人と布団は離れるにはあまりにも魅力的すぎる。ついばんで塞いでしまう前に、鍛えられて硬い腹の臍まで届く欲を擦りつけておねだりをする。あちらとて満更でもないはずなのに、小さなくちびるはダメ、の二文字を描いたきり黙ってしまった。
「そんなん、いれたら……ほんとにでらんなくなるだろ」
 だからダメ、と言う顔は本心は違うと言っていて、余計に煽る。お泊まりだからと免除されたお勤めの猶予は今日だけで、昨日と同じことをしたら明日までお休みしなくてはならない。……そんな風になるまでしてほしいと言ってしまっているのに気づいていない恋人に、ますますかき乱されてしまう。
「なんででかくすんだよ……っ」
 わからないはずもないだろうに上目遣いで睨めつける狡さは無自覚なのだろうか。触れ合う身体の反応からすると強行突破できなくもない雰囲気の中、寒さなんてすっかりどうでもよくなってしまっていた。

2022/12/9


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