いつか雲上でショートケーキを
誕生日というと主役の我儘がなんでも通るような気がしていたのだが、なんでか我儘を通させられている。
夜中まではいかないものの、良い子はおねんねする時間。お誕生日おめでとうございますっす! とにこにこしながら自宅に押しかけてきたクソガキその1と、どぉせ祝ってくれるやつ、誰もいねぇんだろ? とにやにやしながら押しかけてきたクソガキその2に無理矢理お誕生日会を開かれたのが一つ。
プレゼントとして渡されたのが、2nd DRB決勝戦参加チームと企業のコラボで新発売予定の、それはそれは可愛らしい、故に三十路男が身につけるにはハードルの高いルームウェアアイテムだったのが一つ。
「……俺には我慢ならないものが二つある」
「拙僧達と拙僧達からのプレゼントだろ」
一年に一回の祝いだっつうにぐだぐだやかましいと先手を打たれた。違うのか? と確認をとられたが、思わぬ強い視線に、ああ、と頷いて引き下がる。いや待て、俺の誕生日だろうが。
「ってことは、お祝いそのものは嫌じゃないってことっすね!」
よかったっす! とさっそくプレゼントとして渡されたアイテムの十四専用デザインを着てはしゃぐ姿は年齢不相応に無邪気で、和んでいいのか心配になったらいいのか。この素直さをお前の師匠にわけてやっちゃくれないか。
「言われてみりゃそうだな。弁護士センセってば素直じゃねえの」
お前が言うかというセリフを吐いてにまにま笑う顔が小憎らしい。あげくにじゃあ拙僧も着るか、と空却専用デザインのものを頭から被ってしまった。お揃いっすね、と喜ぶ十四の笑顔がこころなしかこちらへと向けられている。あんまり熱烈にきらきらと期待に輝き、ちらちらと下手くそに流される視線に観念することになった。
コラボ自体は以前にもあったもので、三十路に猫耳なんてと愚痴をもらしたら『神宮寺寂雷はキョーミブカイデスネって快く引き受けたってよ』とクソガキその2にせせら笑いながら言われ、苦虫を噛み潰した。
有名なキャラクターグッズ会社との企画は、会社の理念として世界平和を掲げる姿勢に共感したためと言の葉党は言っている――が、この国に生きる人間、特に女性から多く支持されている会社とのコラボに『上層部にファンがいるのではないか?』『あのおっかない内閣総理大臣補佐官様が熱心に取り組んでいるプロジェクトらしい』という噂がまことしやかに囁かれてもいる。
真実はどうあれ、愚かで野蛮な下郎共が国のために尽くせるのだから嬉しいだろうと、拒絶する権利もなく雀の涙ほどの金しか払われない企画に興味はない。ましてや猫耳なんぞつけてデフォルメされたあげく、コラボ先の猫の赤ん坊達の面倒をみているイラストなんてどんな顔をして見たらいい。同じチームのガキ共はえらく喜んでいたが、お前らはまだ十代だからそんな風に呑気にしていられるんだからな。
「……着たぞ」
「わ〜! 獄さん、似合うっすね!」
「ぶっ……あぁ、に、ぁぅ……ぜ……!」
「おいこら生臭坊主、目ぇ見てはっきり言いな」
「とぉってもお似合いだぜ、弁護士センセ♡ いくちゅになりまちた?」
「ほぉ……生臭坊主ならぬ生臭半魚人、干からびる前に海に帰んなくて大丈夫か?」
「獄さんも空却さんも、誕生日会っすから……! ほ、ほら、みんななかよくっす!」
悲しいかな、美しく優しい願いで生まれたキャラクターグッズでも人は争ってしまう。けれどもコラボ先のキャラクターが猫の赤ん坊五匹組だったせいで猫耳がつけられてきたが、よもやまさかルームウェアにまで猫耳がつくと誰が思う。半魚人なんてユニセックスなデザインの当たったクソガキその2にそりゃつくだろ、と言われたが、俺は三十路の男で猫耳が生えて許されるのはデフォルメされたキャラクターだからだ。似合うわけがない。
ついでにルームウェアにはそれぞれおまけとしてモチーフになったキャラクターのぬいぐるみがつくのだが、よりにもよって子猫一匹と哺乳瓶がついてくる。買うのは応援してくれてる人っすから、とピンクの兎耳を着こなすクソガキその2に宥められたが、お前ともう一人がプレゼントしたからこの事態なんだぞ。俺は提供を断ったのに。あと子猫はともかく哺乳瓶に納得がいかない。ランダムで五匹のうち一匹がついてくる! とか言わずに哺乳瓶を削って五匹セットにしろ。
「はぁ……誕生日だっつってなんで俺はこんな目にあってんだよ……」
「なんだよ十四と拙僧からのプレゼントにご不満かァ? 三十路だ男だ似合わねえだ言って逃げねぇで当たって砕ける心意気が持てるように……って一生懸命考えたってのに」
「後付けだろ……」
「普通に祝っても面白くねーし」
「そっちが本音だろ」
ヒャハハ、と隠しもしないで笑う顔は出会ってから今までずっと変わらない。まるきり子供だったのに少しだけ大人びた表情をするようになって、つまり自分もそれと同じだけ歳をとったということだ。
「獄好みのステキなパーティはオトモダチにやってもらえよ。拙僧らは『家族』だからな、獄が絶対忘れないような思い出を作ってやる」
そしたら十四と拙僧が来るまであの世で寂しくねえだろ、なんて。
「縁起でもねえこと言うんじゃねぇ」
「ンならせいぜい長生きしろよ。会えない時間は少ない方がいいだろ」
答えあぐねていると台所から十四が戻ってきた。ケーキの準備が出来たらしい。そこそこの夜更けでケーキなんて食べるのは出来れば避けたいが、それでは貰ったプレゼントが泣いてしまう。わざとバラバラのサイズに切られたホールケーキを前に、一番大きいところを獄さんに! というほがらかな声にせめてもう一回り小さいところを、と訴えたら、誕生日だしな、と一番小さいピースを皿に乗せられた。
「三十路のオッサンは遅い時間に高カロリーなモン食ったら体に悪ぃもんな」
長生きしろと言った手前か、それとも自分が食いたかったのか、一番大きいピースを持っていき、わしわしと食いはじめる。他人の誕生日ケーキを主賓よりよく食う半魚人なんて見れる誕生日は、まあこれっきりだろう。何もかも、あんまりいきなりでめちゃくちゃだから、礼を言い損ねていたことにいまさら気がついた。
「ありがとな」
「……っ獄さんに喜んでもらえたならよかったっす!」
「遅ぇよ。ま、誕生日だから大目に見てやる」
もはや慣れたバラバラの反応に笑いがもれて、勢いそのまま食べたケーキの味はあの世で教えてやることにする。
2023/6/29
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