憑物堕とし・乳祓い

 全部、全部、悪いのは獄だ。
 なのに肝心のその男はいなくて、一人で空を抱いている。



「まぁたやった」
「……すまん……」
 はぁ、とため息をついてうなだれるカレシは空却のみたてでは三千世界で一番イイ男で、ほとんど公然の秘密と化した二人の交際をもってしても引く手数多なのに変わりはない。どういうことだと思う反面、十六歳下のちんちくりんだの悪ガキに既成事実を作らされただの見知らぬ人間に真正面から言いたい放題されたのでそういうことなのだろう。獄には空却ではつり合わぬなど戯言だ。生命は生命でしか贖えぬしつり合わぬ。どちらにしろ天秤を握っているのは二人で、さえずるしかない外野ではない。
 元恋人、というのにも一度だけ会ったが、あの人趣味が変わったのね、と鷹揚に微笑まれた。綺麗といえばそうなのだろう。ただ頭のてっぺんから爪先まで隙なく武装されて心が見えない人間のどこをどう好いて愛したのかはてんでわからなかった。それはたぶん相手もだろう。互いに道ですれ違うことすらイメージできない。ましてや同じ男を愛して、愛されたなんて他人事ならば嘘か冗談だと思うところだ。しかし嘘でも冗談でもなく獄は空却の最初で最後の恋人として未来を誓ってくれた。なんとも古めかしい言い回しだと思う反面、この男をおしまいまで手中におさめたのだというよろこびが胸を支配したのも覚えている。
 空却にも獄にも過去はある。面白くもない、話すのも思い出すのも嫌になることもあれば、何度でも振り返って懐かしんで愛おしむこともある。変わらぬことで、覆らぬことで、死ぬまで負っていくことだ。それを生命が果てるまで一番近くで共に増やしていく。そういう相手に選ばれた。かつて何があったとしても今まさに隣にいるのはお互いで、過去は変わらなくとも今という未来は変えられるのだ。

「っても限度があんだよ。仏の顔も三度までってなぁ?」
「本当に悪いと思っているんだが……」
「だがぁ?」
「いる……」
 このクソモテヤリチン弁護士先生ときたら、何度ヤッても存在しないブラジャーをはずそうとするのだ。
 はじめから裸のときはまあいい。今回のように久方ぶりの夜の逢瀬にいくらかの期待をして、おあつらえむきのいい雰囲気になって、当然そういう流れになって、準備よく整えられたベッドの上、互いに服を脱がせあったり……そういうもうしらけたらどうしようもないときに台無しにする。
 スマートな動きで背に回された手が所在なさげに背をなぞったのちのしまった、と言わんばかりの一時停止。ほんのわずかなそれにあ、と察してしまったのが運の尽きだ。誰の?もちろん二人のだ。
 思い返せば件の元恋人だってばるんばるんいいそうなでっかいものをぶら下げていた。おそらく歴代のオツキアイのお相手も似たり寄ったりだろう。このおっぱい好きめ。よくもまあ十六歳下のちんちくりんのやわくもない身体に欲情して既成事実をバンバン生産するようになったものだ。そりゃあ驚くだろうよ。趣味が変わったなんて生やさしいもんではない。頭を打って記憶を失くしたか一回死んで生まれ直すくらいの変わりようだ。
 そも乳があるとかないとかではない。肉の質が違う。残念ながらクソモテヤリチンおっぱい大好き弁護士先生お好みのやわやわでふわふわでばるんばるんの乳には夢と希望ではなく脂肪が詰まっている。元医者志望の弁護士先生には釈迦に説法というものだが、それはそれこれはこれ。真面目そうに、気取って、その実こっそりと鼻の下を伸ばして乳を揉みくさる姿が容易に想像がつくのが嫌だ。特に気持ちよくもないと言ってもこりずに空却の硬い胸筋を揉みしだくし、ほんのたまにこしょばいだけの乳首もくにくにといじり倒す。あの熱意と執心で数多の乳をむにむにもにもにとしてきたのだろうと思うと、全くこのクソモテヤリチンおっぱい大好きむっつりスケベ弁護士先生はよぉ……と怒りとも呆れともつかない感情が湧いてくるのもいたしかたないというものだ。
 もともとは空却が惚れて、中学生のガキなんかと言うのを押し切って今がある。ガキの本気が大人のそれとどう違うのだと、憧れや勘違いだとどうしてわかるのかと。何を見ても聞いても全てが獄に繋がって、頭も心もぐちゃぐちゃで、体すら混乱して熱を出した。獄が言うことだってわかる。茶化したりしないでいてくれるのも。傷つけまいとしているのも。でももうとっくにめちゃくちゃなのだ。優しく諭されるよりきっぱりと切り捨てられた方がマシなくらい、知らなかった感情に振り回されていた。
 何度目かの告白で拙僧の本気も勘違いもお前が決めることじゃない、と胸ぐらを掴んだときの目をよく覚えている。何かに気づいたような、寝ぼけた子供が目覚めたようなまばたきを繰り返して、それからほどなく、数度の告白劇を経てお付き合いすることになった。正直、何がどう響いたかわからない。けれども口喧嘩のプロとも言える男が本気を出せば、空却がどうしたら折れるかなんて簡単にわかるはずだ。それをせずにいつまでも空却を諭していたのは、自分自身に言い聞かせるためだったのではないかと最近は思う。
 大好きな乳よりも惹かれるものが空却にあるのだろう。それはわかっている。わかっていても、ないものねだりをするようにかつて吸ったり揉んだりこねくり回した乳の幻を追われるのはそれこそ我慢ならぬのだ。
「今日はシたくねぇ」
 会えば即ヤりまくっているわけではない。むしろ忙しい合間の行為は疲労と時間制限で頓挫する。その代わりではないけれど自然とじゃれあいは増えた。外面を完璧に装う男が着古したスウェットでだらしなく寝転ぶのに上から乗っかるのも、入念に時間をかけてセットされた髪の毛をぐしゃぐしゃにするのも恋人の特権だ。なにもオツキアイはセックスが全てではないし、乳がなくともセックスは出来る。獄の愛を疑うことはなくとも空却の心が臍を曲げていて、こんな状態で交わってもきっと噛み合わないし気持ちよくはなれない。
「わかった」
 空却が拒むと獄は駄々をこねずにパッと手を離す。無理強いしたくない、とは体を重ねるようになってから耳にタコが出来るほど言われた。人をよく見ていると思うのはこういうときで、空却が過ぎた快感でもういやだ、と懇願するのは宥めすかして奥の奥まで暴き立てる。行為そのものではなく、行為によって生まれた身の内で燃え上がる欲への惑いなのをわかっているのだ。息も絶え絶えの空却の呼吸を整えさせて、内から外からどこそこはこうすると良いだとか、気持ちいいのは良いことだと子供みたいにあやされるのは嫌ではない。触れるだけのくちづけを何度もしながら自分で感じてくれて嬉しい、とささやかれてバカみたいにイッたこともある。ブラジャーの幽霊さえ見えていなければイイ男なのだ。
 まだ二人とも少々乱れたていど。互いに服を整えたら、そのままベッドに身を委ねた。スる気は萎えても体の奥でくすぶる熱が冷めない。シたくはないけれど触れたくて手を伸ばすと、胸元まで引き寄せられてそのまま抱きしめられた。どくどくと少し速い鼓動におんなじだと安心して、服越しに触れるだけのくちづけをする。そうしてぴたりとくっつきながら乳への妄執もわからなくもない、と思った。
 自分より一回り大きな体は、スマートに見えても一回り分の長さも厚みもある。今よりもっとガキの頃、ひどく遠くに感じた原因の一つでもあるものに心を満たされるなんて思わなかった。身を委ねても揺らがぬ安定感についぎゅうぎゅうと抱きしめて、くちづけを繰り返してしまう。空却とて鍛えていないわけではない。むしろ生半なジム通いなんかとは比べものにならない修練をしている。しかしながら持って生まれた性質はどうにもならない。ハタチを目前にしてもついに背幅は可愛らしいままだった。熱く、厚い胸に顔を埋めながら、自分に足りないものを考える。だんだんとゆったりとしはじめた心音に目蓋がゆるんでも、忘れないように頭に刻みながら。



 乳の亡霊に憑かれた恋人と抱き合うだけの夜を過ごした翌日、父親の目を盗んでスマホをいじる。蜘蛛の巣のように張り巡らされた電子の網目を辿った先、それはあった。匿名だからこそ溢れかえる有象無象の人の欲と智恵。シンプルなデザインで広告だけがビカビカと派手派手しい肉色のサイトはいわゆるセックス指南をしている。自社製品の販売だとか、金をもらって広告塔をしているだとか色々だが、求めた答えと結果が出るかが重要だ。
 地域密着型小坊主にプライバシーなどない。どうしても秘密にしたいとき、これほど便利なものはないのだ。自分と同様に名前も顔も知れ渡っている恋人との性生活で悩んでいるなんて話が広まったら、存外に繊細な年上のカレシは憤死してしまう。空却個人ならば何歳まで寝小便をしていたなんて街中の見慣れた顔ぶれはみんな知っているけれど、ことは空却だけにおさまらない。うさんくさいと思わなくもないが上手くいかなければ他のことをするだけ。やきもきとしたまま過ごすよりずっといい。
 鍛錬自体はしているものの、おっぱい好きを唸らせる乳になるにはどうしたらいいのか。単純に調べると豊胸手術だのが出てきてしまう。それは違うというか獄は求めていない。いつも綺麗で可愛い、と言いながら、空却を抱き潰す。知らなかった感覚を教えられ、わけもわからず気持ちよくなった空却に縋りつかれるのを好んでいる。自分の手で変わっていく空却に満足感を得ているのだ。とんでもないムッツリすけべである。ともかく探しているのは薬や手術に頼らない肉体改造の手段なのだ。それも自主的な。
 思い至った瞬間、閃いた。セックスではダメだ。これは乳に囚われた恋人の横っ面を張り倒すための開発なのだから。ふたりでイチャイチャしながらなんてものではない。度肝を抜いてやるための、言わば鍛錬だ。検索する言葉と見る場所を間違えば広告がやかましいだけの空間を這い回り、どうにかこうにか目当てのものにたどり着いた。
 『乳首開発』
 存外にシンプルな佇まいのサイトは、ときおり入るアダルト広告がなければ卑猥な文章が延々羅列されているとは思えない。自身の体験に基づく淡々とした解説は、写真も画像もないからこそ想像をかき立てられ、ごく、と生唾を飲み込んでしまう。
 初めてエロ動画を見るガキのように小さな画面に釘付けになって、見られまいと部屋のすみで小さくなって夢中で読み下した。地道に続けていけばたまにこしょばいだけの場所が喘ぎを抑えられないほどよくなる。おまけにちょっとおっぱいと言えるものもできる。育つ限界はあるとしてもおっぱいマニアをぐうと言わせたい。
 道具の使用は購入はともかく見つかったときが面倒くさいから却下。磁気治療バンソウコウを貼るというのは手軽で効果が大きいらしいが、共同生活をしている身の上で見られたらまずいからこれも却下。結局手でこねくり回すのが最前最良のようで、どんなやり方でもリラックスして気持ちを整えて取り組むのがいいようだ。
 それならば普段のセックスが一番状況が近いはずなのだが、ブラホックの幻影に囚われた乳マニアへの不満で集中力を欠いたとしか思えない。だって他の場所は馬鹿みたいに感じてしまうのに、乳首はたまにこしょばいだけなんて変だろう。
 つむじ、耳、首、鎖骨、腹と臍、太もも、ふくらはぎ、くるぶし、爪先。二の腕と脇の下に手のひら。みつめられて、くちづけられて、指で触れられて、足で絡めとられて、頭のてっぺんから爪先まで気持ちよくされなかった場所なんてないのに、乳首だけが鈍いまま。やっぱりそんなの、どう考えたって変だ。
 自分で思う以上に溜め込んでいた不平不満に体が影響を受けていたのだろう。女とは体の作りが違うから、愛されているとわかっているから、そう言い聞かせたって積み重なった苛立ちを誤魔化せるわけもなかった。まったくもって修行が足りない。こうなったら絶対ヨクなってやる。それこそ本当にブラジャーをつけなくてはまずくなるほどに。



 夜も更けて、と言っても今どき子供も寝ない時間なのだが坊主の朝は早い。どう乳を育てるかで頭がいっぱいで親父に何度もドヤされたものの、大人しいから不審がられたあげくに馬鹿のくせに風邪かと心配された。さすがに失礼すぎやしないかと思ったものの、様子がおかしいから早く寝ろと部屋に押し込まれたのは都合がいい。
 何がどうなってもいいように、念入りに風呂場で体を清めた。乳首が感じにくいなら感じる場所も一緒にいじるといいと書いてあったから、ちんこだけでなくすっかり性器になり果てた尻も準備万端だ。全裸になって、薄暗い中で布団に転がる。
 だらだらと先走りをこぼすのをいやらしい、かわいいと言われて滅多に使わなかったゴムを装着し、布団にはタオルを引く。リラックスして仰向けに転がり膝を立てて足を開くと、さすがに風呂場では入れられなかったローションをナカに注ぎ入れ、内緒で持っているバイブで蓋をした。
 自分以外のちんぽを挿入するのをたとえ玩具でもいい顔をしない恋人にはプラグ以外は処分したと伝えたものの、互いに多忙ですれ違う生活をしている。落ち着いた三十路はいざ知らず、もうすぐ二十歳の十代ーそれも十六歳上の数年分の欲望を一身に受けとめて開発され尽くした体には耐え難いときもあるのだ。太くて硬くて熱いちんぽに拓かれ、暴かれ、犯され、おまんこなんて自分でも言うようになってしまった場所は疼き出したら止まらない。
 出来るだけ恋人のモノに近いサイズを探して、結局満足いくものは見つからなかったものの、一時しのぎなら十分とたびたび使ってきた。一番奥に届きそうで届かない、物足りないけれど本当に届いてしまったら恋人が怒りそうだからそのままでいいサイズ。
 毎回、もう少し頑張れば一番気持ちいい場所に子種がもらえるからと使ってきたバイブは今日も絶好調で、おまんこの中のローションをぐちょぐちょとかき回す。一番いいところに届かないだけで、それ以外はぬちぬちと責め立てられて、頭がぼうっとしてしまうのを叱咤した。けれどこれからもっといやらしくなるために特訓をするのだと思うと、想像でおまんこがきゅんきゅんと締まって、ちんこがぴゅっぴゅとおもらしをしてしまう。
 会えない時間が切なくて、バイブを使っていると言ったらどうやっているのか教えろとおっかない顔で捕まった。準備から至近距離で視姦され、はしたなくひくつく様を実況され、ぷるぷると先走りをもらすちんこを撫でられる。過ぎた羞恥と快感で今は亡き一代目のバイブのさきっぽを飲み込んだだけで、おまんこもちんこもイッてしまった。
 あの時も今と同じ体勢で、ちんこはゴムをつけていなかったからイッた瞬間、それはもう盛大に撒き散らした。ぴゅるぴゅると腹に吹き出したちんこ汁と、バイブを食い締めるおまんこを見ながら玩具ちんぽは気持ちいいかと問う目は声音に反して獰猛で、何を言っても犯されるのだと嫌でもわからせられる。
 見られているから気持ちよくて、しょせんちんぽの代用品でしかないと言っても、もっと気持ちよくしてやるとバイブを一気に押し込まれ、少しふにゃりとしたちんこにしゃぶりつかれた。ごりゅりゅ、と肉壁を抉りながら止まったバイブのさきっぽに最奥手前をぶるぶるとノックされるのも、一口で丸ごといただかれたちんこを大きく厚い舌で舐め回されるのも自慰ではけして味わえない。
 おまんこもちんこも簡単にイッて、びくびくと腰を跳ねさせながら恋人の口の中に射精してしまった。見せつけにちんこ汁を飲み下して、イッてなおバイブを離さないおまんこを見ながら、堪え性のないいやらしい身体だから仕方ないとわざとらしくため息をつく。反論もできない事実と、バイブでイキたておまんこをこね回され続けて甘イキしっぱなしの頭では、そもそもお前がこんな体にしたのだろうとなじることすらできない。だからちんぽを模したおまんこほじり用の玩具を全部捨てて二度と使わないと約束するなら、今すぐ一番イイところをちんぽでかわいがって、一番奥のすけべなところに子種を射精してやると言われたら断るなんてできなかった。
 おもちゃをすてる、にどとつかわない、とどうにか口にした直後、挿入とおんなじに一気に抜かれたバイブはそのまま彼方へと放り投げられたらしい。引き抜くときに肉壁をずりゅりゅとなぞりあげられておまんこがイッていたから、後日不燃ゴミの袋の中で無残に真っ二つになった姿しか知らないのだ。
 バイブが抜けてひくつくおまんこは即座にずぶん!とちんぽで犯された。届かなかった一番奥の一番すけべなところをずんずんと突かれ、一回ごとにおまんこがきゅんきゅん、きゅうきゅうと悦びいさんでしゃぶりついてしまう。バイブじゃこんなのできないだろう、すけべなおまんこがちんぽ欲しがったらすぐ言いな、と鼓膜をふるわす声は肯定以外を許さない。当然、慣れるために今言ってみな、というのにも逆えず、恋人が満足するようないやらしいおねだりをするまで解放してもらえなかった。
 あんなに手酷くお仕置きされたのに、次の逢瀬まで待ちきれずに同じものを買ってしまった。むしろ濃密に愛されるほど、拓き尽くされた体は飢えを抑えられない。それどころかまたあの嫉妬と欲でギラついた眼差しを向けられて、自分のものだと刻み込むように犯されたらと想像して自慰が捗ってしまう。
『すけべなおまんこがちんぽ欲しがったら言えっていったろ?』
 頭の中、想像の恋人が捨てたはずの玩具でおまんこをほじるのを咎める。露骨な不機嫌面で自分の居場所に居座る偽ちんぽを睨みつけ、どうしてやろうかと思案していた。
 約束を反故にしてまで玩具ちんぽに浮気をしたのだ、絶対に本物ちんぽをくれるなんてことはない。自慰としては都合のいいシチュエーションにおまんこがきゅんきゅんとはしたなく玩具を食い締めてしまう。
 危うく本来の目的を忘れそうなほど盛り上がったおまんこが甘イキをくり返し、ちんこにかぶせたゴムの液だまりがぷるんと揺れた。乳首、乳首をいやらしくしなくてはいけない。
 びくびくとふるえる体を叱咤して、乳首へと手を伸ばす。両手で胸元を撫でると、体は熱いものの乳首はへにょりとしたまま。指南サイトで見たことを思い出そうとしたけれど、想定していたより飢えたおまんこが気持ちよくて頭が働かない。ためといた方がいいかと思ってムラムラしてもそのままにしたのが逆効果だったのか。
 このままではおまんこだけでイッてしまう。それじゃあ普通のオナニーで、乳首はどうにもなっていない。いっそ一回イッた方がいいのか。混乱したまま乳首をこね回していると、バイブの動きが鈍くなった。
 恥じらいを持たぬように思われているが、ブィンという存外に響く音への思慮くらいは持ち合わせている。刺激の強度は大きくても中で、浅瀬を弱でぶるぶると長時間ゆすることが多い。獄に見せたようなのはよっぽど耐え難く、人が少ないときーもしくは獄の家でしかやらない、というかできない。獄にもそう言ったのに、ならばローターで十分なはずだと許してくれなかった。ちんぽの太さが欲しいのだと怒り半分に訴えたら、クソ!とうつむきながら舌打ちしていたのが忘れ難い。
 何の話かと言うとつまりは電池が切れそうなのだ。充電式もあるが、絶対にそこら辺に充電しているものを放り出したままにして大目玉を食らう。よしんば獄に話がいくことがあろうものなら、怒られるならマシな方で、三十路のガラスの心やらプライドやらが傷ついたら最悪だ。誠心誠意謝罪して、宥めすかして慰めて、それでもダメなら、きっとまたいやらしいことをされてしまう。
『生臭の上に淫乱なんて坊主の風上にも置けねえな。ちんぽのことばぁっか考えやがって』
 鈍くなってもバイブはまだ動きを止めていない。ブブ、ブィ、ン、と不随意に与えられる刺激と、想像の恋人の意地悪で焦らしながら高められ続けている。
 最初はセックスなんて入れて出すだけだと思っていた。喧嘩に関しては諦めていた父親も、性行為だけはするんじゃない、今のお前に親になる責任なんて到底負えるものじゃない。と口を酸っぱくして言っていた。言われずともたまったらヌく、そうじゃなければ修行と喧嘩で消え失せていた淡白な性欲を、耐え難くなるまでに育て上げたのが恋人だ。
 なんにも知らずにいた空却の体も心も恋しい愛しいと触れて、くちづけて。かわいい、気持ちよくなってほしいと撫でて、しゃぶる。こんなの知らない、嫌だ、と情けなくベソをかいても、本当の本当に嫌なのか、と問われたら違うから、ケツの穴と言っていた場所はおまんこになってしまったし、意地悪な言葉と仕草で天邪鬼な心を引っ剥がされるのがたまらなくイイ。
 恋人に、獄に愛されて拓かれた体と心は恥ずかしくなるほど淫らで、ちんぽを模した玩具で自分を慰める日が来るなんて本当にカケラも思っていなかった。それなのに今、おまんこになってしまった尻が刺激の弱くなったバイブをイキたい、イキたい、と食い締めている。しかも今回は純粋な自慰ではなく、乳首をいやらしくするための下準備なのだ。いちおうちんこよりおまんこをいじった方がいい理由はあるものの、特に違和感も疑問もなく自慰と言われておまんこをいじっていた。冷静ではない頭の中の、ほんの少しだけ冷静な自分が、変態、淫乱、と罵倒する。
「ふ、ぅ……っ」
 恥ずかしくて、嫌で、こんなの知らない、自分じゃないと思うのに、止められない。そうやって拒むたび、恐れるたびに、心も体もいとしい、かわいい、と甘くとかされてしまう。好きで好きで惚れ抜いて、ようやく振り向かせた相手にそんなふうに乞われて、無碍にできるやつはいるのか。とっくに陥落しているのに抵抗して、意地悪に責め落とされるのすら歓んでしまう。
「ひ……と、ゃぁ……っ!」
 イケないまま、うっすら硬くなった乳首をひっぱった拍子にびくん!と大きくのけ反った。気持ちよくは、ない。けれども指で摘んだ乳首が見たこともないくらいふくれて、硬くとがっている。
 なんで急にこうなったのか。今までどんなに刺激されてもうんともすんとも言わなかったのに、どくどくと激しい鼓動に合わせてむくむくと大きくなっている気すらする。妙な緊張で摘んだままぴくりとも動けず、弱い振動音がくぐもって響いた。
「んっ……」
 いつまでもこのままではいられない。イケない、イキたい、うだった頭がぐるぐるするのをなんとかしたくて、乳首をくん、と引く。側面なんて言えるほど大きくも厚みもなかったはずなのに、ちんこと同じようにすっかり硬くそそり立っている。軽く引くだけでも小さく声が出て、それが自分でも甘く感じて恥ずかしい。ちんこにつけたゴムだって、ずっしりと重そうにぶら垂れている。射精をしていないのに、おまんこだけ、先走りだけでこんなに出して。
 もう何度も、数えるのも馬鹿らしくなるほど肌を合わせて、自分も知らない場所を許してきたのに、こんなに淫らな体を見せて触らせてきたと思うと羞恥が吹き出して止まらない。今がこれなのに乳首までいやらしくなったらどうなるのか。恥ずかしくて恐ろしくて、それなのに、はしたないおまんこが玩具のちんぽにきゅうきゅうと媚びて、ちんこがまたゴムを重くする。
『やらしくなった乳首でまんこもちんこもイッちまいそうだなぁ』
 想像の恋人が意地悪なことを言う。まだやらしくなってない、硬くなってふくらんでるだけでやらしくなんかなってない。頭の中で反論しても、自分のせいで淫らに変わるのを喜ぶ恋人は意に介さず、こんなに勃起してるのに?と責めたてる。全部想像でしかない。それなのに記憶の中の恋人の甘くとかす言葉と愛撫が重なって、おまんこがきゅんきゅんと跳ね上がり、ちんこがぷぷ……とおもらしをする。乳首だってもう、言い訳なんてできないくらいふくらんでー
「あっ、んぅっ!」
 イキたくてイケなくて、快感をためこむばかりの体がついに破裂した。つまんでひっぱった乳首が猛烈にこそばゆい。大きくなっただけだと思ったのに、じんじん、むずむずして情けない声が出てしまう。そのたびにおまんこも、ちんこも、寸止めのままてっぺんまでいかされて降りられない。こうなるために、こうなりたくて、こんな恥ずかしいことをしているのに、いざ乳首が反応しはじめると腰が引ける。
 だって、おまんこだってそうだった。狭くて小さくて指一本すら入らなくて、気持ちいいなんて本当に思うのかと疑うくらい、痛くて苦しいだけの場所だったのに。獄が、全部変えてしまった。少しずつ慣らして、気持ちよくなる場所を探して、指でとんとんされてイケるようになって、あっという間にちんぽが入るように広げられて、今ではもう、自分でも見たことも触ったこともない、獄にもちんぽでしか触れられていない場所が一番気持ちいい。
 大きくて、硬くて、太くて、熱い。自分のはしたない姿に欲情して腫れ上がったちんぽに、おまんこに変えられた尻をずぼずぼと犯される。そそぎこまれたローションなのか先走りなのかわからない、にちゅにちゅとねばついた音をさせながら、ぶっくりとふくれたさきっぽで突かれるたび、尻がもっとおまんこになりたいと、ちんぽにきゅんきゅんと媚びて絡みつく。こんなになる頃にはすっかりおまんこは甘イキしっぱなしで、種付されないと本当にはイケなくなっている。
 ちんぽでしか届かない、一番奥の、一番いやらしい、一番、気持ちいいところ。そこをちんぽでいっぱいかわいがられると、たちまちおまんこはイッてしまう。やわな場所をとろとろになるまでこねられて、硬く尖ったちんぽのさきっぽを覚えさせられて、くちづけのようにちゅぅぅ……と交わったまま、たっぷりと子種を注がれる。触れ合った肌からどきどきと響く鼓動に合わせ、びゅくびゅくと叩きつけられる精が尻をおまんこにしてしまう。尻がこうなのだ。乳首だって、もう。
「ふぅ、ぐ、うっん……!」
 絶頂寸前で留め置かれた体がのたうち回り、びぃん、と乳首を引き伸ばす。ぷりぷりにしこったふくらみを押し潰し、指の腹で擦り上げるのが気持ちいい。あふれそうになる喘ぎを喉奥で噛み殺し、目をつむる。開いた場所から何もかも出ていってしまいそうで、ぎゅう、と強くふさいだ。それくらい、きもちいい。
 今の今まで全然ヨクなかったはずの乳首は、痛いくらいの力で摘んでいるのにぴりぴりと痺れるような快感が走って、おまんことちんこまでヨクなっていく。急に拓かれた快感に恐る恐る乳首から指を離すと、摘んでいたことで抑えられていた何かがぶわ、と広がったのか乳首と周辺がむずむずとしてこそばゆい。触れていないのに硬くふくれたままなのがわかるほど、ぷくりと勃起した乳首がうずいて主張をする。
 自分ではほとんど触れていなかった場所だ。もしかしなくとも恋人がこれまで熱心にいじくりまわした成果が実ったのかもしれない。むにむにくりくりと飽きもせずに揉みしだかれた胸は、少なくとも乳首だけならば立派にそそり勃っている。おっぱいと呼べるほどのふくらみはまだ遠そうだが、このはしたない乳首はお好みのはずだ。
 少し前まで慎ましやかにぺたんとしていた乳首が、お前のせいでいやらしくなったのだと責めても、殊勝なフリをして詫びながら『どうして、どうやって、どう変わったのか』を言わされるだろう。少なからず傷ついていたプライドを取り戻そうと、すっかり過敏になった乳首でイクまで解放されない未来が見える。感じなかったのも、感じるようになったのも、全部、獄のせいなのに。思うだけ、考えるだけで乳首がじんじんと甘く痺れ、おまんこがきゅうきゅうと締まる。イキそうでイケないまま、ちんこにつけたゴムが重そうにぶらんとゆれた。
 触ったら絶対イッてしまう。おまんこでもちんこでもない、乳首を一撫ででもしたら、それだけで寸止めされ続けているおまんこがバイブを壊れそうなほど食い締め、ちんこはちょろちょろともらし続けていた助平な汁を我慢できない。こんな簡単にいやらしい乳首になるなんて思っていなかったから、布団に敷いたタオルで間に合うかわからないし、はじけそうなゴムを交換したいけれど、きっとその瞬間にイッてしまう。
「は、ぁ、あぅ……ぅ」
 どこでどうイクにしてもこのままではいられない。焦らされ続けて甘イキを続けている体は、油断すれば落ちてしまう。誰かを迎え入れるように開いた足の間にずっぽりとバイブをハメて、乳首とちんこは勃起したままーこんな格好で朝を迎え、もし誰かに見られたら。浅ましい体を、熱を、欲を持て余しているなんて一つ屋根の下の人間に知られるのはさすがに恥ずかしい。
 意を決して、もう一度乳首に手を伸ばす。そもそもブラジャーの亡霊にとり憑かれた恋人をギャフンと言わせるためにはじめたのだ。ここで退いたら掲げた不退転が嘘になる。ピン、ととがった乳首はまだむずむずとして止まらない。ええいままよ、といつもされるように下からすくい上げて手のひらで乳首を包みこむ。
 カチカチではないものの、けしてやわくはない筋肉の上、乳首が硬くとがっている。手のひらでころころと転がすとさきっぽがさらに硬く、敏感になって、きもちいい。喘ぎを噛み殺し続けるのが辛くなるくらい、乳首がまるでちんこになってしまったように、撫でるだけでびくびくと体が跳ねる。
 自分でおっかなびっくり触るだけでも耐え難いのに、熱心にいじくりまわしていた恋人に委ねたらどうなることか。にやにやと嬉しそうに鼻の下を伸ばす顔ーそれでもムカつくほどいい男なのが余計に腹立たしいーが簡単に想像できてしまう。でもこの体勢で、こんな風にされたら、子供体温とからかわれる自分に負けず劣らず熱い体が背中に触れるのに。それがないのが寂しい。
 この場にいない恋人が恋しくて、頭の中で名前を呼ぶ。獄、獄、獄……答えが返ってこないのがどうしようもなく切なくて、手のひらで撫でていた乳首を指で挟んで締めつけた。寂しさと快感で苦しい胸を抑えたくて、ぎゅうぎゅう押し潰す。縮む気配のない硬くふくれた乳首の側面は、指でしゅこしゅこと擦れるともっと硬く、愛撫をねだってピン、ととがった。
 獄、獄、ひとや……!もうイく。乳首で、なんにも感じなかったはずの乳首で恥ずかしいくらい感じてイッてしまう。返ってこない言葉のかわりに、今までベッドで言われたいやらしい、けれども空却が好きで、かわいくてしょうがないと隠しもしない言葉の数々が頭の中をめちゃくちゃにかき回す。
『おまんこもちんこもイクイクってしてんのかぁわい……』
 これからは御所望だった乳首でもイッてしまう。今はバイブで鈍く弱く突かれるおまんこも、ゴムですけべなおもらしを貯めているちんこも、次に本物の獄に会うときには全部めちゃくちゃにされてしまう。本物の獄のちんぽで、熱くて、硬くて、太くて、大きいちんぽで、おまんこ全部、みっちりと埋められて、いっぱいずぽずぽ擦られて、それだけでベッドをびしゃびしゃにするほどイくのに、乳首まで、一目でやらしいとわかるすけべな乳首まで、いっぱいくりくりされたら。
「あっ!あ、あンッ、ゃ、やぁっ!ぃく、ぃくぅ……っ!ひとゃぁ!ひと、やぁ……っ」
 想像しながら乳首をいじる。しゅこしゅことしごき、これ以上なくとがったさきっぽを爪先でぐり、とえぐると、ひ、と息を吐き出したが最後、抑えきれなかった。硬くなった乳首のてっぺんはやわで、思うより深くほじってしまったせいで、じん、と痛む反面、胎全体に深く響く。甘くイキ続けていたおまんこはバイブをぎゅうぎゅうと締めつけながら達し、ちんこがぴゅるる……と白濁まじりの潮を吹いた。乳首への刺激だけでイッてしまった戸惑いと羞恥と快感で、目だけはぎゅぅ、とつむったまま、みっともなくひっくり返った声がとりとめもなく喘ぎ、叫ぶ。聞こえてしまう、嫌だ、恥ずかしい、と思っても止まらない。頬をなぞるしずくがぽたぽたと髪も布団も濡らし、ようやく口を閉じられた頃、よたよたと身を起こして後片付けをはじめた。
 あんな大きな、それもあからさまに自慰をしている声を垂れ流してしまったのだ。着ているものが擦れるのもしんどいけれど、ナニをしていたかバレバレのままの姿ではいられない。獄とヤることをヤッていると知れ渡っていても現場に居合わせたいなんて奴は身内にいないし、こちらだって観覧席はご用意していない。
 ぬちぬちと音を立てるバイブを抜き取り、破裂寸前で持ち堪えたゴムと、なんとか耐え抜いた布団に敷いたタオルを外すと、それぞれ独特の臭気と重みがあって部屋に置いておくのがはばかられる。なにしろ他と同じに余さず開発されていた場所が、曲げていた臍を急に真っ直ぐにしたせいでため込んだ快感が一気に押し寄せてきたのだ。迎えた絶頂もあとを引く尻でのもので、寝落ちでもしないと終わらない。
 汗もかいて喉が渇いた。できるだけ刺激しないように寝巻きを着て、念のため適当なビニール袋で包んだゴムをゴミ箱に放り投げる。タオルとバイブをどうにかしなければ、とスマホで時間を確認して襖を開いた。
 ちょうど日付が変わる間近、もうすぐ明日が来てしまう。次の約束を思い出して、体がきゅぅ、とうずいた。



 後日、父親から恋人へやんわり諸々をバラされて一部始終を余さず再現させられた上、バイブは恋人の選んだものが三代目に就任することになる。
 乳ーというか乳首は順調に育ち、それはもう楽しそうに揉んだり舐めたりされて、ブラジャーの亡霊からは解放されたものの新しい何かにとり憑かれたかもしれない。
 祓う予定は、ない。

2022/7/23


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