ぬくぬくねこ
空却は絵に描いたような健康優良児で、いつだってスカジャンの下の法衣はノースリーブだし、サルエルパンツからふくらはぎが半分近くみえている。けれども小柄な体躯に詰まったエネルギーはすさまじく、常に熱を発しているから、夏は熱く、冬はぬくい。
「銭ゲバ弁護士、ホントサイッテーって冬ンなると思うわ」
「恨むならお子様体温の自分を恨め」
夏は暑苦しいとツレない獄が、冬になるとスキンシップが増える。理由は明白で、考えるまでもなく最低である。
今だってドがつく深夜、リビングのローテーブルと入れ替えたこたつに入った上でなお、空却を抱えているのだ。しかも開き直って、何が悪いと言わんばかりに服の中に手をつっこんでいる。力尽きた獄が着ているスーツと桁が二つは違うファストファッションのスウェットは、あたたかくてよくのびた。
「も、やめろよ」
「もう少しだけ」
後ろから抱え込まれて抵抗出来ないのをいいことに、冷たい手でぐにぐにと揉まれたり、つぅとなぞられたり、好き放題されるのだ。こそばゆくてもぞもぞして、たまったもんではない。
それでも冷え症は辛いと檀家にも一番弟子にもよく愚痴られる。自分の体温ていどでマシになるならとよく手を握ったりもするし、現金だと思っても寒空の下、頑張って働いた恋人に甘えられて嬉しくないわけがないのだ。
しかたなく心を無にしてカイロ代わりに好き放題揉んで擦られて撫でられていた。修行のときより無心になれる。恋人といるのにそれでいいのか。いや、今の拙僧はカイロだから人間じゃない。
だんだんうとうとしてきたのもあり、こたつ机にへちゃりと右頬を寄せ、まぶたを下ろす。空却の熱を奪い、這い回る手があたたかくなってくる頃にはすっかり寝入ろうとしていた。
「ふぁっ!」
急にぴん、と両胸に電流が走った。
そう、完全に油断していたのだ。
先ほどまでの恋人の手の動きに色艶めいたものがなかったとは言わないけれど、暖をとりながらのいたずらでしかなかった。
今のは違う。脱力してうとうとと無防備に体をあずける空却に、明確にいやらしいことを仕掛けにきている。
がっちりと押さえ込まれ、手は動かせず、こたつの中で伸ばした足もからめとられてしまった。
みじろぎすると、ぐっ、と密着した一部、尻に、硬いものが当たっているのに気づく。どくどくと脈打つそれが何かわからないなんて言わない。ただ、どうして急にスイッチが入ったかわからない。
恋人の頭が乗せられた首も動かせず、せめて顔だけでも見たくて振り返ろうとするも、うなじをべろり、と舐められた。
「ひとや……!」
舐めた場所をかぷかぷと甘噛みされ、背がふるえる。跡が残らないていどに軽く食まれるのが、くすぐったくてもどかしい。最初にいたずらされた乳首も、強くはじいたのを詫びるように優しく撫でさすられる。
あわく触れられるたび、"もっとすごいの"を知っている身体が焦れて火照る。ただでさえ熱いのに、本当に燃えてしまいそうに感じる。汗でじっとりと湿った服が気持ち悪くて脱ぎたいのに、首根っこをつかまれたまま動けない。
「きょう、じゅんびしてない、から」
うだった頭でどうにか抜け出そうと、自分にけして無体を強いない恋人を止める言葉を吐いた。嘘ではない。今日は帰れないかもしれないと言われていたけれど、疲れてへとへとになって戻るだろう獄を純粋にねぎらいたかった。こんな寒い中、暗い部屋に一人にしたくなかった。
あと、ヤれない可能性が高いのに準備するのはツラい。疲れマラパターンを考えなかったわけではないが、何時に終わるかわからないような仕事明けにはセックスするより寝たほうがいい。今みたく無言でうなじを吸いながら乳首をいじっている獄はそうとうお疲れなのだ。
「……わかった」
ようやくうなじから口が離れて、乳首をいじる手が止まる。尻に当たったイチモツは元気いっぱいのままだから、それくらい付き合うのはやぶさかではない。というか空却だって色々限界である。
さてどうなるものかと続きを待っていると、ふたたび、胸をわし掴まれた。
「なん……っ獄!!」
「……俺はもう何もしたくない」
「拙僧の胸は揉んでんじゃねえか」
「それくらいしか出来ないっつーことだ。自分のちんぽも握る気力がない」
「じゃあ握ってやるから」
「いや、いいからお前の胸を揉ませろ」
「なんでだよ!」
どうやら本当の本当にお疲れらしい。
おぞましい量の仕事納めをやっつけて、さすがに帰っているだろう、いても寝ているだろうと思ったら、あたたかくて明るい部屋で船を漕ぎながらも健気に恋人が待っていたのがそうとう嬉しかったとのことで。
「お前十割クソガキだのに、急にかわいくなるよな」
「百パークソガキなんじゃねえか」
「照れるな照れるな。バカなガキほどかわいいもんだ」
「照れてないしバカじゃねえわ」
むにむにと下から持ち上げるように揉みしだかれる。鍛えてもうっすらとしか筋肉はつかなかった。それなのに獄とセックスをしはじめてから、なんとなく成長したように感じる。そんなに劇的ではない。ただ、自分の体だからなんとなくわかる小さな変化。でも絶対筋肉じゃない。
乳首だってそうだ。はじめはなんともなかったのに、気づいたら触られるとせつなくなって腹の奥がうずくようになった。今も手のひらは胸全体を撫でているが、指先は乳首を摘んだり擦ったりしている。
ダメだ。もうすぐバカになってしまう。空却の心と体に"気持ちいいこと"を教えたのは獄なのだ。さっき少しだけいたずらされた余韻で簡単に火がつき直す。頭がふわふわして、触れあう部分が全部熱い。ちんこの当たった尻の奥、準備はしていなくても形を覚え込まされた後腔はねだるようにひくひくとふるえる。
「ほんとに、もむだけでいいのかよ……」
「お前だって忙しい時期なのに、待っててくれただろ」
お互い本調子でもなければ準備も出来てない。一緒に風呂でも入って寝た方がいいけれど、のっぴきならない熱が冷めないのだ。
「だからおかえしに気持ちいいことさせてくれよ」
「……すなおに、いじらしいせっそうにムラムラした、っていえよ……」
「そうとも言うな」
「そうでしか、ねえ、だろ!」
もう一度、今度はすっかり勃ちあがった乳首をはじかれて、バカになった頭でバカみたいなことを言いそうなのを飲み込んだ。
2020/12/31
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