太陽が墜ちる天を見る
毎年そのお寺にお参りに行くのは近所で一番大きくて有名だからというだけではなく、色々とお得だからなのだけれど、人には言ったことがない。
日付が変わる時間に出歩いて怒られないのは大晦日の特権だ。年齢が上がるごとにその特権の範囲は広がって、高校に入ってからは『近所の空厳寺さんなら』友達とだけでもいいと言われた。お参りをしたあとで貰える甘酒を飲んだらすぐ解散と言われたけれど、あそこは有名だし大きいところだからけっこう並ぶのだ。そして同じ条件で許可が貰えた友達と、そのまま元旦初売り行きたいね、なんて話していたら、あっという間に当日になっていた。
友達と日付が変わってすぐお参りをするのが目的だったから、なんとなく健康をお祈りした後にテストや部活なんかが頭に浮かんでくる。新年早々失敗したと思いながら、ここにお参りに行く目的その2に向かった。
ここでお参り後に貰えるサービス? プレゼント? 参加賞? が好きだ。前は甘酒一種類だったのが、年々お茶、オレンジジュース、豚汁、お餅と増えていき、今年はみかんが加わった。一人一つ必ず貰えるから、甘酒が苦手だった頃はお茶を貰っていた。最近は豚汁と甘酒を行ったり来たりしていて、さて今年はと迷っていたときだった。
真っ赤な髪のお坊さんが豚汁をすくっていた。渡す相手に合わせてころころ表情を変えるその人が実は目的その3だったりする。不良坊主だとかDRB参加者だとかで有名だけれども、私にとってはお参りの時に必ず会えるお坊さんで、それ以外はあんまり興味がない。不良みたいな外見で最初は怖かったけれど、よく見れば芸能人とかモデルみたいに綺麗な顔だし、子供にも老人にも親切にしているのをよく見かける。だけどやっぱり近寄りがたいから、お参りの時に探して眺めて満足していた。
いつもはもっとお堂の奥にいた気がするのに。予想外に近い距離に怖気づいてしまう。近くで見るとやっぱり綺麗で怖い。豚汁をやめるか。でも甘酒は豚汁の隣だからたいして変わらない。あまり悩むと空いているからとお餅を貰った友達を待たせてしまう。慌てている間にも豚汁も甘酒も列がどんどん伸びていた。
「来てやったぞ見習い坊主。励んでるか?」
「まずはあけましておめでとうございます、だろ。ゼニゲバ弁護士!」
迷いながらも目で追ってしまっていたお坊さんが、急にすごく大きな声を出した。先頭に来た変な髪型の男の人と知り合いらしい。他の参拝の人にジジイとかガキとか言っていたのと同じ乱暴な話し方で、それよりもっと雑でひどい感じなのに、なんでか嫌だと思わない。
「マフラーつけてんな」
「獄がうるせえからだろ」
列が渋滞しはじめているけれど誰も怒る気配がないのは、きっとお坊さんに詳しい人ならみんな知っている仲の良い人なのだろう。友達というには歳が離れていて、家族というには似ていない。どっちにもすごく近いけれど、なんだろう、何かが足りない気がする。
「配ってるみかん、この前くれたやつか?」
「すげー美味いって言ったら追加が来た。さすがに食い切れねえから」
ついにお坊さんは豚汁の前に居座った男の人と話しながら豚汁をつぎ出した。私のように不思議そうな人の方が少数派で、ほとんどの人がにこにことしながら二人に話しかけて帰っていく。親しいわけでもないのに疎外感――というのだろうか――を感じて居心地が悪い。すっかり豚汁も甘酒も貰う気になれなくなってしまって、美味しいらしいみかんをもらって帰ることにした。
友達のお餅とみかんを物々交換した帰り道、眠い眠いと言い合いながら一度帰って福袋を買いに行く予定を立てる。まだまだ暗い夜道はいつもより人が多くて、手に持ったお土産でみんな同じ場所から帰って来たのがわかって面白い。
一人、家族、友達、カップル。どんな人が何を貰ったのかを目で追いながら、はっとお坊さんと変な髪型の男の人に感じた足りないものの正体に気がついた。どうして気づかなかったのだろう。あんなに楽しそうで、すごくきらきらしていたのに。あと一方的に知っているだけの人に勝手に寂しくなったりショックを受けたりしているのが、なんだかものすごく恥ずかしくなってきた。
私の気持ちを知ってか知らずか、友達に初売りの前に初日の出を見ないかと誘われた。眠気と恥ずかしさを振り切りたくて、いいねと乗ってみたものの、あのお坊さんよりまぶしいものは今日はもう見れない気がした。
2023/12/31
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