ロマンポルノじゃはじまれない

 体育祭でそれはそれは立派に応援団長を勤め上げた子供は、なぜか今は自分の股間に向けて同じことをしている。
 露骨にただ一人を贔屓をしていた時と熱意の方向と声の出し方に違いはあれど、じぃ、と一点を見つめているのは変わらない。
「頑張れ♡ 頑張れ♡」
 常日頃の馬鹿みたいに大きな声をつつしまやかにひそめているのは、ここが学校だからだろう。
 一応名誉のために言っておくが、この子供――かつ生徒――に俺は指一本とてやましい理由では触れていない。始終たわけたことをしでかすから、そのたびにとっ捕まえたり叩き倒したりしているが、そこに不埒な意図は一切ない。
 子供の方が勝手に俺が仮眠をとっていた教科準備室に忍び込み、ソファーに仰向けになった足の間に寝そべり、いきなり股間を励ましだしたのだ。ぎょっとして、まず保身から扉の方を確認したら、しれっと「閉めたぜ」と職員室に置いてあるはずの鍵を指で弄ばれた。計算尽くの犯行である。
 慌てたのにはもう一つ理由があって、子供の着ている服……というか、コスチュームだ。
 体育祭では応援団の正装とも言える学ランの団服を着ていたのだが、今はどこから用意したのかチアガールのコスチュームを着ている。デザイン自体はよく見るノースリーブとミニスカートのセットのもので、剥き出しの四肢が寒そうでたまらない。
 頑張れ♡ のリズムに合わせ手足を小さく振っているが、室内の空調もあってか熱を帯びた肌がじわじわと白から桃色へと色づき、しっとりと汗をにじませる。股間から視線をそらさぬ子供の頬も当然のごとく上気し、危うく頑張ってしまいそうな自分を一生懸命に鎮めた。

「なんだよ、拙僧の応援じゃ頑張れねぇってか?」
「……どこをどう頑張らせようとしてんだ……」
 その後も続いた股間への熱烈な応援は、寝そべって股間へと優しく囁く頑張れ♡ 頑張れ♡ から、股間の上でフレ♡ フレ♡ と励ますスクワットに変わり、上下に揺れるたびにちらちらと覗く臍だの腹だのが目に毒だった。膝上丈のミニスカートもよくよくめくれ上がったが、中身がなんであれ決して見ないようにと視線を上へと押し上げた。リズミカルな衣擦れと、それに合わせたソファーのきしみ、甘く誘う声に上がる息、汗ばみほてる肌を至近距離で浴びて、よくもまあ俺は『教師』を貫けたと自分で自分に感心する。それをこの『生徒』ときたら。
「どこをどうって……わかんだろ?」
 なぁ、と切なげに声をふるわせ、ついにやわらかな尻が股間に着地した。何とは言わないが、器用に尻たぶのあわいに挟み込み、きゅ、きゅ、と締めつける。そのまま前後に擦り、扱かれるという拷問がはじまり、気が狂うかと思った。
 なんで、と言いたげな顔の子供は、ミニスカートの一部がはしたなく盛り上がり、一番尖ったあたりはうっすらと色が変わっている。いよいようるんだ目と赤い肌は、涙と汗ですっかり濡れてしまっていた。
「拙僧、そんな色気ねぇか……?」
 こぼれ落ちそうな雫を必死でこらえる目は悲嘆と焦燥でぐるぐるとしていて、どれだけ望むこたえを返してやりたかったか。けれどそれをしてしまったら、互いに本当に望むものは手に入らない。こちらに追いつきたいと急く子供にはわからない、決して間違えてはならないあやまちの分水嶺が今なのだ。
「こんな埃っぽいとこで初夜なんざ御免なんだよ」
 それだけ告げて、決壊したまなじりから拭いとったしたたりに口づけた。このぬくい清水が塩からいほど、この子供の肌が、くちびるが、熟れて甘く香るのだ。
 そっと抱きしめた身体は赤ん坊のように熱く、火傷するかと思った。

2024/1/31


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