花が盗めと唆す
「写真消すって言ってたじゃねえーか!!」
ひょんなこと――パートナーが俺のスマホを奪っていじった――から制服教室えっちごっこ♡ の時に撮影した写真を数枚残しているのがバレてしまった。
せっかくの休日。穏やかな日差しを浴びながら、のんびりと件のソファに並んで座っていたのに。
こいつが隙あり! とかなんとか言って俺のスマホを奪って、淫行教師の悪徳カメラチェック、とか馬鹿なことをするからだ。
「俺の身の潔白がわかって良かったろ」
「どこが潔白だ! こんなもん……っ!」
「消しても無駄だぞ、バックアップは複数取ってある」
「全ッ然! 消す気なかったんじゃねーか!!」
変態! むっつりスケベ! 腐れちんぽ! と子供じみた罵倒をされながら、消す気はあったんだがなぁ、とひとりごちる。
二目と見られないほど汚された制服と子供に尽き果てることなく欲望を駆り立てられ、意識を手放してなお敏感に跳ね続ける身体に余計に煽られた。
それでも、これ以上は抱くのも汚すのも躊躇われて――
つまるところ、この写真は互いのために撮影されて残されているものなのだが、たぶん、おそらく、わかってはもらえない。
「学生証……って」
「ああ、昔のお前と比較したくて」
「比較」
呆れか幻滅か。座った時はぴたりと張りついていたのに、今ではすっかり距離を取られている。スマホを握ったまま言葉にならぬという風情のパートナーに説明したら余計に荒れるだろうが、言うしかない。
「学生証は入学時撮影だろ?」
「ヤベ、もう聞きたくねえ……」
「本当の処女のお前と――」
「言うな!!」
成人男性二人のセックスに耐えうるソファの弊害で、また距離が離れてしまった。毛を逆立てながらスマホを死守するパートナーの威嚇もかわいらしいが、学生証のパートナーはまだ中学生だった幼さが色濃く残る。色気などカケラもない、絵に描いたようなやんちゃ坊主ぶりがかわいらしい。
もっとも当時すでに俺に告白して付き合え結婚しろセックスしろと鳴いていたのだが。そんな熱烈なアタックを断り続けた理由のうかがえる、優良健全児童ぶりが小さな証明写真からも伝わってくる。
「自分からノリノリで迫るクセになあ……」
「最初はやめろとか言っといて、おっぱじめたら変態じみたことするクセになぁ〜? ……どーせこの写真でヌイてんだろ?」
こちらの悪趣味を詰り、責める、金色の目がじとりと睨みつけてくる。その潔癖な糾弾の奥、自分がいるのに、と言いたげな、ひどく小さな悋気の炎が燃えていた。
素直になればいいのにと思うが、存外に清らかで天邪鬼なパートナーには難しいだろう。消すと言った写真を残していた怒りとハメ撮りそのものへの羞恥。使用用途がほぼ一択のハメ撮り写真への嫉妬。
前者はともかく後者はきっと言いにくい。いやらしい行為を否定して拒否したのに、いやらしい目で見て欲しいなどと言ったら、俺を喜ばせてしまうのだから。
「当たり前だろ。こんなやらしい写真で抜かないなんて有り得るか?」
「本人目の前にしてよく言えたな!?」
「俺が俺好みに育てたかわいいかわいいパートナーのベストショットで抜いて何がおかしい」
「拙僧がいるだろ!」
しまった、という間の抜けた顔をしたパートナーが、顔色を青くしたり赤くしたり忙しい。期待どおりの反応を引き出せて、だらしなく緩みそうな顔に力を込める。残念ながらパートナーにはバレバレらしく、白旗の代わりにスマホを掲げて放られた。
まだまだこういう駆け引きはこちらに分があるようで安心した。よく回る頭と舌の子供はああ言えばこう言うが、俺との事――極めてプライベートでセンシティブな内容――となると普段のキレが数段落ちる。
ソファの端でピリピリとした空気を纏う姿は知らねばおっかないだろうが、キツく尖った目尻にほんのりと化粧ではない赤が乗っている。不機嫌そうに半身をそらすのも同じで、よく見れば所在なさげにもぞもぞとしているのだ。
「……自分がいるのにハメ撮り写真でシコシコすんな……と」
「うるせぇ、キモい、黙れ」
「でもなあ空却、良い子で寝てるお前を叩き起こしてセックスなんざしたくないんだよ」
こういう聞き分けの無い子供に似た仕草もずいぶんしなくなった。何年経っても、大人になっても、はじめて出会った日の苛烈で可憐な幼子のままだとつい思ってしまう。
ご機嫌取りにくしゃりと撫でた髪のやわらかさと、ちらりとのぞく耳の赤さは変わらない。手のひらに馴染む猫っ毛と高めの体温が、パートナーを何も知らない中学生と錯覚させる。
「……いつでも、どこでも、好きなときにちんぽくれるって言ったクセに」
ちんぽ
指の腹でやわな髪の感触を楽しみながら、懐かしさにひたるのん気さをひっぱたく単語が鼓膜を揺らした。
言った。確かに言ったが。それは最中の睦言で戯れで、決して実行に移されない言葉遊びだと思っていたのに。
少しだけ髪の色に近くなった穴だらけの耳の輪郭に動揺を鎮めながら、そっぽを向いたままの金色の様子を伺う。これが狙って放たれたカウンターならば、俺はパートナーを侮っていた。
さら、と流れる髪の隙間から覗く猫の子の目は、敏感にこちらの視線に気づいてツンとおすましをする。わかりやすく怒っていますよ、と示すポーズを取るまでの刹那、駆け引きの煽りではない嘘つきへの糾弾が見えた。
「じゃあこれからはムラムラしたらお前が寝てようが飯食ってようがお勤め中だろうがちんぽ突っ込んでいいのか? 本当に? ありがた〜い説法の最中に乗り込んで檀家さんの前でひん剥いて『ヤリたくなったらいつでもどこでもちんぽ突っ込む約束なんで』って生ハメ種付見せつけていいのか?」
すましたお目目をじぃ、と射抜いて、いよいよ髪の毛とおんなじ色になった耳の奥、ひどい意地悪を流し込む。そんなことする気もないが、される気だってないだろう。
至極おとなげないカウンターへのカウンター。さすがにどう返すかがわからない。今のパートナーはすねて臍を曲げてはいるが、決してセックスを誘うつもりはなかったはずだ。
「おら、ちゃんと答えな」
ふぅ、と小さな耳の穴に吐息を吹きかければ、びくん、と警戒を隠さぬ身体が跳ねた。意地になってか振り向きはしないが、身を捩って耐えているのがよくわかる。
パートナーはどうも俺を捕まえたことを見せびらかしたい、俺に執着されているところを見せびらかしたい、という思いがあるらしく、見られてしまう、見せつける、という文言に良からぬ反応をしてしまう。きっと今、とんでもなくいやらしい顔をしているはずだ。
「……して、ほしい……」
よほど『見せつける』のが魅力的だったのか、もはや不満を装うことすらせず、とろん、ととけた声でおねだりをされた。いつもなら『していい』という尊大さの香る物言いをするのだが、おずおずと恥じらいを滲ませての『してほしい』は普段との落差がたまらなくそそる。
「へぇ……じゃあ今、ヤリたいって言ったら?」
わずかに触れた髪からすらどきどきと脈打つのが伝わるのは、自分の心臓の鼓動だったのかもしれない。
答えは聞くまでもないのだけれど、そろそろ振り向いてほしいから黙っていよう。
2024/4/30
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