そりゃ、ちょっとないだろ
勘弁してくれ、なんでこんなとこまで来るんだよ。せっかく人気のない裏道を選んだってのに。
ともかく逃げよう。目が合ったら殺される。次はねぇぞ、なんておっかない顔で睨みつけられたのはついさっきだ。
運良く細い路地に逃げ込めた。ちょうどよくゴミが積んであるし、このままいなくなるまで息をひそめて……。
……待て。なんでこっちに来る。もしかしてバレたのか。嘘だろ! そんな感じじゃなかったのに。ああクソ……!
「ちょっと待てって……!」
「誰が待つか。大人しくしろ」
大型ゴミの影に隠れ、神様仏様と祈りながら聞き耳を立てる。アイツらから逃げようと裏道に入ったのに、なんでかアイツらまでここに来た。しかもギャーギャーと揉めながら。そのせいで細い裏道からさらに細い路地へと逃げたのに、まだアイツらがついてくる。
舌打ちをこらえて様子を伺うと喧嘩はまだ続いているらしい。どうやらリーダーのチビガキが何かをやらかしたようで弁護士の男がひどくイラついている。何があったか知らないがこんなところで揉めるな。
「ひと、ぁ……」
じたばたと暴れるのがおさまると同時に、意味深に声が途切れた。
あ、と思った時にはもう遅い。嫌な予感はことごとく当たる。
直後、小さく響き出したのはどう考えても濃厚なリップ音で、いよいよ勘弁してくれと泣きたくなった。
なんなんだよ、やっぱりアイツらデキてたんじゃねえか。なのにあんなキレやがって。しつこくぶちゅぶちゅしてるクセに、何がデキてねぇ! だ!
「ゃ、めろっ、て!」
ガタガタと積まれたゴミだのが揺れて危なっかしい。しかしようやく終わったか。他人のラブシーンも痴話喧嘩も見たくねえ。さっさといなくなってくれ。
「拙僧らは、そういうんじゃねぇだろっ!」
は?
五分近くぶちゅぶちゅべちゃべちゃしておいて? 二人してデキてないとキレておいて?
そりゃ、ちょっと――
あまりの驚きに声が出ていたらしい。
気づけば路地に散らばるゴミに埋もれて空を見上げていた。
2024/5/19
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