他の者もおります故、お気をつけ下さい

 小さな頃から知っている住職の一粒種は悩みの種でもあり、今日もばたばたと元気よく帰宅を告げた。
 最近組んだというラップバトルのチームメンバーは住職の知人と、その知人の知人だ。意外に上手くやっているらしく、昔は兄弟弟子として巻き込まれた諸々に彼らが付き合わされている姿を見かける。
 今日もチームメンバーの一人、特徴的な髪型の年嵩の男を連れていた。大きなコンビニの袋を持って、お邪魔します、と礼儀正しく会釈をする姿は保護者然としていた。
 もう一人のチームメンバーは坊より一つ下だというから、恐らく本当に保護者のような気持ちなのだろう。ちらっと見えたコンビニ袋の中身は坊の好きなものしか入っていなかった。
 来客へのもてなしを用意してたまり場と化した客間へ向かう。廊下まで聞こえる会話は坊を叱り宥めるのがわかって申し訳なさが募る。坊は才と若さ故、自由気ままなのだ。
 失礼します、と襖を開く。少しだけ小さくなる声に成長を感じながら長机に茶と茶請けを置くと、それぞれに礼の言葉をかけられた。
 すでに菓子が広げられていたが手をつけているのは坊だけで、弁護士先生だという――坊の弁護もした――男はそれを眺めて目を細めるにとどまっている。散らかすのを叱る表情に反して、それはひどく優しい。

「獄も食えよ」
「奢りって言ったろ、いらん」
「ホントに全部食うからな」
「食え食え」

 促されるまま揚げ芋菓子をたいらげた坊を見つめる眼差しはまるで給餌をする親鳥だ。坊に庇護欲をそそられるとは珍しい――そう、思った矢先。
 坊が菓子のかすのついた指を舐めとったのを見咎めて、やわらかくあたたかだった瞳が剣呑な光を帯びる。
 そのあまりの鋭さに謝罪と礼を兼ねた挨拶をするつもりだった口から出たのは、牽制するような言葉だった。

「わかってるよ、騒がねぇって」

 あの目に気づいているのかいないのか。
 どちらであれ、坊の声が遥か彼方まで響くよう願ったのは初めてだった。

2024/5/23


BACK
作文TOP/総合TOP