皐月洗濯問答
通り雨でずぶ濡れになり、慌てて雨宿りしたのがコインランドリーというのは運が良いのか悪いのか。
「獄も使う……わけねーか」
「俺の服は繊細なんだよ。それより空却……」
「あんだよ」
「人がいないからって脱ぐんじゃない!」
さすがに下は脱いでいないが上半身は裸で、簡易の流しで濡れた服を絞っている。着倒した作務衣は容赦なく、スカジャンは多少丁寧に扱っているようだ。
青白い電灯の下、濡れた肢体がことさら白く浮かび上がる。冷えて体温を奪われたからか、血の気の引いた肌がひどくなまめかしい。
「んだよ、すぐ着るって」
「当たり前だ、子供じゃあるまいし」
「……ガキって言うクセに」
「あ?」
不満げな呟きをしっかり聞かせ、素知らぬふりで作務衣を着直してスカジャンを肩にかける。袖は通したくないのだろう。少しだけ熱を取り戻したのか、肌に赤みが戻っている。
「実際ガキだろ」
「子供じゃねぇのに?」
「子供とガキは違うだろ」
「違いがわかんねぇよ」
そうして眉間にシワを寄せたまま、スカジャンのポケットからしんなりとしたガムを取り出して放り込んだ。音を立てて噛み出したのは会話を拒絶する意思表示だろう。そういうところがガキなんだ。
通り雨はまだ止まず、雨足も音もすさまじい。雷すら鳴り始め、外は人っ子一人見当たらない。当分、二人きりだろう。
「空却」
呼びかけると一応視線をよこすがガムは噛んだまま。目だけで問いかけてくるから、目だけで応じてやった。
十分も噛めば味のなくなるガムの残り香を舌で転がしていると、急に呼びつけられた。
一体なんだと軽く睨めば、いやに真剣な目が近くなる。それにしたって近すぎる、と思った時には遅く、くちびるを塞がれていた。
「子供にはこんなこと出来ねえなあ」
奪ったガムを舌先でなぶりながら、わかったか? と笑う。こちらが耳まで赤いのなんて見えているだろうに。
大人げない――という文句を飲み込んで、ガムを取り戻しにかかった。
2024/5/28
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