皐月甘味逢引
クレープの割引券を貰ったから格安で奢らせてやる、と言われて自然と財布を開いた自分に少しだけ嫌気が差した。
「辛気臭ぇ顔で食うなよ」
「誰のせいだと思ってんだ」
「獄自身のせいだろ」
「俺を人間扱いしないお前のせいだよ」
可愛らしい店のロゴが印刷された包み紙を持ったまま、心外そうに首を傾げられても俺が困る。知ってるんだぞ、俺と出掛ける時に財布を持ってないの。
「なんか誤解があんな?」
「全ッ然誤解じゃないだろ」
俺はお前の財布じゃない! と叫び出したいのを抑えたのは、家族連れ、仲良しグループ、カップル等々でごった返していたからだ。二人きりなら我慢ならなかった。
「ほれ、チョコバナナ」
「味に不満はねえよ!」
差し出されたのはメニューで一番人気と書かれていたトッピングで、次点のイチゴホイップと一つずつ注文したものだ。甘酸っぱいイチゴとふわふわのホイップ、少しだけ混ざるカスタードが美味い――そうじゃない。
「食わねぇの?」
「いらん」
「拙僧と間接キスだぜ?」
確かに、高圧的に向けられた箇所は齧られた跡がある。ひと雫、八重歯で切れたバナナの断面にチョコソースがつたい落ちた。
「……いらん」
「あっそ」
あっさり引いたと思った矢先。一口二口しか食べていないイチゴホイップを大きく開いた口にかぶりつかれた。
「何すんだ空却!」
「ひとやがしねーから、してやったんだろ」
悪びれず、むしゃむしゃと咀嚼、嚥下する。キスというには凶暴な仕草と物言いのまま、再びチョコバナナを差し出された。
「これって、デートじゃねぇの?」
再度、傾げられた首は心底から不思議そうに傾いている。そういえば割引券にはカップル――ほぼペア――割と書いてあった。
「あのなあ……」
「前のデート、拙僧が財布出そうとしたらキレたクセに」
わかりにくい色気を出して臍を曲げる恋人がクレープよりも甘酸っぱい。出来る事もやるべき事も一つしかない。
俺は目を瞑り、歯型のついたチョコバナナに噛みついた。
2024/5/29
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