皐月清掃痴話

 丸い円盤が床を滑るのを楽しそうに眺めていると、はぁ、と憂鬱そうなため息が降ってきた。

「なんだよ獄」
「やっぱり我慢ならないと思ってるだけだ」
「なら拙僧にくれよ」
「俺が灼空さんに怒られるからダメだ」

 父親に甘やかさないでくれと言われている恋人は、頼んでいないのに貢ぎがちなところがある。それを危惧してだろう。
 さして汚れてもいないフローリングを懸命に清掃するロボット掃除機は、無機物といえども自分のテリトリーを徘徊されるのを嫌がる家主から解放されない。

「ウチに来たら毎日腹一杯になるのになァ」
「コレはゴミを燃料に動いてるわけじゃないからな」
「んなこと知ってるっつの。なんか、そういう生き物っぽいだろ」
「……余計に腹立つな」
「家に反して心が狭ぇ」

 おおよしよし、主に恵まれねぇなぁと一仕事終えた円盤を持ち上げる。新品さながらのボディをさすり、ちゅ、とくちづけたのは、家に来る猫に似ていたからだ。
 やわらかくもなければ獣のにおいもしない円盤は、固くて機械っぽいにおいがしたけれど、手のひらにかかる重みが放り出せないと思わせるのは同じだった。むしろ手を離したらこの円盤はひとたまりもない。

「お前、なぁ……」
「なんだよ」

 不機嫌そうな恋人に円盤を奪い取られたと思ったら、そのまま電源を切られてしまわれてしまった。
 もしかしなくともこれはあれだ。

「ロボット掃除機に妬くの、恥ずかしくねぇ?」
「俺が嫌だって言ってる存在をわざわざ抱きしめてキスするのは妬いてくれってことじゃないのか?」
「こんな面倒くせぇ絡まれ方するってわかってたらしてねぇよ」

 『自分のモノ』への愛情――執着――が強い人間なのを、ついぞ忘れてはこういうことになる。
 くちびるくらいなんだと言うのか。こちらの心を、魂を手中におさめておいて。
 ご機嫌とりにくちづけてやれば、むつかしい顔のまま、けれどもわかりやすく眉間がゆるんだ。
 馬鹿な男だ。
 お前より愛おしいものなんてどこにもいないのに。

2024/5/30


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