皐月口吸中毒
口寂しいのは赤子が乳を求めるのと同じ――という暴論に異議を申し立てる。なぜならそれを言った人間も同じようなものだからだ。
「自分も四六時中ガムを噛んでるだろうが!」
「ガムに中毒性はねーよ!」
普段、獄の人生だから好きにしろと言う子供が珍しく禁煙を主張する。休肝日のごとくたまには煙草を吸うなということらしい。
「何が乳離れが出来てないだ! 乳臭いガキのクセして!」
「はぁ!? そっちこそやべー葉っぱのおしゃぶりやめらんねークセに!」
確かに煙草には麻薬以上の依存性があるとも言われているが、もっと言い方があるだろう。ここが自宅でなければ通報待ったなしだ。
「俺は煙草を吸うデメリットを把握してる」
「そもそも良いとこなんざねぇだろ」
じとりと鋭い金色は清廉な輝きをたたえてまぶしい。
どれだけ喫煙者なりの利点を並べてもやめた方が良いのは事実で、副流煙を煙たがる子供には絶対に理解はしてもらえない。
「……じゃあ禁煙するメリットをくれよ。それが喫煙するより魅力的ならやめてやる」
喫煙者は禁煙の結果得られる利点を放棄している。ならば過程で価値を証明するしかない。
さぞ困るだろうと子供を見ると、想定内と言いたげな笑みを浮かべている。
そうしてにんまりとしたまま飛びかかられ、ちゅ、と、かわいらしい音とやわらかいものがくちびるをかすめた。
「な、に……!?」
「ヒトヤクンへのご褒美」
曰く、口寂しくて煙草を吸うなら他のもので口を塞いでしまえばいい――禁煙でよくある手段ではある、が。
「お前のキスが俺へのメリットになるって?」
「なるだろ? 獄、拙僧のこと、好きなんだから」
当然のように告げられた言葉への返事に窮するのは、それが真実だと肯定するのと同じだ。
取り繕った表情でどうにか放ったカウンターは弱々しい。
「……お前のメリットは?」
「大事な家族で、好きな男が、長生きする」
うぃんうぃんってヤツ、と破顔されて、どう断ればいいだろう。
なお、一日中キスを強請りすぎて禁煙は頓挫した。
2024/5/31
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