お父さんみたいにパイにして

 家が寝るためだけの場所と化して一週間。
 山場を越え、日付が変わる間際に帰宅し、ああようやく明日から平常通りになれるとひとまずベッドに飛び込もうとしたその時だ。
 ベッドの上、何かがブランケットにくるまって丸くなっていた。

 考えるまでもなく合鍵を渡している恋人以外に有り得ないのだが、疲労困憊した頭では過ごしやすい温度に調整されたエアコンにも、ダイニングに置かれたメモにも気づいていなかった。
 だから恐る恐るブランケットをめくって、人間が転がり出てきた時、馬鹿みたいに驚いてしまったのだ。

「うわっ!」

 ころん、とベッドの上で丸くなった人間は、兎の耳のついたパーカーを着ていた。深い紫色のそれはチームカラーにも似ていて、ところどころ稲妻マークもプリントされている。
 オーバーサイズのパーカー以外は何も着ていないのか、放り出された太ももがひどくまぶしい。待ちくたびれたのだろう、常より幼い横顔が規則正しい寝息を立てていた。
 以前にもこんなことがあった、けれども混乱してすぐに繋がらない。どうしたものかと悩むうち、むずがるように鼻が鳴らされた。

「ん、ぅ……ひぉゃ……?」

 あくびまじりで回らぬ舌に名前を呼ばれる。
 もぞもぞと身を起こし、ぽんやりとした恋人はおとなしく幼い仕草でこちらを見上げた。
 へたりと垂れたパーカーの耳も相まって、検のない顔は無防備でただただ綺麗に整っている。その花も恥じらうかんばせは、寝ぼけた表情や仕草のいとけなさとあまりにもアンバランスで、変な息の飲み方をしてしまう。

「おかぇり……」

 朝の早い修行僧が骨のない生き物のようにくにゃりとしながらも、懸命に出迎えようとするのがいたいけでたまらない。
 ブランケットを巻き込んで丸まる恋人はベッドをすっかり居心地のいい巣穴に変え、一緒に寝ようと誘う。
 そんなことをしたら俺はお前を頭から食べてしまうのに。
 思っても言わないまま、まだゆめうつつの曖昧な恋人のくちびるに自分のものを重ねた。
 びく、と目の前の身体が跳ねたが無視をして押し倒す。
 いまさら暴れてももう遅い。
 お前は狼の口の中に巣を作ってしまったのだ。

2024/8/16


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