美貌礼賛
DRB絡みの撮影にも慣れて、今まで以上にたいがいな要求をされるようになった。
断固として髪だけは崩したくないと主張したものの、これまでにないスタイルにしたいと異議を唱えられる。用意周到にこれが他のチームです、なんて撮影済みの写真を並べて見せられても抵抗した。
不毛な根比べを終わらせたのは飽きた、腹が減った、とむずがる空却で、いい大人が睨めっこしているのに割って入ったと思ったら、問答無用で頭をぐしゃりと握られた。
「これでいーだろ。あとで直させてもらいな」
拙僧は待つのが嫌いだ、とあくびをしながら去っていく背に、無駄だとわかりながら文句をつけた。
正面から強風で煽られる――一貫したテーマでの写真は、先んじて撮影されたものを見ても悪くはない。
風の調整だのなんだのずいぶん時間がかかったが、見せてもらった採用予定の写真も同様だ。
ってことはイイってことだろ、とガムをふくらませる空却が茶々を入れたが、撮影中はご遠慮を、と言われていた反動だろう。いつもより盛大にふくれたガムは、ぱん、と割れた。
「髪の毛、もぉ直しちまったんだ」
「当たり前だろ。我慢ならねえが仕事だ」
「……拙僧が崩すまで駄々こねたクセに」
「お前が余計なことしなきゃ崩さなくてすんだんだよ!」
この場にいない十四はあるていど毛束をまとめたい、と長い髪全体に塗られたワックスを落とすのに俺以上に時間がかかっている。待つのが嫌いなわりにガムだけでずいぶん良い子に待っているものだ。
「しかし獄、すっげぇやらしぃ顔してたなぁ?」
ネクタイまでほどいてよぉ、とニヤニヤする空却が悪童の尻尾を覗かせた。割れたガムの後始末をして、新しいガムを口に含む仕草がひどくゆっくりとしている。
思わせぶりに長く尖った舌で弄び、絡めとるようにして口の中に吸い込まれたガムをくちゃくちゃと噛みはじめた空却――恋人の言いたいことはだいたいわかっている。
「拙僧とシてる時みてぇなやぁらしぃツラ、見せびらかせるのたまんねぇ」
恋人のギリギリの発言はしかし、露出癖とは違う。
曰く、三千世界で一番イイ男は自分のモノだと有象無象に見せつけるのがイイ。
確かに、交際は宣言しているが――
「……毎度ながらまるで理解が出来ん」
「ヒトヤクンは、拙僧のことだぁれにも見せたくねぇもんなぁ」
つまらなそうにガムをふくらませてはしぼませ、またふくらませしぼませ。くり返しながら不満気にする恋人と自分は真逆だ。自分しか知らない姿なんて、どうしたって絶対他人に見せたくない。
今回の写真だって本当は嫌で嫌でしょうがない。首から鎖骨、胸元に二の腕、このあたりはもう諦めた。暴れん坊主の恋人は、止めたって聞きやしないでスカジャンを脱ぎ捨てる。
問題は顔だ。いつもなら挑発的で悪辣とも言える表情をして睨めつけるような写真ばかりの恋人が、借りてきた猫――もとい仏像のごとき佇まいで写っている。表情のせいでおっかないチンピラ面とも言われるが、その実、顔立ちそのものは整いすぎるほどに整っているのだ。
たまに大人しめに振る舞っている時だとわかりやすいが、そんな機会はほとんどない。喜怒哀楽も意思表示もはっきりした恋人が静かに黙るなど、もしもあったら天変地異の前ぶれと言える。もちろん、俺はよく遭遇するが。
その限られた人間しか知らない表情を、恋人が写真に撮らせてしまった。
撮影スタッフに促されるまま、視線だけで語りかけ、くちびるで黙す。感情を見せず読ませないのに金色の眼差しは雄弁で、恋人の素の美しさを知らしめる一枚を握りつぶせたならどれだけ良かったか。
「俺はずいぶん寛容だと思うが?」
「とっくにぜぇんぶお前のモンだって言ってんのになぁ」
十四はどう思う、戻るなり横暴な師匠にふっかけられた哀れな弟子は、慌てふためきながらもどこか冷静に見事な大岡裁きをしてみせる。
「へ!? え!? どっちもどっちっすよ!?」
「だってよ」
「今はそういうことにしてやる」
だから、またいつもの痴話喧嘩っすか? という少しばかりからかいを孕んだ言葉を否定しないでおいた。
なにせ俺は、寛容な大人の恋人なので。
2024/10/4
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