追放愚息の僧殺し
気温が下がると布団が恋しくなるのは世の常、人の常である。
肌触りのいいブランケットを裸の足で撫でたときの心地良さ、全身を包む厚い上掛けの重み、自分の体温で――今日は恋人の余韻でなおいっそう――あたたまった布団は楽園への片道切符だ。
戻れない。戻りたくない。だってここは気持ち良すぎる。
「オラッ! いつまでそうしてんだ銭ゲバ! 早起きは三文の徳っつぅだろうが!」
「……三文ぽっちの徳、布団の中でだって稼げる」
「カワイイ恋人の呼びかけを無碍にしてる時点で地獄行きだわ」
ぐずるな起きろ、と冷たく切り捨てる恋人は普段は寺で規則正しい生活をしている。ベッドのわきに立ち、こちらの耳元に向かって容赦のない音量でがなるのは、自身がそうされているからなのか。
ともあれ朝も夜も早い――早寝早起きの権化たる修行僧は、日付が変わる直前、むずがって寝落ちするまでかわいがったのだが、つやつやと元気いっぱいに手厳しいモーニングコールをしてくれている。
「もっとかわいく出来ねぇか……?」
「拙僧がこれ以上カワイクなったら獄が昇天しちまうだろ」
「……いいな昇天」
「なぁに言ってんだバァカ、とっとと起き――」
「昨日……今日になる直前……、やだ、はなせ、いく、ってなきながら『昇天』してたの、かわいかったからなぁ……」
俺も『昇天』させてくれるんだろう?
そう言いながら恋人を見上げれば、恥じらうでもなく嫌そうに顔をしかめて睨まれた。
「オッサンくさ……」
「そのオッサンに気持ち良くしてもらったガキが……」
「……一発だけ。お望みどおり一発だけ『昇天』させてやる」
かわりに逝ったら即起きろ、とブランケットをひん剥かれる。
わざと乱暴にまくられたから風が起きて薄寒い。
生理現象と願望とでふくれ上がった股間が縮むかと思ったが、恋人の目が驚いたように見開かれたのが見えて、ぐぐ、と力を取り戻す。
男に二言はないだろう? などと煽ってやろうとした矢先、見慣れたサルエルパンツが床に落ちた。下着も脱ぎ捨てたらしく、昨晩かわいがった端正な色形の逸物がゆるゆると勃ち上がっている。
「絶対、何があっても『一発』だからな」
そう強く念押ししてきた恋人は、結局俺の『一発』までに景気良く何発も『昇天』したのだが、きもちいい、すき、と言っていたから大丈夫だろう。もちろん約束どおり即起きて、ベッドの後始末と恋人のケアをした。
意識を取り戻した恋人になぜかこっぴどく叱られたのだが、気づけば昼になっていたからそのせいかもしれない。
2024/10/26
BACK
作文TOP/総合TOP