首輪越しでは噛み辛い
目尻から伸びたまつ毛が際立たせるツリ目と、しなやかな身のこなし。何よりも自由気ままな性格はどこからどう見ても猫でしかない。
かわいがってもツレない態度で、気まぐれに甘える姿は稀少性が高く、どうにか写真や動画におさめられないかと思案している。
だからマイペースで縛られることを嫌う恋人から犬はほど遠いイメージだった。
最初のライブの時だったか、すんなりと伸びた首を飾るチョーカーはまるで首輪のようだった。
ぴったりと嵌められた黒いそれは、普段つけている大ぶりのチェーンの緩さとの落差で、いっそうのこと拘束具のように見えてしまう。
鎖も南京錠も『家族』である自分達の絆への祈りが込められたモチーフなのに、不埒な下心があるせいかどうにもソワソワとして落ち着かない。
首輪をつけた猫もいるが、首輪といえばやはり犬だ。
人に寄り添い、忠実で従順。恋人とは結びつかない、否、寄り添ってはくれるが、自らの魂に忠実であっても諾々と従うことはない。ましては他者になど言うまでもなく。
そんな恋人が、あのライブと同じような首輪をつけて、あまつさえ仰向けに――腹を見せて――リビングで寝転がっている。
「おい空却」
「んぁ……? あぁ、おはよ……」
「まだ夜中だ」
「んな時間に帰りたぁ……おつかれさん」
声をかければすぐに目を覚ました。
寝ぼけたまま語られる話によると、東都での『もでる』の手伝い以降、ナゴヤに戻ってからも横だの縦だのの繋がりで依頼が来るらしい。
そこにモヤ、としたのは一旦置いておくとして、ともかく今日は日が暮れるまで撮影があった。そして帰ろうとしたらチョーカーが取れなくなったのだと言う。
「南京錠が飾りじゃねぇんだと……ンで、ちょっと見てくれが違ぇのがもう二つ三つあって、ちゃぁんと組み合わせて管理してたはずが鍵が違ったっつーオチ」
なんでも世界に数個しかない特注品だから鍵の開閉での傷みすら恐れ、撮影や展示以外ではほぼ留めないで保管しているそうだ。
だもんで無理矢理に壊せない、鍵は東都にあるから今から取りに行っても間に合わない、明日絶対に外すから、と平身低頭で謝罪されたらしい。
一生外れないわけでもあるまいし、と明日の昼頃に再度会う約束をして別れたものの、どことなく息苦しくて落ち着かず、獄ンちに来た、と目をこする恋人は、心なし小さく見える。
首輪を嵌められてもステージで暴れる恋人からはこんな頼りなさを感じなかったのに。自由を奪われ、腹を晒し、くったりとした姿は、ひどく後ろ暗い従属を強いているような錯覚をしてしまう。
猫に首輪をつけて犬になるなどあり得ない。そもそも従順な猫もいれば人を寄せつけぬ犬もいる。
そう、わかっていても、常ならぬ恋人がたまらなくそそるのだ。
「本当に呼吸がし辛いってことはないのか?」
「それはねぇ。気の持ちようってヤツだな」
「じゃあキスは出来るな?」
出来る、の後に続くはずの言葉を、半開きのくちびるを塞いで封じ込めれば、ぱちくりと瞬いた目はやがて静かに閉じられた。
2024/11/1
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