おわりのみちづれ

「明日にでも帰れるってよ」
 日頃から規則正しい健康な生活をなさっているんでしょう、普通よりも回復が早いです。さすがお坊さんですね、だってよ。
 取る物も取り敢えず向かった分、休み休みの帰り道。小一時間もしない内にスマホを揺らした病院からの連絡に、お坊さんだからじゃなくてバケモンだからだ、と悪態をつく顔は、すっかりいつもの調子を取り戻している。
 ほんの少し前まで近寄り難い重苦しさを纏い、むつかしそうに眉を顰めて掃除をしていたのに。
「じゃあ明日はお迎えに行かなきゃっすね!」
「当面は経過観察だのがあるらしいがなぁ……」
「自分、付き添いするっす!」
「ンなもん、必要なら拙僧がする」
 もしも拙僧が駄目な時があったら頼む、と、十四の胸を小突くまっさらな拳は心なしいつもより力強く、優しい。
 指輪も、ピアスも、首飾りも。全てのアクセサリーを外した空却を飾るのは、灼空さんの身につけているものと同じ袈裟しかない。
 いずれ、いつか、本当にこの姿が当たり前になる日が来るのだろう。
 鮮やかな髪も剃り落とし、金の瞳だけを残して。
「明日は車出してやるよ」
「仕事はいいのかよ」
「所長はいつも家族の一大事には休めって言ってますよねって締め出し食らってんだよ」
「てめぇの事務所なのにザマァねぇな」
「全くだ」
 ケタケタと愉快そうする表情も、声も、見慣れたものだ。黒い法衣の隙間から覗く、真っ白い喉の奥をくつくつと鳴らし、笑いを腹へとおさめていくのも。
「ありがとな」
 そうしたあと、なんの衒いもなく礼を言われるのも。
「お前が立派な僧侶になったら、袈裟買ってやるよ」
「は!? 急になんだよ……」
「餞だ」
「はなむけぇ? 拙僧がこれからどっか行くとしたら、獄と十四も一緒だろうが!」
「え? どこか行くんすか!? 自分、安心したらちょっとお腹すいたっす……」
「お、じゃあ飯行くか!」
 獄も行くだろ、と当然のように名前を呼ばれ、手を引かれる。
 あっさりと却下された贈答品は、入った飯屋でロボット掃除機のが有難ぇ、と、さらにけちょんけちょんに言われた。

2024/11/15


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