プレゼントは(約)二ヶ月後

 お前がもっと子供だったなら、と呻き声と共に吐き出した男は自分よりも十六年上で、その年月分どうでもいいことに囚われてがんじがらめになっている。

「お前がもっと子供だったなら、初めてあったときのまんま……中坊のまんまなら……」
「なに恐ろしいこと言ってんだ。それじゃ拙僧がバケモンになんだろ」

 誕生日パーティの会場から護送した主賓は、贈り物が多すぎて身動きが取れなくなっていた。いくらか酒を召してもいたようで、危なっかしい足取りにお守りを名乗り出たのだが――。
 帰宅するなりもう少し呑む、と本日の主役がグラスを傾けた。先よりも座った目つきに嫌な予感がしていると、案の定、杯は重々しく、けれども着実にすいすいと重ねられていく。
 深酒をするとだいたいは機嫌良くなって、普段なら言わないことをぺらぺらと喋る。ちょっとかわいいと思う瞬間すらあるのとは反対なのが今日だ。
 ひどく落ち込んで、普段なら絶対に言わないことをぽろぽろとこぼす。憂いを帯びた表情は頼りなくすらあって、なんとなく酔っ払いと捨て置けない。
 そうしてやれやれと面倒を見てやっている最中に成長を疎まれた。

「……お前が、もっとガキなら、俺は、諦められたのに……」

 腸を絞り出すようにして喉奥から這い出した声はどろどろとした情念の結晶で、痛みと苦み、辛さと苦しさに満ち満ちた懊悩を剥ぎ取った奥底に、どうしようもなくやわらかい核がある。好きだとか、愛してるとか、そういうものが。
 まだ酒を酌み交わすことの出来ない子供には、とっとと言えばいいのに、としか思えないそれは、定期的に呑んだくれる大人には秘めなくてはならない言葉なのだろう。
 どうでもいいし、馬鹿馬鹿しい。だってそんなの、出会ったばかりの頃から好きだったと暴露としているのとおんなじだ。
 今日でまた一つ高く広くなった見えない壁を酒に溺れて嘆く大人に、聞こえているかもわからないまま慰めの言葉をかけ続ける。どうせこんな醜態を晒しているのだって覚えちゃいない。でなきゃとっくにどうにかなっている。

「もうちょっとしたら拙僧が追いついてやるから」

 そうしたら一緒に、酒でもなんでも呑んでやる――
 大きな子供のすっかりセットの崩れた髪を撫でながら、あやすように囁いた告白だって、きっと届いていやしない。
 今よりずっと暑くなった頃、本当に欲しいものを贈ってやろう。
 それまで目移りなぞしないよう、閉じたまぶたにくちづけた。

2024/6/30


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