天上の甘き糧
年々酷くなる暑さ――読んで字の如くの酷暑を前に涼を求めた者同士が出会うなんて、運命でも偶然でもない。
「お前、お勤めはどうした」
「あ? 今まさにしてんだろ」
「俺にはぐーたらしながらコーラフロートを啜ってるようにしか見えんが……」
馴染みの喫茶店のドアを押そうとした瞬間、後ろから名前を呼ばれた。
振り返ると、顔も腕も見えている肌を全部真っ赤にした子供が立っていた。
呆然とするこちらを尻目に、当然のように一緒に店に入り、当然のように向かいの席に着き、当然のように注文をした。
俺は一言もそれらを良しとはしていないのだが、ともかくそうなった。
「なぁに言ってんだ! こんな冷えきった店ン中で氷がゴロゴロ入ってアイスまで乗ったモン飲んでんだぞ? 八寒地獄で修行してんのと同じだろ」
「なるほど、じゃあその修行の場を提供してる俺には何かいい事があるんだろうな」
「拙僧の修行に協力するなんて銭ゲバにしちゃあいい心がけだからな。今日一日分くらいの徳積んだぞ」
「今日と言わず常日頃、お前みたいな不良坊主に手を貸してんだぞ、一生分くらいなんとかしろ」
「ンなの拙僧が決めることじゃねーんだよ。毎日コツコツ善行を積みやがれ」
数分もない会話の内によくもまあここまで無茶苦茶を言えたものだといっそ感動する。
アイスコーヒーを啜りながら睨めつけるこちらの視線を無視してコーラフロートに舌鼓を打つ子供は、何を思ったのか急にすくったアイスをこちらに突きつけてきた。
細長いグラスを探索するためのキリンのようなスプーンのさきっぽに、ぽてりと淡く黄色がかった塊が乗っている。
「拙僧じゃあ徳はやれねぇけど、ご褒美くれぇはやれるからよ」
きゃらきゃらと笑いながら口を開けと促す仕草は、雛鳥に餌付けをする親鳥を彷彿とさせるばかりで色気も素っ気もない。
これが俺へのご褒美になると思っているのか、と腹のうちでひとりごち、今にもしたたり落ちそうなスプーンへと顔を寄せた。
くちびるに当たる冷たい金属の感触のあと、じゅ、と溶けたバニラアイスが舌に触れて広がる。
こっくりと甘い、店主手製のアイスは香りも深く、わずかにかかっていたコーラの炭酸がはじけた。
「うめぇだろ」
「あまい」
「それがいいんだろ」
得意気に胸を張り、コーラを一口、続けてアイスを。
そうして躊躇いなく差し込まれたスプーンに落ち着かない。
とっくに小さなくちびるのやわらかさも、その奥の熱さも知っているのに。
一生分のご褒美ならくれるのか?
問うのはもう少しだけ涼しくなってから、たとえば今晩にでも。
2024/8/11
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