天上目線で愛してあげる

 先に惚れたのは空却で、押され絆され折れたのが獄だった。なんでまあ、空却の方がベタ惚れで、獄は余裕があるものだと思われがちなのだが。

「んなこと全然ねえんだわ。マジめんどくせえの。檀家さんどころか檀家さんの孫とかにまで嫉妬するんだぜ。どうすんだよ生後ウンヶ月の赤ん坊なんて。拙僧が歳が離れてりゃなんでもいいと思ってんのか?」
「空却さん、獄さんがしんぢゃうからほどほどに……」

 でも生後〜ヶ月の赤ちゃんに嫉妬するのはさすがにどうかと思うっす……と小さく添えられて、純粋に自分を慕う眼差しにほんの少しかげりを感じて獄はへこんだ。

 ギリギリとはいえまだ十代の若者は、時間も可能性も無限だと思っている。そんなことない、と言ってもまだ自分が無敵だと思っている。だからのんきに寺の縁側でダベりながらいもけんぴだのを食っていられる。
 残念ながら獄はもう三十半ばで、自分の全てが有限で無敵ではなく、それでも無敗を保つために寸暇を惜しんで走り回って、さりとてそんなところをおくびにも出さないでいなければならないと知っている。
 空却の思いに応えたのは、獄という超優良高物件の売りポイントを一切合切興味無いと断言して『天国獄』という人間がほしいと言われたからだ。
 正直に言えば社会的なメリットは互いにほぼない。むしろ双方の年齢や立場から好奇の目で見られかねない。ただもうそういうことを考えてパートナーを選ぶのも、選ばれるのにも嫌気がさしていた。
 ネット広告で見る漫画みたいな話だ。ただの自分を愛してくれる人がいいなんて。都合がよくて、先も見えない、落ち着かない、リスクとデメリットが大きそうな、そんな『恋』なんて。
 でもそんなものを選んでしまった。真っ直ぐに自分を好きだと言う目に負けて。

「俺はもう、空却しかいねえんだよ」

 真実そうだ。弁護士として培ったスキルもノウハウもコネも全て駆使して、公明正大に堂々と誰にも文句を言わせないように空却と付き合う状況を整えた。
 露骨に変態扱いされたこともあったが、自分でもそう思う。街ですれ違った地元の中学の制服の子供を見て、あんな子供とほとんど同じ年齢だぞ?と自問自答して冷汗がブワッと溢れたことがあった。
 子供の告白を真に受けて、それでももうあとにはひけなかった。

「獄さん、すごいこと言いますね……」

 顔を真っ赤に染めた十四がそう言って、ごくり、と息をのんだ。
 あれが恋だの愛だの好いた惚れただけの綺麗な言葉ではないと気づいていないからだ。
 そして本来ならそんな顔をしていてもいいはずの『恋人』は、わかっているから至って冷静にそりゃそうだろ、なんて言いながら耳をほじっている。きたねえ。

「でもな獄、たとえもし、万が一、絶対ありえないが、獄が拙僧以外を選びたくなったら、言えよ」

 え、とこれまた十四が誰よりも早く反応する。今度は顔が真っ青だ。
 これくらい、素直でわかりやすかったらよかったのに。空却の顔はまるで普通のまま、今度は鼻をほじっている。だからきたねえ。

「拙僧は、最後の最期に獄がかえってくれば、それでいい」

 ふぅ、と鼻クソを庭に吹き飛ばし、なんでもないふうにとんでもないことを言ってきた。
 寛容にも穏当にもとれる裏にひそむ、怖いほどの愛。
 獄の弱さもズルさもわかっていて、掌の上に乗せている。

「お前しかいないって言ってるだろ」
「どうだか。アマグニセンセはモテっからなあ」

 十四はなにがなんだかという様子でいもけんぴをくわえて呻いている。そうだろうな。巻き込んですまん。
 こんなおっかない痴話喧嘩、二度とすまい。

2021/02/10


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