カレピいびり

 この前なんだが、とローテーブルに頬杖をつきながら、スマホをいじりつつ、空却が話しかけてきた。
 恋人の自宅で我が家のごとくくつろぐ姿にも慣れきって、こちらも見もしないであんだよと返事をする。

「いやな、この前でっかい葬儀したときの精進落としが中華だったんだが、酢豚があってな」
「嫌な予感がする」
「さすがアマグニセンセ。まあ聞けよ。なんと!たまたま同席したお姉様方が全員酢豚には絶対パイナップル派だったんだわ」
「なんっつうおそろしい話すんだこのたわけ!」

 思わず本を読む手を止め、向かい側にいる空却を見ると、心の底から面白そうに破顔していた。なんでこんないい性格したクソガキと付き合ってんだ俺は。

「拙僧はどっちでもいいんだが、まあお姉様方の熱意がすんごくてなあ。空却くんはあり?なし?どっちでもいい?じゃあありってことね!って……いやあ、すごかったわ……」
「そのおぞましい話はまだ続くのか?」
「ご期待にお応えしてまだ続くが?」

 誰も期待していないしなんならずうっと苦虫を噛み殺し続けて口から溢れさせた顔をしているのだが。
 恋人が苦しむ顔をヒャハハハなんてバカ笑いしながら見るのはどうなんだ。
 あとずっとスマホをいじってるのが嫌だ。

「そのあと普通に飯食って、雑談タイムがはじまって、んでまた酢豚にパイナップルの話になったんだわ。なんでもみんな酢豚のパイナップルは嫌!って言われてきたらしくてな、空却くんもあり派だなんてこんな嬉しいことはないって泣いてたぜ。拙僧もしょっちゅう酢豚のパイナップルdisるやつが身近にいるからなんとなく感じ入っちまった」
「俺をdisるな」
「そしたら一人のお姉様が空却くんがあり派でよかったわ。もし違ったら数多のなし派を血祭りに上げてきた酢豚inパイナップルプレゼンをはじめるところだった……って言ってきたんだよ。涙ながらに」
「涙ながらに言うこととしては物騒だな?!」
「拙僧、それを聞いて閃いたんだが」
「いい加減無視すんな!あとこの流れ、どう考えても最悪だろ!」

 すると目の前の悪僧が、それはもうひどく悪い顔をして愉しそうにニンマリと笑った。
 話しながらいじっていたスマホをつい、とこちらに向けると、そこには『第一回酢豚にパイナップルはありかなしか対決in空厳寺』の文字が映っていた。

「おっまえ、なんつうことを……!」
「無敗の弁護士先生サマvs空厳寺檀家のお姉様方のドリームマッチ♡燃えるだろ」
「灼空さんは許可してんのか?!」
「こちらの檀家サマ、親父の親父の親父くらいからのオツキアイでなあ。拙僧のことも空却くん空却くんって生まれたときからずぅ〜っと可愛がってもらってんだわ。なんで無下には出来ないっていう」
「ああクソ!」
「ちなみに皆様方、獄が拙僧のカレピとご存知です」
「……ちょっと待て」
「孫が息子か弟かと可愛がってきた空却くんのカレピが酢豚のパイナップルが嫌い?そんな男に空却くんはやれません!だそうで、負けると拙僧とは破断になります」
「はあ?!」
「だ・か・ら絶対勝ってねダーリン♡」

 これまでも空却と付き合う上でハードルはあった。もちろん、檀家さんもそのひとつだった。
 由緒ある寺の一人息子で後継者、地域一帯で可愛がられた『空却くん』が十六も年上の男と添い遂げると聞いて、親本人より親のような人が山ほどいたのだ。
 だいたい片付けたと思ったのに、まだいたのか。しかも相性最悪のやつが。
 それでも負けることは許されない。自分の中のプライドと、こんなとこで負けたらDRB優勝なんざ夢のまた夢だなと、ボソリとつぶやいた恋人のために。
 負けられ、ないのだ。

2021/02/11


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