匂わせsweetie

 2月と言えば

「節分だろ」
「ウソっすよね?」

 カップルの一大イベントといえばクリスマスそしてバレンタイン。
 なのだが。カレピ持ちの師匠ときたら耶蘇のことなぞ知らん知らんと寺の縁側で尻をかいている。
 そういえばクリスマスも特になかったような……そうだクリスマスは自分のライブに二人を呼んだんだった……。
 それでなんとなくうやむやになっていたけれど、そんなまさかである。

「ああっ!でもさっき檀家さんにチョコもらってましたよね?!」
「お布施はありがたくいただくもんだろ」
「絶対違いますよね!?くうこうくんバレンタインのチョコ〜!って言われてたの見たっすよ!」
「十四の分もあるぞ。変な話し方のイケメンのおにいちゃんにって」

 ほらよ、と差し出されたチョコはちょっといいブランドの詰め合わせで、十四を意識してかゴシック調のメッセージカードが添えられていた。
 "十四くんが来てから空却くんがとても楽しそうです。ありがとう。バンド頑張ってね。"
 熱狂的なファンレターとはまた違う、あたたかい心のこもった手紙につい頬がゆるむ。
 これからバレンタインライブを控えているが、本当に十四を恋人にしたいーいわゆるガチ恋勢ーからの贈り物は少し気が重い。食べ物はお断り、金券や高額の品物も。知名度が上がるとともに、どれだけ貢いだかを競い合うようなファンがほんの一部とはいえ出てきた。獄に相談して、幸い相談ですんだが、あわやという状態だったのだ。

「獄さん、チョコもらうのかな……」
「獄はもらわんぞ」
「それってやっぱり……」
「獄はな、いつだかハムが好きってバレて、中元歳暮とハムを貰いまくって、配送業者に『ハム(を貰う方)の人』とこっそりあだ名をつけられ、ついに直接『こんにちは!ハムの弁護士さん!』と言われてから虚礼廃止を掲げてんだよ」
「うわあ……」

 だからよっぽどでもなきゃそういうもんはもらわん、だそうで。なんとも色気のない話である。
 二人がカップルとは思えぬ雰囲気でいてくれるのはありがたいし、たまに恋人らしいムードになると落ち着かない。でもイベントごとは好きだし、二人の知らない面が見えるからそういう話を聞くのも好きなのだ。

「ま、ハム事件のおかげでスッキリしたとも言ってたな。それこそチョコも死ぬほどもらってたし」
「あ、やっぱもらってたんすね」
「おモテになるからなアマグニセンセは」
「カッコいいし弁護士っすもんねぇ……大変そう……」
「趣味でもねえもんもらっても無下にできねえってよく言っとったわ。つうかそれで言ったら十四、一番大変なのお前だろ」

 そう、今日はバレンタインライブ……。
 好意は、嬉しいのだ。本当に。
 思わず重い息がもれる。

「本当に十四達が好きならちゃんと約束守ってくれるだろ。そうじゃないならひとりよがりなだけだ。ピシャッと断りな」
「うう……頑張るっす」
「しゃんとしろ!お前がしっかりしねえと約束守ってくれてるやつが嫌な思いすんだぞ」
「はい!」

 励まされて、背筋が伸びる。
 師匠はめちゃくちゃだけど、やっぱりすごい。
 そういえば一つ、気になることがある。

「獄さんが虚礼廃止って言い出したのいつ頃っすか?」
「ん?一、二年くらい前か?たしか拙僧が十八になったくらいだったから……」
「そうっすよね。数年前にハムのお裾分けもらったことあって」
「ヒャハ、拙僧ももらったわ」
「けっこう高級なやつだったから何度も確認しましたもん。本当にいいんすかーって」
「たしかに、すっげえ美味かったよな。惜しいことしたかな」
「自分じゃ気軽に買えないお値段っすよねー」

 そのままハムの話をして、頃合を見て寺を出た。
 話題のせいかなんとなく小腹が空き、もらったチョコを一つ頬張る。
 甘く、口の中でとけるそれはコンビニで買うものよりもずっと香りも味も濃厚で、すぐお腹いっぱいになった。

「それにしても、惜しいことしたかなって……」

 問い詰めたところで絶対教えてくれないだろうけれど、十四は見逃さなかったのだ。
 言った後、ほんの少しだけしまったという顔をしたのを。
 チョコをもらっていた話をするときの興味なさそうにみせかけた面白くなさそうな顔を。
 なんとも甘い裏話がありそうだが、それはまた今度、不在だった方に問い詰めよう。
 恋人のかわいい話をすれば、きっと簡単に釣れるだろうから。

2021/02/14


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