香りたつsweetie
「ほれ」
そう言って、あきらかに節分の残りの豆パックを渡されるバレンタインにももう慣れた。
いわゆる『恋人のイベント』にはのらないが、本当に興味がないわけではない。だって、そういう時期に獄がもらう贈り物を見て面白くなさそうな顔をしていたのだから。
けして素直には言わない。そういうのがカッコ悪いだとか子供っぽいと思っているのかもしれないが、目でバレバレなのだ。生意気でかわいくない口と反対に、正直すぎるほどに『気に入らない』と書かれた顔と目に、不覚にもきゅん、としてしまった。
だからハムの件を隠蓑に受け取り拒否体制を整えた。多少なりとも惜しいと思わなかったわけではないが、贈答品をもらわないことにする、と伝えたときの顔から滲み出た隠しきれない歓喜に再びきゅん、と胸が弾んだ。
人のことをよく見ている恋人が、獄がそういう仕草に弱いと知っている可能性は十分にある。それもふくめてかわいいと思ってしまったのだからしかたない。
常々、本当に大事なところでは獄の好きにしろと選択肢を委ねるかわり、自分の選択肢も譲らない空却のわずかなエゴが愛おしい。なにより恋人の嫌がる顔が見たいなんて悪趣味、持ち合わせていないのだ。
「獄」
そっけなく渡された煎り大豆をぽりぽりと食べきった頃、熱っぽい声で呼ばれる。顔をあげればくちづけを、その先をねだる恋人がいた。
おかげさまで、毎年チョコレートより甘くていいものがもらえるので万々歳である。
2021/02/15
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